131話 最後の戦い
僕とアスカはいつものように、イスとテーブル、かまどを2つ取り出して昼食準備に取り掛かる。アスカの討伐大成功に僕は何かおいしいものでお祝いしてあげたくなった。ここは得意のバターたっぷりオムレツといきましょう!
料理が完成しテーブルに着席。いただきますの挨拶で食事を始める。アスカは大好物のオムレツにニコニコしていた。
「アスカ、この後はどうしたい?」
「ボスを倒して進みたいです。できれば40階層まで……」
「白いボスも大丈夫そう?」
「旦那様のリングが通用したので、私の剣も大丈夫だと思っています」
「昆虫のようなボスはどう?」
「はい、特に不安はありません。攻められる前に倒してしまうつもりです」
「それは頼もしい発言だけど、十分に気をつけて戦ってね」
「はい、旦那様。旦那様に心配をかけるような戦い方は控えます」
うーん、そもそもアスカ1人でボス戦に挑んでいること事態がとても心配なんだけどね。でも、そのことは自信満々のアスカにはとても言えないな(汗)
昼食の後はボスとの連戦が始まった。アスカは左手で攻撃を受けて右手で倒したり、隙があれば攻撃を受けることなく右手で倒したりと、まったく危なげがなかった。アスカには余裕があるし野営をするには少し早い時間だったけど、僕は37階層のボスとの戦闘の後に野営をすることを提案した。アスカは特にこだわりなく、はいとだけ返事をしてくれた。
食事の前にお風呂に入って汗を流す。夕食は鶏肉を香草で焼いて手間をかけました。僕が魔法の手で器用に料理をしているのを、アスカは横で感心した眼差しで眺めていた。焼き上がりになるとアスカがお皿を用意してくれて、僕はフライパンからお皿に盛りつける。アスカの好きな固めのパンとチーズを何種類か出す。スープはトマトベースの野菜のスープ。時間に余裕もあるので、赤ワインも用意してゆったりな食事を始めた。
「アスカ、新しい戦闘の成功、おめでとう。素晴らしい戦いで見惚れてしまったよ」
「ありがとうございます。旦那様に褒めていただいて、とても嬉しいです」
2人でマグカップをコツンとあてて食事が始まった。お酒を飲んで料理をつまんで、もちろんたくさんのおしゃべりをしながら。2人でニコニコしながらの楽しい食事です。
「これから王宮で生活したり、赤ちゃんを授かって家族が増えると、2人きりで食事をする機会は減ってしまうかもしれないな」
「確かにそうかもしれませんね。でも、私は心配していません。旦那様が仕事に慣れて、子供たちも成長して巣立っていけば、また、私たち2人だけの時間がたっぷりとれるようになります」
「どんな生活が待っているのか見当もつかないけど、僕は不思議と冷静になれてきた。きっとどんな状況でも、隣にアスカがいてくれるから」
「はい、ずっと旦那様の隣にいます」
食事を終えた後もケーキと紅茶を用意して、ダンジョン内の穏やかな夜を楽しみました(笑)
翌日は野営の片づけを済ませると、すぐに飛び箱に乗って38下層へ。ボスはすぐに見つけることができた。初戦では死にそうになるほど苦戦したボスを、本当にアスカが1人で討伐できるのか、僕はドキドキしながら見守っていた。一方のアスカはとても冷静でボスを見据えている。ボスが剣を振りはじめ戦闘が始まった。だが、ボスの剣はアスカの剣にあっさりはじき返され、ボスの隙ができたところにアスカの突きが放たれる。ボスはあっさり光の粒となった。
アスカは昨日と変わらず、剣を鞘に収めて戦利品を持って僕のところに戻ってきた。でも、僕はダメだった。アスカをぎゅっと抱きしめて、しばらくアスカから離れられないでいた。アスカは僕を落ち着かせるよう、子供をあやすように背中をトントンと叩いてくれていた。
「アスカが死を覚悟して、僕の右腕に傷を負わせたボス。大丈夫だとは信じていても、やっぱりとても心配だった」
「いつも私のことを心配してくださる旦那様が、私は大好きです」
「ありがとう、アスカ。僕もアスカが大好きだよ」
僕はアスカの言葉に冷静さを取り戻して、アスカから離れた。そして、しっかりアスカを見つめて、討伐おめでとうとだけ伝えた。
この後、39階層のボスはアスカが1人であっさり倒した。いよいよ40階層となって、僕は1体のボスはリングで縛ってから、もう1体をアスカが討伐することを提案した。アスカは僕がそれで安心できるならと受け入れてくれた。
40階層で最初に見つけたボスに、僕はリングを使って縛り上げる。リングから逃れようともがくボスに向かってアスカが歩み寄り、2度の突きであっさり討伐した。もう1体はサーチで探しても見つからなかったので、階層中央へ向けて飛び箱を飛ばす。ボスを発見したことろでボスに近づき飛び箱を降りた。
アスカは1人で剣を抜きつつ歩み寄り、ボスの斧が振り下ろされる。アスカが左手の剣で受けると、斧は弾き返されボスはよろけて隙が生まれる。アスカが人とも思えぬ速度で駆け寄り、右手の突きで戦闘が終わった。僕はアスカのそばへ駆け寄り、アスカの手を取った。
「見事だったよ、アスカ」
「今回は私のわがままに付き合ってくださり、ありがとうございました。剣士としての精進はこれからも休むことなく続けていきますが、私の冒険者としての生活はいったんお休みにします。ここまでの冒険者としての成果を得ることができたのは、旦那様のおかげです。心から感謝しております」
「ううん、アスカがひたむきに剣の精進を続けてきた賜物だよ。僕なんかちょっとしたアドバイスをした程度。これからもアスカの剣士としての成長を横で見守っていくからね」
「はい、旦那様。私も旦那様の魔法の成長を楽しみに見守らせていただきます」
40階層でぽつりと2人きり。さて、これからどうしようかと迷ったけど、地上に戻ることにした。少し遅い昼食にはなってしまうだろうけど、僕たちは次を見据えて行動をすることにした。ダンジョンとはしばらくお別れです。




