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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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129話 父上への報告

 メティスさんとヒメミさんとは、引っ越しが可能になったら連絡をもらうことにした。メティスさんの話しではお部屋に仕える人の人選もあるので、数日時間が欲しいと言われた。僕たちも引っ越しの準備や挨拶もしたいので、お互いに連絡を取り合って引っ越しの日を決めることにした。それだけ決めれば、僕とアスカはお部屋の支度をお願いしますと伝えて、屋敷に戻ることにした。


 貴族街の門を通り過ぎた後でも、僕たちは皆さんの邪魔にならないように飛び箱で移動した。身なりも立派だし、不思議な乗り物にも乗っているしで、僕たちに気付いた人は、わざわざ通り道を空けてくれた。屋敷までもう少しという距離で、アスカに声をかけられた。



「旦那様、お父様に王宮でのお話しをお伝えしたいのですけど……」



 うむ、確かに父上には早くお伝えしておくのがいいな。



「それならアスカ、屋敷に寄ってセリエさんも誘って、3人で父上の屋敷に伺うのはどう?話しが1度で済むし、皆さんの疑問にも答えられる」


「それはいいお考えです。では、1度屋敷に戻りましょう」



 方針も決まって屋敷に向かう。屋敷の門をくぐり抜けて玄関前で飛び箱を降りる。僕たちのただいまーの声を聞いて、セリエさんが玄関に出迎えに出てきてくれる。すると、立派な身なりの僕たちを見て、セリエさんはあわわってなっていた(笑)



「セリエさん、国王陛下から新しいお役目を任されました。そのことを父上にお伝えに行くのですが、セリエさんも父上の屋敷に同行をお願いします。セイラさんも含めて皆さんに報告をしますので」



 セリエさんは大急ぎで支度を整えて、手土産まで用意してくれた。さすがはセリエさん!こうして、3人で隣の父上の屋敷を訪れるのでした。




 玄関で大声でこんにちはと伝えると、セイラさんが出てきてくれた。セリエさんと同じで立派な身なりの僕たちを見て、セイラさんもあわわです(笑)


 居間に通されると、セイラさんとセリエさんはお茶の支度に部屋を出て行った。代わりに父上が書斎での用事を終えたようで、居間にきてくれた。僕とアスカは立ち上がって、父上に挨拶する。



「父上、急にお伺いして申し訳ありません。国王陛下から新しいお役目を任されたので、父上に報告にきました」


「うむ、立派な制服も賜ったのだな。それだけ重要なお役目ということか」


「はい、とても重要なお役目です。公爵に任命されました。それと母が先代グリス侯爵様の娘と認められ、私はフィーネ伯母上の甥となりました」


「それは、王国の重要人物として認められたということだな。ただいきなり公爵家とは、貴族を飛び越して王族ではないか。いったい何をしてそれほど国王陛下に認められたのだ?」



 僕はここ最近の出来事をざっと父上に報告する。ダンジョンでの38階層、39階層、40階層のボスの討伐に、空飛ぶ魔道具と毒の魔法を使ってボスを討伐したこと。新しい魔道具のランタンを作成したこと。ミスリルの鉱脈と思われる場所を見つけたけど、ミスリルの鉱脈は僕とアスカしかたどり着けない場所だったこと。そして最後に、フィーネ伯母上の依頼で王国魔法を詠唱したこと。



「確か2人に最後に会ったのは、国王陛下にクラン連合のダンジョン攻略報告と、グランの退院のお礼に伺ったときだったな。その後2人でそれだけのことをやってきたのか……」



 父上が顎に手をあてながら、上目遣いに天井の1点を見つめている。何やらお考えのようだ。ちょうどそのタイミングでノックされて、セイラさんとセリエさんがお茶の支度をして戻ってきてくれた。紅茶にフルーツのタルト。フルーツのタルトはセリエさんが手土産に持ってきたものだろう。考え込む父上をよそに、皆は紅茶とタルトに手を伸ばす。うん、おいしい!新鮮なフルーツが格別です。皆さんもうんうんと頷きながら、2口目を食べ始める。そこで、父上が唐突にお話しになる。



「グランとアスカは、いつ引っ越すのだ?」


「引っ越しの日はこれから決めることになっています。お部屋に仕えてくれる人たちの人選があるそうです。私たちも挨拶をしたい人たちもいますし、何よりも心残りが……」


「グランとアスカが最も気にしているのはセリエさんのことだろう?セリエさんはこの屋敷に住んでもらえばいいだけだ。ここなら2人がセリエさんに会いたくなったら、気軽に立ち寄ることもできるからな。2人もそれなら安心だろう?」



 僕とアスカがセリエさんとの別れに気落ちしている間に、父上がセイラさんとセリエさんに今回のことについて説明を始めた。僕とアスカが公爵というとても重要なお役目を任されたこと。それに合わせて、王宮の中に住まいを賜ったこと。セリエさんはこの屋敷で、セイラさんと2人でお手伝いさんとして住み込みで働いて欲しいこと。


 セリエさんは僕たちが出世したことをとても喜んでくれた。僕たちの屋敷の後片付けを急いで始めないととか、セイラさんにも手伝って欲しいとか。明るく振る舞ってくれた。僕は情けなくて涙が出てくる。



「セリエさん、ごめんなさい。3人でずっといっしょに暮らしていこうと約束したのに……」


「何を言うのですか、グランさん。国王陛下に認められるほどの活躍をされて、その結果の重要なお役目なのです。立派なご出世をされたのです。私は一生、お2人のお手伝いさんをしたことを、自慢して生きていきます。それにお別れではありませんよ。私はずっとグリムさんのお屋敷にいます。ここはお2人のご実家です。いつでも帰ってこれて、いつでも会うことができるのです」



 アスカが僕の頭を撫でながら慰めてくれていたけど、そのアスカも目から涙が溢れていた。お別れは悲しいけど、いつでも会えると納得するしかない。父上が面倒を見てくれるのなら、これ以上の安心な環境もない。ここは皆さんの優しさに甘えることにしよう。




 お茶を飲み終え、僕とアスカが落ち着きを取り戻したところで、屋敷に戻り引っ越しの準備を始めることにした。とは言っても、王宮にはほとんどの物が揃えられていたから、特に何を持っていく必要もない。自分たちの私物くらいのものだ。屋敷の物はセリエさんとセイラさんに掃除と処分をお願いしておけばいいだろう。


 僕は引っ越しのことをあれこれ考えていると、アスカがとても言いにくそうにしながら僕に話しかけてきた。



「旦那様、大変申し上げにくいのですが、私のわがままを聞いてください。引っ越し前にダンジョンに同行してほしいのです」


「ダンジョンに行くことはもちろん問題ないけど、引っ越しを控えているのに、どうしてダンジョンに行きたいの?」


「旦那様から教えていただいた、飛び箱の魔法と分解の魔法。それを使用したボスとの戦闘を試してみたいのです。公爵となる旦那様は大変忙しくなるようですし、私も赤ちゃんを授かり子供を育てることを真剣に考えたいと思います。ですので、この試みを集大成として、しばらくはダンジョン攻略から離れて家族のために生活したいと考えています」


「そうなんだ、アスカはもう家族のことを考えてくれていたんだね。うん、ダンジョンに行こう!次にアスカと2人でダンジョンに行けるのなんて、何年先になるかも分からないから。僕も最後にアスカと2人でダンジョンに行って、王宮に引っ越したら自分の仕事に集中する。しばらくは2人で冒険者はお休みだ」


「ありがとうございます、旦那様。私のわがままを聞いていただき嬉しいです」



 アスカが僕に抱き着いてきた。僕も左手をアスカの背中に回して、しばらく2人で抱き合って過ごした。


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