8話 公爵夫妻大暴れ?
フィル王国の王都へ向けて飛び箱を飛ばし始めて2時間ほど経った頃、エコに声をかけられた。そろそろ速度を落としてほしいと。僕は皆にそのことを伝える。
「皆さん、そろそろ目的地周辺なので速度を落とします。止まったところで辺りを見回して目的地を探します」
僕がそう伝えると、スピナさんとフィーリさんは2時間ほどで国境門から王都近くまで移動したことを半分信じられない様子だった。でも、本当ですよ。きっと外を眺めれば遠くに王都が見える距離までは来ていますから。
飛び箱が停止したところで、僕はくちばしを跳ね上げる。皆が手すりにつかまりながら、辺りをきょろきょろ眺めはじめる。フィーリさんが1点を指さしてあそこですと教えてくれた。僕も目視で確認して飛び箱をそちらの方向へ向ける。前進させつつ高度も落としながら進む。そこは騎馬の訓練をするための練兵場で広大な敷地なのだそうだ。厩舎と思われる建物が見えたので、その建物近くに降りることにした。地上に近づくと、もう馬車も到着しているのが見えた。飛び箱が着陸したところで後ろの出入り口を開く。皆さんには先に降りてもらい、僕とアスカがイスとテーブルを片付ける。
僕とアスカが飛び箱の外へ出ると、レイナさんとリニアさんは飛び箱の出入り口近くで警戒態勢。フィル王国の関係者の皆さんは右腕を胸につけてのお辞儀をしていた。
「皆さんの出迎えに感謝します。私はメリオス王国から特使として派遣されてきた、公爵のグランと申します。隣にいるのが妻のアスカです」
僕が挨拶をすると、1人スピナさんだけが僕の前に歩み寄り挨拶を始めた。
「私はスぺイス侯爵の娘で王国魔法士団に所属しております、スピナと申します。公爵様と奥方様を王宮へご案内させていただきます。馬車にも同乗させていただきますので、よろしくお願いいたします」
挨拶を終えたスピナさんが先導してくれて馬車まで案内してくれる。僕が先に乗りアスカの手を引いて馬車に乗せる。その後スピナさんにも手を貸すが、スピナさんは恐れ多いと手を出さない。僕が「これがメリオス王国流です」と伝えると、しぶしぶ手を取ってくれた。
僕たち3人が馬車に乗ると扉が閉められる。レイナさんとリニアさんにも馬が与えられ、僕たちの乗る馬車の左側についてくれた。一方の右側にはフィーリさんともう1人の兵士が横についていた。その他多くの騎士が馬車の前後を取り囲み、万全の態勢で馬車が進み始める。最近は飛び箱ばかりに乗っていたので、馬車に乗るのは久しぶりだった。やはり乗り心地はあまり良いものではなかった(笑)
馬車で1時間もかからない距離とのことで、かなり王都から近い場所まで飛び箱で飛ばせてくれたようだ。
残念ながら僕たちの移動は予定通りにはいかなかった。隣国から珍しい品を手土産に、偉いお方が王都に向け馬車に乗って来られる……これはもう、盗賊団にも名を上げたいチンピラたちにも、一世一代の大チャンスです。これは読者の皆さんお楽しみの襲撃イベントです。
馬車の窓から外を見ると、噴煙を上げながら一定の距離をとって並走されている。走る馬車を襲われる方が危険だな。アスカもそう判断したようで僕の手を握る。僕は馬車の窓を開けて、横で護衛しているレイナさんに声をかける。
「レイナさん、移動したままでは危険です。馬車を安全に停止させてください。とにかくスピナさんをお守りすることを最優先にしてください。また、盗賊は殺してはいけません。生け捕りにしましょう。私と妻も外に出て戦うので心配はいりません」
「かしこまりました」
レイナさんは僕の指示でフィーリさんと協力して馬車を停止させてくれた。僕とアスカが外に出ようとするのをレイナさんに必死に止められる。逆に僕とアスカはレイナさんは絶対に馬車から出ないでと言いつけておいた。
僕とアスカは馬車を降り、馬車の扉を閉じる。僕たちがどこに布陣するのか考えなくては……馬車の上に乗ってしまおう。アスカもそれに賛同してくれたので、僕はアスカの腰に手を回し、魔法の手で馬車の屋根を掴み馬車の天井へ乗った。周りを見回すと僕たちを中心にくるりと取り巻く集団と、応援の兵を寄せ付けないように前後の道を警戒する集団の3つが見えた。
「アスカ、飛び道具から片付けていくよ。アスカは飛び道具の攻撃からの護衛をお願い」
「はい、旦那様」
僕は弓を持つ盗賊を見つけては、魔法の糸で肩を射抜く。片腕では弓は射れないからね。たまに矢が飛んでくるけど、アスカが剣で撃ち落としてくれる。僕は矢を射た盗賊を魔法の糸で攻撃。しばらく飛び道具からの警戒と攻撃を繰り返していると、ざっと見る限り遠距離攻撃は止められた感じ。遠距離攻撃が防がれた盗賊は、次に馬を突撃させてくる。馬には気の毒だけど、馬は魔法の糸の攻撃で簡単に倒れてしまうので、これは気軽に防げる。馬は前の馬が倒れると、後ろの馬が巻き添えを喰ってしまうことが多く、バタバタと人と馬が倒れていく。そして、倒れた馬も人もすぐには立ち上がることができない。
僕は大声で号令をかける。
「フィル王国の兵の皆さんは、攻撃してくる敵に警戒しつつ、倒れた敵を捕縛してころがしておいてください。フィル国王への手土産にします」
「おう!」
辺りを警戒していたアスカが、ひときわ立派な鎧を着ている盗賊を見つける。
「旦那様、あれが親玉でしょうか?」
「そうみたいだ。あれは確実に捕まえたいね」
「少し距離がありますが、どうしますか?」
「飛び箱に乗って熱湯をかけようか。騎乗のフィル王国兵についてきてもらおう」
「はい、良いお考えです。旦那様」
僕とアスカはリュックから飛び箱を取り出すと、飛び箱に乗り込む。上から見ると戦っている兵と馬車を守っている兵がいた。馬に乗る兵に僕たちについてくるようお願いする。
僕は馬の侵攻を塞ぐように立ちふさがる盗賊に、熱々の熱湯シャワーをお見舞いする。もちろん屈強な盗賊たちも、熱い熱いと言って転げ回る。アスカが盗賊を気にせず馬を進めるよう馬上の兵に指示を出してくれる。兵はただただ僕たちについてくることを優先してくれた。
ようやく親玉と思われる盗賊に魔法が届く距離まで近づいた。僕はもちろん熱湯の雨。人は倒れ込み、馬は逃げ出しと酷い有様。フィル王国の兵が無事に捕縛したことを確認して、馬車の近くにつれてくるようお願いした。
僕とアスカが馬車に戻ると、馬車の護衛は戦闘にはおよんでいないとのことだった。僕たちはふたたび飛び箱にのり、苦戦しているフィル王国の兵の手助けに回ることにした。僕は苦戦している一画を見つけて、アスカにその場をお願いする。アスカは了解と言って飛び箱を降りた。僕は違う場所に移動し、上空から魔法の糸で攻撃して、兵を手助けした。
敵を切り伏せたアスカは、敵から奪った馬にまたがり、次の戦闘に向かった。僕もフィル王国の兵が有利な状況になれば、もう次の場所に手助けに移動する。
戦況がかなり好転したことを感じ、僕はさらに遠くを意識する。すると、王都方向の道から馬に乗った集団が駆け付けてくるのが見えた。敵なら厄介だし、味方なら待ち構えている盗賊を何とかしておきたい。僕は飛び箱を高速で飛ばし、乗馬の集団を注視した。立派なお揃いの鎧を着ている集団だった。どう見ても王国軍だ。僕は飛び箱に乗ったまま先頭を走る集団に声をかける。
「この先に待ち構えている盗賊がいるので倒しておきます。到着したら捕縛してください」
僕はそれだけ伝えると、飛び箱を盗賊の方へ飛ばし、魔法が届く場所までくると、熱湯の雨を降らせた。敵の集団に対しては熱湯は気軽で効果絶大なのです!
馬の集団が僕に追いついたので、熱湯のシャワーは終了。逃げ出そうとする盗賊は……いませんね、皆ゆであがっていました(笑)
僕はもう後は任せて再び飛び箱で辺りを見まわす。散発的な戦闘は続いているものの、もう王国兵の敵ではなかった。それを確認して、馬車に戻ることにした。
アスカはすでに戻っていて、アスカの横には取り押さえた親玉と幹部っぽい盗賊が転がっていた。僕も飛び箱を降りてアスカのそばへ。アスカに怪我がないことだけ確認して安心した。
念のためスピナさんにも立ち会ってもらって、尋問開始です。
「あなたが盗賊団の親分ですか?」
「……」
「しゃべっていただけないのはいいですが、お話ししてくれるまで熱湯をかけさせていただきます。よろしいですか?」
「……」
僕はため息をひとつ漏らす。そのため息と共にボスの肩のあたりに熱湯を降らせる。親玉はしばらく涙目で耐えていたけど、本当に熱湯をかけ続けられて口を割った。「俺が、この盗賊団をまとめていた」と。
「多くの人は捕らえたのですが、これだけの人数です。取り逃した人もいるでしょう。ですが、何人も逃がしはしませんよ。組織ごと丸ごと壊滅させます。私の妻を襲った者は誰1人、逃がさないのが私の流儀です」
スピナさんはそんな僕の姿を見て恐れおののいていました。まぁ、それが普通の反応ですよね(笑)僕の大切なアスカに手を出すなど言語道断です!




