127話 僕たちのこれからは?
僕はようやくひと息つけたけど、休憩は長くは許されず、今度は宰相様から質問をされた。
「王妃様に魔道具のランタンをお目にかけたそうですが、これはグランが作ったのですか?」
「はい、私が1から作りました。ガブリエル商会のガデンさんとゲイテさんのお知恵を借りて、製品化に向けて試行錯誤をしていく予定です」
「魔方陣のための布や糸はどうやって手に入れたのですか?」
「宰相様、私が外部記憶装置で読んだ本には、魔方陣用の布と魔インクを使うと書かれていたのですが、王国では別の方法があるのですね。私は何も持ってはいないので、魔方陣はダイヤモンドで作りました」
「ダイヤモンドで魔方陣……うーん、理解に苦しみます」
「改良前の試作品がもう1つあるので、それをお見せすることにしましょう。国王陛下、ご許可をいただけますか?」
国王陛下がよしと頷かれたので、僕はヒメミさんにお願いしてリュックを持ってもらう。リュックからランタンを取り出し、バストンさんにワゴンをお借りした。僕はワゴンの上にランタンを横向きに寝かせて置いて、準備が完了です。僕は国王陛下の前にワゴンを押していく。
「皆さま、お手数をおかけしますが、見える位置にお越しください」
皆さんが各々立ち上がったり移動したりと位置についた。皆さんがお揃いになったので、僕は魔法で変形させて外装を切り開いてしまう。そして中のダイヤモンドの魔方陣を手に取ると、国王陛下にどうぞとお渡しする。国王陛下は上から見たり横から見たりして王妃様へ、王妃様がご覧になった後は宰相様へお渡しになる。最後に宰相様が僕に魔方陣を返してくれた。
「では、実際に光らせてみましょう。アスカ手伝って」
アスカが発光石と魔方陣を持ってくれる。僕は上から魔力石を魔方陣の上にのせる。すると眩いばかりに発光石が光りはじめる。これには周りの皆さんもおおっと声を漏らされていた。しばらくお見せしてから、僕は外装を元に戻して発光石と魔方陣を外装の中に入れて片付け終了です。
皆さんも席に戻ったので、僕たちもリュックにランタンをしまって席に戻った。
「フィーネからも聞いたが、グランとアスカ、ガデンとゲイテの4人で魔道具の研究と量産への検討を進めたいそうだな……残念だがそれは許可できん。これは1商会が開発販売してよい品ではない」
「かしこまりました。では、魔道具の開発については封印いたします」
「グラン早まるな。商会ではダメだと言っておるのだ。王国公認の機関としてなら許可を与えてやる。その機関に4人で所属すればよかろう。もちろん、ガデンとゲイテは今の商会を、グランとアスカは冒険者を続けながら、機関に所属してくれればいい。機関をどうするかを決めたら4人を招集する。それまでは4人でこっそり開発を進めてくれ」
「かしこまりました」
今日の昼食はコースではなく、お皿に少しずつ何品も料理がのせられている形式。このお皿が3皿置かれていて、それぞれのお皿に別々の料理が用意されている。これは食事にもおつまみにもいけそうな昼食です。僕もアスカもようやく食事を始める。国王陛下と王妃様が何やらお話しをされていたけど、僕は食事に集中していた。でも、僕はまだゆっくり食事をすることが許されなかった。
「グランに申し付けておく。アグリはフィーネの母違いの妹とする。よってグランはフィーネの甥となり、先代のグリス侯爵は祖父となる。フィーネのことは今後は伯母と呼べ。グリス侯爵のことは……」
すると、横から王妃様が教えてくれる。
「おじい様と呼ぶのがいいでしょう。お父様もお喜びになるでしょうから」
僕はあまりのことに、ポカンとダメな子顔になっていたようだ。隣のアスカからつんつんされて、ようやく正気を取り戻す。
「宰相はグランを公爵にせよと言っている。公爵は王族に属する身分で、他の貴族よりも身分は上だ。どうだ、王族になるか?」
僕はただただ首を横に振る。何か代替え案を出さないと、王族にされそうで怖い……
「国王陛下、元孤児の私が、先代グリス侯爵様の孫で、身分は公爵様になれと……あまりにも無理なご要望ではありませんか?国王陛下へのご協力は全力でさせていただきますが、公爵様はさすがに私では荷が重るかと……」
僕のトホホな顔を見て、国王陛下もフィーネ伯母上も宰相様も大笑い。アスカまで笑いを堪えているよ!(涙)
そんな僕にアドバイスとくれたのは、宰相様だった。
「グラン、公爵とは国王陛下ご家族に次ぐ高い位で、その位はどの貴族よりも上となる。それだけ高い位となるため、王位継承争いの火種になることもあった。そんな過去の負の歴史を繰り返さないために、公爵家は文化や芸術、工業製品の開発に力を注ぎ、政治の世界から一線を引いて活動される方がほとんどだ。先代のアズミ公爵様もダンジョンの探求を第一のお役目として励まれていた。貴族と違い決まったお役目はないため、己の考えで王国に貢献するのが公爵の仕事となる。アズミ公爵様の意志を引き継ぎ、ダンジョンの探求を進めるという名目であれば、今のグランとアスカの生活とそれほど変化はないと考えている」
うーん、宰相様の言われることはごもっともなのだけど、それにしても王家の次に偉い人ですよ。あれ、でも考えてみると、僕は先代グリス侯爵様の孫で、王妃様の甥になるのだったか。ダンジョンの探索と魔法の探求と魔道具の開発なら、今までの生活とあまり変わらない気もするな。いやいや、そもそも王宮に住むんだよね?気軽に庶民街に行けなくなる?いったいどうなってしまうのか……
僕があれこれ考えていると、アスカが僕にエコ経由で話しかけてくれた。
『旦那様、国王陛下と王妃様。それに宰相様からのご命令です。逃れることはできませんよ。それに旦那様なら、立派に公爵家の役目を果たせると私は信じています。もちろん、私も全力で協力します。きっと皆さまも協力してくださいます。皆さまの期待に応えられてはいかがですか?』
『アスカは父上たちと別れて、王宮に住むことに抵抗はないの?』
『今生の別れではありません。それに旦那様。旦那様が王都に来られてから、私たちは何度王宮に呼ばれたと思いますか?お父様が王宮にちょくちょく顔を出してくれます。それにダンジョンの探索のお許しがあるのです。ダンジョンに向かう途中で、お父様のお屋敷に寄ればいいではありませんか』
『アスカ自身は王族になるのに抵抗はないの?』
『もちろん不安はあります。でも、旦那様の大出世です。私はどちらかと言えば、立派になられる旦那様を誇らしく思う気持ちが大きいです』
『アスカにまで期待されているなら、引き受けない訳にはいかないか。国王陛下には母さんを静養所に住まわせてもらった恩もあるし、フィーネ伯母上やグリス侯爵家の皆さまにもお世話になった恩もある。そのお陰で僕は何不自由なく母さんに育ててもらった。皆さまへの恩返しになるか分からないけど、お役目を引き受けてみるよ。僕は自分のできることを精一杯頑張ってみるから、アスカも協力をお願いね』
『はい、私もしっかり旦那様をお支えします。2人で協力して王国のお役に立っていきましょう』
僕は覚悟を決めた。どれだけのことができるのかは分からないけど、僕ができることで王国の利益になることをすればいい。何をしていくかは、今日のように皆さんと相談して決めればいい。自分1人の力だけではなく、皆さまのお力もお借りしていけばいい。それに僕にはいつも隣で支えてくれるアスカがいるのだから。
「国王陛下、フィーネ伯母上、宰相様。私に何ができるかは分かりませんが、自分のできることを精一杯勤め、少しでも王国に貢献したいと思います。母を静養させていただいたり、静養所に生活の支援までしていただいたり、私の命を救うためにご助力をたまわったり。多くの王国からの恩に報いたいです。公爵のお役目を謹んで拝命いたします」
皆さまが安堵の表情をされていた。アスカは目に涙をいっぱいにして、嬉しそうに微笑んでくれた。
その後は和やかな雰囲気で食事をしたのだけど、僕はどんな会話をしたのかも、食事の味すらも覚えていなかった。もう頭の中がグルグルです(汗)




