122話 高価な時計
しばらくガデンさんのお店で4人でお茶を飲んでクールダウンです。難しい話しが多かったですから(笑)
「私はガデンさんとゲイテさんを全面的に信用しています。なので、もう1つだけお2人に有益な情報をご提供します。ただ、ここにいる4人だけの秘密にしてください」
ガデンさんとゲイテさんはまたかという感じで神妙を顔をして姿勢を正した。僕はリュックをそばに寄せ、リュックからミスリルを出して机に並べる。とりあえず30個。
「ミスリルの鉱脈だと思われる場所を発見しました。ただ、人がたどり着けない場所なので、これも私の魔法でしか採取することができません。なのでお2人がミスリルが必要になったら私に相談してください。私とアスカで採取してきます。また、高レベルの冒険者にミスリルの装備を持つ許可が、国王陛下からいただけました。その内にガデンさんのお店に注文が殺到するでしょう。アスカの剣を作ってもらうときに、ガデンさんにはご苦労をおかけしました。今回の魔法で作った剣のようなものがお役にたつのなら、私も協力したいと思ってます。それと最後に、別荘のお礼としてこちらのミスリルはガデンさんに差し上げます」
ガデンさんはまたまた大きく目を見開いて驚き顔だ。
「冒険者にミスリルの装備の許可がでた……いや、それは後回しだ。グランさん、これだけのミスリルなら、あんなおんぼろ別荘などいくつでも手に入れられるぞ」
「私にはミスリルの30個より、ガデンさんに聞かせていただいた、剣の鑑定のお話しや魔道具のお話しの方がよほど価値のあるものでした。そしてお譲りいただいた別荘は、私とアスカには分不相応なほど立派な別荘でした。感謝の気持ちです、気にせず受け取ってください」
ガデンさんは困った顔をしていた。難しい顔のガデンさんをよそに、3人はまたお茶に手を伸ばすのでした。
「ゲイテさん、近衛兵団の皆さんがお持ちの時計は、ガデンさんのお店で作られているのですか?」
「ええ、ガデンが作っています。それがどうされました?」
「時計が欲しいと思っていたのです。ダンジョンに持っていくので、近衛兵団もお使いの時計なら頑丈で安心だと考えたのです。ただ、あまり高価だと手がでないのですけどね」
僕がアハハと照れ笑いをしていると、難しい顔をしていたガデンさんが横から話しに割り込んできた。ガデンさんは初心者にも分かりやすく時計について説明を始めてくれた。時計の心臓部は基本的には同じものが使われており、値段も耐久性も変わらないとのことだ。王国の時計の多くをガデンさんのお店の工房で作っているので、壊れても部品から作り直してくれるらしく、何年経ってもガデンさんのお店で修理をしてくれるそうだ。説明が終わるとちょっと待っていてくれと言われて、ガデンさんは席を外した。ゲイテさんは店の人に声をかけて、お茶を入れ替えるよう指示をだしてくれる。新しいお茶が用意されて、ゲイテさんに質問された。
「お2人は、王妃様とはお話しされましたか?」
「いいえ、まだです。今朝、王妃様のお側に仕えている女性から連絡があり、明日にお会いすることになっていますが」
「そうでしたか。王妃様がお2人のためにいろいろ準備をされていました。楽しみにしていてください」
何だろう、ゲイテさんは何やら知っているような口ぶりだ。まぁ、明日になれば王妃様から詳しい話しが聞けるのだろうけど……
ゲイテさんと話していると、ようやくガデンさんが戻ってきた。そして、僕とアスカの前に1つずつ箱を置いてくれた。僕もアスカも箱を開けると、中には時計がはいっていた。それも2つの時計は男女お揃いのデザインがされていものだった。銀色の金属製なので派手さはないけれど、宝石も埋め込まれた僕が見ても相当高価な時計であることは分かった。
「ガデンさん、とても美しい時計ですがこれは高価すぎです。私が買える品ではありません」
「いや、代金はいい。前金で受け取って作ったそうだから。その時計はあるお貴族様のご夫婦から注文をいただいて作っていたらしいのだが、そのご夫婦が不幸な事故でお亡くなりになってしまったそうだ。それからは店の倉庫にしまいっぱなしになっていた。もう100年以上も前に作ったものだから、売り物にするのは難しいし。それにこれだけ高価な品だと、お金持ちは自分の好みで作ってしまう。買い手を探すのが難しい在庫の商品ということだ。いわくつきの時計で申し訳ないが、2人が気に入ったなら使って欲しい」
僕は高価な品に困っていたけど、アスカはキラキラな目で時計を眺めていた。アスカがこれほど物に魅入られるのは珍しい。僕たちには少々贅沢過ぎる品だけど、アスカが喜ぶのなら何とかしてあげたい!僕はガデンさんの前に、僕の作ったアスカの剣、ゲイテさんの前にダイヤモンドの杖を差し出す。
「ガデンさん、ゲイテさん、私がお礼にお渡しできるのは、自分で作った剣と杖だけです。このようなものを代わりに差し出すのは申し訳ないのですが、この立派な時計をぜひ譲ってください。お願いします」
「それじゃ、お礼にならないではないか……」
そういうガデンさんも、ダイヤモンドの杖を凝視しているゲイテさんも、僕の差し出した品に興味津々のようだ。
「いつもお世話になっている、私とアスカからの感謝の気持ちです。これからも魔道具の制作で協力もして欲しいですし、ぜひ受け取ってください」
「分かった。ありがたく頂戴する。だが、お互いにこれで貸し借りなしとしよう」
「ありがとうございます。私たちもいただいた時計を一生大切に使わせてもらいます」
こうして僕とアスカは大喜びと感謝の気持ちいっぱいで店を後にした。アスカはルンルン気分で興奮気味なので、近くの広場に寄って屋台で買ったレモネードを飲んで落ち着くことにした。
「アスカが品物でこれだけ喜ぶなんて、初めて見たよ」
「はい、とても素敵な時計で、どうしても欲しくなってしまいました。旦那様とおそろいなのも、とても嬉しいです」
アスカはさっそく自分の腰のベルトに時計の鎖を繋いでいた。僕は時計は初めてなので、アスカの様子をじっくり見ている。アスカは自分の時計を付け終えると、今度は僕の時計を僕のベルトにつけてくれた。そして、お互いに手のひらに時計を乗せて、2人で並べて時計を眺める。アスカのうっとりした表情が可愛いな(笑)
しばらく時計を眺めていると、屋台のおじさんから閉店だと言われ、慌ててコップを返しにいった。そしてその足で、そのまま手を繋いで屋敷まで歩いて帰るのでした。




