113話 一生懸命学んでます
ダンジョンから戻ってきた翌日からの数日間、僕は屋敷で静養することにした。アスカとセリエさんに随分と心配をかけてしまっていたからだ。そうはいっても、ベッドで寝込んでいる訳でもないので、調べ物や勉強をしていた。もちろん、僕の相談相手はエコにお願いしている。
最初に調べたのは王都近辺でのミスリル採取の情報。アスカに教えてもらった王都北西の山のことは、エコで調べても昔からある程度の量が採れていたようだ。その他の情報はめぼしいものがなかったけど、僕が気になった情報が1つあった。倉庫街の先にある大きな滝の下流でミスリルを拾ったというものだった。あれだけの水量の滝だ。岩が削れて下流に流されることは十分に考えられる。滝から渓谷を海に向かって調査するのがいいかも。そのまま海までアスカを連れていけば、アスカの夢も叶えてあげられる。静養明けの予定はこれで決まり!
次の調べ物はダンジョンから持ち帰ってきた地面を構成していた3つの石の層。上の層はサンストーンと何かの石が混ざったような石なので、僕はサンストーンの純度を上げて、残りの石は別の塊にした。中間の層の白い石と、下層の透明な石……下層の石はダイヤモンドで間違いないだろうけど。この4つの石をエコに鑑定してもらため、僕はじっくり石を眺めることにした。
エコの鑑定結果は上の層はサンストーンとブラックマジカ。ブラックマジカは一般的には黒魔石と呼ばれているそうだ。僕が手にしている黒魔石は純度がかなり低いとも教えてもらった。中間層は発光石。これは人工的に作られた石。それほど珍しい石でもないようだ。魔力反応して白く光るそうだ。そして下層は予想通りダイヤモンド。ダンジョンはダイヤモンドの固い地面と天井として支える構造で、発光石で昼夜問わず明るく照らされている。となると、サンストーンと黒魔石によって魔力が発生しているということか。そういえば、エコにサンストーンのことを聞いたときは、まだ、猫をかぶっていた頃のエコだった。今ならもう少し教えてもらえるのかな?
『エコ、サンストーンと黒魔石の組み合わせについて書かれている文献はある?』
『以前のグランにはないと回答していました。現在の人類の文献では存在しません。ただ、過去の人類の文献には存在します。以前、グランに紹介した魔法の本と一緒の時代に作られた本で、魔方陣について書かれている本です。この本もファスフェル語で書かれています。その中にサンストーンと黒魔石を使用した文献があります』
『サンストーンと黒魔石の組み合わせは常夜灯のようなもに使われている?』
『はい、グランの言うとおりです。サンストーンと黒魔石の組み合わせは、強い魔力は発生しないかわりに、魔石の消耗が少なく長く使える利点があるようです』
『エコ、サンストーンも黒魔石も高純度なもので組み合わせれば、強い魔力を得られるかな?』
『高純度のサンストーンも黒魔石も自然界には存在しません。ただ、強い魔力を得られる可能性は高いです。また、魔石の劣化は激しいと推測されます』
『僕は魔法で高純度にすることはできるから、実験してみることはできそうだ……あれ、魔石の組み合わせで魔力を得ている魔方陣のことが文献には書かれているんだよね。それは魔法士でない人でも使える魔道具が作れるってこと?』
『魔力の供給源が魔法士か魔石かの違いだけですから、必要な魔力が得られれば魔道具は魔法士でなくても使えます』
『エコ、ダンジョンからはいくらでもサンストーンと黒魔石は採取してこれる。だから、この2つの石を使って魔法士でなくても使える魔道具を作りたい。もちろんどちらの石も高純度にして使うつもり。これからエコにいろいろ質問するけど、よろしくお願いするよ』
『はい、不明なことはとりあえず質問してみてください。答えられる範囲で協力します』
僕はエコに薦められて、サンストーンと黒魔石、それに発光石を使った魔道具の文献を見せてもらってメモに書き写した。火を使わないランタンが作れると、野宿のときには安全安心だもの!
最後の質問はアスカの魔力……アスカは気力だったか。僕は王妃様から賜ったローブやダイヤモンドの杖で魔力の回復が早くなった。アスカにも気力の回復をサポートするような魔道具があるのかを、エコに聞いてみた。
『エコ、アスカの気力回復を助ける魔道具はある?』
『気力は肉体と紐づく能力のため、基本的には休息です。ただ、薬のポーションや魔法のヒールでも回復します。ポーションは長年の使用で耐性ができてしまい、だんだん回復量が減る傾向があるようです。ヒールではそのような影響はないようです』
『なるほど、僕が回復魔法で回復させてあげるのが、アスカの体の負担もないということなんだね』
『ポーションもヒールも肉体の回復です。精神的な疲れは蓄積したままです。やはり疲労には体を休めることが1番です』
『エコの言うとおりだ。緊急の場合だけ僕が手助けする方向でやってみるよ。いろいろありがとう、エコ』
エコと話しているのだろうと察してくれていたアスカは、僕のことをそっとしておいてくれた。僕がエコとの会話を終え、アスカに声をかけたところで、アスカは編み物の手を止めてくれた。
「アスカ、休養明けはミスリル探しに出かけるよ。倉庫街の滝の下流にあるかもしれないんだ」
「滝の近くで採れるのなら、王都からも近くていいですね。飛び箱ならあっという間に着いてしまいそうです」
「確かにそうだね。時間が分かる魔道具でもあれば、距離からかかる時間が割り出せて便利なんだけど……」
「あら、旦那様は時計はご存じなかったですか?時計は時間が分かる機械なのです。とても高価ですが、お貴族様や大きな商店の店主さんならお持ちです。近衛兵団もある程度の階級の人には支給されていると思いますし、確かお父様もお持ちでした」
「そんな便利な機械があったんだ!僕の育ったビーゼ村では、持っている人はいなかったと思う」
「お貴族様のように凝った作りにしなければ、数ゴルで購入できます。旦那様が欲しいのでしたら、ガデンさんのお店で注文できますよ」
「うん、ぜひ欲しい。飛び箱の速度はある程度決まっているから、地図を見ればどのくらいの時間で着けるか計算できる。時計の購入のためにも、ミスリルは見つけてこないと!」
アスカにクスクス笑われたけど、僕は俄然やる気がでてきたのでした(笑)




