120話 魔法の剣は合格です
王都までは飛び箱で最短距離を飛んだ。エコが方向を正確に伝えてくれたおかげです。王都近くで飛行はやめて、門までは飛び箱で地上を移動した。門を通過した後は、まっすぐリイサさんの店に向かった。
リイサさんのお店でランチを食べて店を出ると、いつものようにアスカと手を繋いでガデンさんの店を目指す。今日はこの後は特に予定もないので、とても気楽で散歩気分だった。アスカとたわいもないおしゃべりをしていると、すぐにお店に着いてしまった。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうのです。
ガデンさんの店に入ると、ケインさんが僕たちに気付いてくれて、声をかけてくれた。
「グランさん、アスカさん、いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件ですか?」
「ガデンさんにお会いしたいのです。お約束はしていないのですが、お会いしてもらえそうか確認をお願いします。今日は私が持ってきた剣と魔道具についてお知恵を借りたいのです」
「かしこまりました、少々お待ちください」
ケインさんは店の奥へ入って行くとすぐに戻ってきて、僕たちを個室に案内してくれた。ケインさんは廊下ですれ違った店員さんに何やら耳打ちして、すぐに応接室の扉を開けてくれた。部屋の中へ通され、ソファーに腰かけてガデンさんを待つ。
しばらくすると、部屋に入ってきたのはケインさんだった。驚いたことにお茶とケーキを用意してくれた。
「ケインさん、今日は商談ではなく私からガデンさんにお願いをしに来たのです。こんなおもてなしを受けるのは恐縮です」
「いいえ、お気になさらず。ガデンのお出しするようにとの指示ですから」
ケインさんはお茶の準備が整うと、また出ていかれた。僕とアスカは得した気分でお茶とケーキをご馳走になる。
「待たせてすまん、バタバタしていてな」
そう言いながらガデンさんが入ってきた。それに後ろにはゲイテさんもついてきていた。
「こちらこそ、お忙しいところをすみません。今日は剣と魔道具を見ていただきたくて伺ったのですが、ゲイテさんもご一緒なら嬉しいです」
「ああ。グランさんの頼みなら魔法がらみだと思って、ゲイテにも声をかけた。早速見せてくれ」
僕はお2人に時間をいただけたことにお礼を述べた。そしてまずは、リュックからミスリルの剣を取り出してガデンさんに手渡す。ガデンさんは受け取った剣を隅々までじっくり観察していた。
「アスカさん、すまないがアスカさんの剣も貸してもらえるだろうか」
「ええ、かまいません」
アスカは剣を鞘ごとガデンさんへお渡しする。鞘から抜いた剣を左手に持ち、僕の剣を右手で持ったガデンさん。2つの剣を並べて見始める。目が怖いほど真剣だ。
しばらくじっくり2本の剣を見比べていたけど、その後のガデンさんは、じっくり見ているのは僕の作った剣だけになった。隅から隅まで見た後は、じっくり1点を見る感じで、何か所かを確認していた。
見終えた後は、僕の剣とアスカの剣をガチンとぶつけて、音の響きや振動を確認していた。そして、僕の剣をゲイテさんに渡した。
「グランさん、この剣はその……とても不思議な剣だな。どうやって作ったのか想像することもできない」
「その剣は、ミスリルの塊から私が魔法で作った剣です。アスカの剣を真似て作りました。アスカに振ってもらったところ、使えない剣ではないとは言われたのですが、ガデンさんの職人さんの目で確認をして欲しかったのです」
その発言に、今度はゲイテさんがビクッとした。とても驚いたようだ。
「グランさん、ミスリルの塊を魔法で剣の形に変えたのですか?」
「はい、その通りです。失礼ですが、ゲイテさんは魔法学校を卒業されていますか?」
「はい、魔法学校卒業生です」
「それなら杖は作られましたね?」
「はい、作りました」
「この剣は杖なんですよ」
僕の発言に、ゲイテさんが目を真ん丸にして驚いていたけど、まだ理解できていない様子だ。お見せした方が早いかな?僕はゲイテさんから剣を預かると、魔法で剣を杖の形に変えて、ゲイテさんにお渡しする。ゲイテさんはおっかなびっくり杖を受けとり、しばらく眺めた後、ガデンさんに手渡した。ガデンさんはアスカの剣と僕の杖をガツンとぶつけて、さらに驚いた様子。
「私としてはこの魔法はとても単純だと思っているのですが、誰に説明しても理解してもらません。なので今のところ、ミスリルの塊から剣を作れるのは私だけのようです」
「それは助かる。皆が作れるようになったら、俺の店は店じまいだ」
「それで、ガデンさん。剣としてはいかがでしょう?」
「剣の形としては、俺の剣を真似ただけあってよく似ている……いや、ほぼ同じだ。並みの職人以上の出来栄えだと思っていい。そして剣は叩いて鍛錬するのだが、固さや強度を増していくために鍛錬する。鍛錬は俺の剣と同等かそれ以上かもしれない。俺には判断ができない。ただ、アスカさんレベルの達人が使って、違いを感じるかどうかのレベルだと思う。アスカさんはどう思う?」
「ガデンさんの剣は、私が勝てないと思った38階層のボスと戦った後でも、今日お持ちしたとおり、修理の必要もなくきれいなままです。私が使ってきた剣で最高の剣ですし、この剣を超える剣を今は必要と思っていません。それと、まだ国王陛下にもお話ししていませんが、40階層のボスを倒しても、この剣は今も美しいままです」
「40階層のボス?まぁ、いい。そうなると、グランさんの作った剣を不満に思う冒険者はいないということだ。俺が保証する」
「ありがとうございます。ガデンさんにそう言ってもらえて安心しました」
「グランさんはその剣を作り続けるつもりか?」
「迷っています。少なくとも、アスカの剣は私が作れたらと思っています。ガデンさんには申し訳ない言い方になってしまいますが、自分の最も大切な人には、自分の作った剣で役に立てたらと思うのです」
「うん、その気持ちは分かる。それでいいとも思う。俺にとってもアスカさんに剣の制作を任されていたのは職人の誉れだった。グランさんの剣を超える剣を作れるよう努力する」
「ガデンさん、私も理解できました。職人さんは長い年月の修行と工夫を続けて今の剣にたどり着いているのですね。そして、何代にもわたってその努力を続けてきたからこそ、アスカのこの剣にたどり着けた。私のたまたま見つけた魔法で、ガデンさんが精魂込めて作った剣を複製して、その流れを止めてしまうのは長い歴史の中で大きな損失になることが分かりました。私の魔法はアスカにだけ使うとお約束します。それだけは目をつぶってください。お願いします」
僕は立ち上がって、ガデンさんとゲイテさんに深々頭を下げる。2人は困った顔をしていた。
「そのだな、職人について理解してもらえたことはありがたい。そして職人を守る判断をしてもらえたのも助かる。なので頭をあげてくれ、俺の方が困ってしまう」
横でゲイテさんとアスカがクスクス笑っていた。僕はその笑い声を聞いて頭をあげて再び座る。とりあえず、ガデンさんのお墨付きをもらえた僕の剣。アスカに安心して使ってもらえそうです。




