112話 冒険者レベル18
40階層でのボス戦を終え39階層まで無事に戻った僕たちは、まずは落ち着こうとなって、お茶を飲むことにした。チョコレートケーキも食べたくなったので、テーブルとイスも用意した。香りのいい紅茶と大好きなチョコレートケーキをいただいて、身も心もようやく落ち着きを取り戻せた。
「アスカ、これからどうする?今から帰れば、夕方前には地上に戻れると思うけど」
「旦那様が設置したトンネルでどのくらいの時間で戻れるのかも興味がありますね」
「それじゃ、このまま地上に戻ることにしよう」
お茶をお飲み終え後片付けを済ませ、僕たちは飛び箱に乗り込んで、これもアスカ命名のトンネルから地上に戻ることになった。僕は魔法でふたを変形させて通り抜け、通り過ぎればふたをするを繰り返しながら階層を上昇していった。途中でお昼ごはんを食べるかアスカと相談したけど、アスカは一気に地上に戻ってみたいと言ったので、そのまま上昇を続けることになった。
トンネルを設置した自分ですら驚くほどの速さで地上に戻ってこれた。たぶんお昼を少し過ぎた時間くらいだと思う。朝食とおやつのケーキをがっつり食べていたおかげで、それほど空腹にもならずに済んだ。それにお昼頃にダンジョン出入口には冒険者はいないので、飛び箱で出入口近くまで戻ってきてしまったのも早い到着に貢献した。それでも地上に戻ってきてまずやったことは、もちろんお昼ご飯を食べること。今日は市場近くで軽く食べることにした。僕は食事の後に寄りたいところがあるからだ。
食事を終えた後、僕は気乗りしていないアスカの手を引っ張って、無理やりギルドへ連れていった。そして冒険者レベルの更新をお願いする。僕の予想は当たりだった。僕とアスカは揃って冒険者レベル18になった。アスカと一緒に世界最強となれたのが、何よりも嬉しい。僕たちはギルドの職員さんにお礼を言いながらギルドを後にした。そして2人手をつなぎながら屋敷へまっすぐ帰ることにした。
「セリエさん、ただ今帰りました」
僕の声に厨房の方から慌てた様子のセリエさんが玄関まで駆け寄ってきた。
「お2人無事のお戻りで何よりです。でも随分と予定より早いお戻りでしたね」
「順調に予定を消化できたのです。2人で無事に戻ってこれてホッとしました」
僕とアスカは荷物を置くと、まっすぐお風呂に直行した。ダンジョンでもお風呂にははいれていたけど、屋敷のお風呂は格別だから!アスカと並んで湯船に浸かると、屋敷に帰ってきたって実感が湧く。
「アスカ、今回は僕のわがままに付き合わせてしまって、本当にごめん」
「右腕が不自由な中、自分で何ができるのかと心配になっていたのですよね」
「うん、これでもアスカの旦那さんだから、これからもちゃんとアスカを養えていけるか確認がしたかった」
「いつも私のことを想ってくれて、嬉しいです。今回は旦那様が考えていたことは、全部うまくいったのではないですか?」
「確かに今回は大成功と言っていいかも。でもアスカからみると僕のボスの攻撃方法は邪道だと思うのでは?」
「私は自分が剣士でありたいとは思いますが、冒険者ランクとか名誉とかこだわりとかは気になりません。私が私の剣に誠実であればそれでいいだけで、魔法による攻撃を軽視したりはしません。それよりも、旦那様が工夫を凝らし安全で確実な攻撃方法を生み出されたことを、私は誇りに思っています」
アスカがそっと僕の手の上に手を重ねる。それはまるで僕の今回の努力を誉めてくれているようで、とても嬉しかった。アスカにすっかり甘やかされていたら、普段より長湯になってしまいました(汗)
お風呂からあがった僕とアスカは、セリエさんを手伝いに厨房へ向かう。厨房に顔を出すと、セリエさんは2人はお疲れなのですから、食堂でお酒でも飲みながらのんびりしていてくださいと追い出される。でも、さすがはセリエさん。ちゃんとアスカに完成していたおつまみと取り皿を持たせてくれていた。僕たちはお言葉に甘えて、先に晩酌を始めることにした。
お風呂上りでもあるし、リュックから樽を取り出してビールを飲むことにする。2人分のジョッキにビールを注いで、すぐにアスカと乾杯した。
アスカがおつまみをお皿にとって、小さく切ってくれる。その横で僕は右手の指を動かしてみる……やはりピクリとも動かない。左手で右手を触ってみても、右手の感覚はまったくなかった。やはり右手の回復はそう簡単ではない。
「旦那様、右手はまだダメな感じですか?」
「うん、ぜんぜんダメだ。アスカにこんなに協力してもらっているのに、ごめんね」
「旦那様が謝ることではありません。焦らず気長にやっていきましょう」
僕を励ますように、アスカにお代わりのビールの注がれたジョッキを手渡される。僕は自分のジョッキとアスカのジョッキを魔法で冷やす。アスカが食べやすいように小さく切り分けてくれたおつまみを、僕は左手に握ったフォークで食べ始めた。
。
「旦那様、遅くなりましたが40階層のボスの討伐、おめでとうございます。乾杯」
「アスカ、冒険者レベル18、おめでとう。乾杯」
僕たちはジョッキをコツリと合わせて、お互いににっこりと微笑む。やはりアスカには笑顔でいて欲しい。僕はそんなことを考えながらビールをごくごく飲むのでした。
お酒とおつまみを楽しみながら、アスカとおしゃべりをしていた。そんな会話の中で、僕はアスカに相談した。
「アスカ、もう手持ちのミスリルがほとんどないんだ。近いうちに採りに行きたい」
「ええ、私はかまいません。旦那様は魔法で採取されるのですよね?」
「うん、そのつもり。だから人里離れた場所の方が都合がいいかも。どの辺で採れそうか、エコと相談してから行き先を決めるよ」
「近衛兵団は王都から北西の山で採掘しているそうです。なので、北西は候補から外してください」
リサさんの治療とミスリル探しはどちらが先か悩んだけど、ミスリルを先に探すことにしよう。リサさんの治療後は容体の急変の可能性も考えて、しばらくは王都内にいた方が安心だ。僕がそんなことを考えていると、ワゴンを押してセリエさんが料理を運んできてくれた。アスカが手伝いに立って料理を並べたり、お皿に取り分けてくれた。僕はセリエさんの分も含めて、ビールのジョッキにビールを注ぎ始める。各々が準備を終えて席につく。揃ったところでさっそく乾杯。楽しい夜の始まりです。




