25話 アグリ改造計画
4人で馬車に乗り、屋敷に戻る道すがら、私はお父様にお願いをした。
「お父様、お願いがあります。明日よりミリンダさんに使用人の仕事を教えてもらうつもりでおります」
「それはまた、どうして?」
「今後の方針も決まりましたので、1人で生きていけるよう、家事や料理を覚えておきたいのです」
「アグリの決心が固いので、遠くで暮らすことは許すが、1人で暮らす必要があるのか?使用人を連れて行けば良いのではないか?」
「いいえお父様、使用人がいるような人と、村人は遠慮のないお付き合いをしてくれません。私が望むのはあくまでも庶民同士の対等なお付き合いです。助けたり助けられたりができるような……それに私がどうしても困ったときには、お父様のところへ相談に戻ってきます。その時はお力添えをお願いします」
「アグリの言うとおりか、今生の別れとなるわけでもないのだからな……よろしいミリンダから存分に教えてもらい励みなさい」
「ありがとうございます」
屋敷に戻り、部屋に戻ると着替えを手伝いにミリンダさんが部屋に来てくれた。
「ミリンダさん、着替えが終わったらお茶をいただきたいの。それとミリンダさんとお話しがあるので、お茶をご一緒してください」
「アグリさん、本来は使用人がお仕えするお方と同席するなどあり得ないことなのです。ご理解いただけていますか?」
「いいえ、理解できません!ミリンダさんもご存じでしょうけど、私は庶民です。ミリンダさんに遠慮されるような身分のものではありません!」
ミリンダさんは困った顔をしたけれど、仕方なさそうな様子になる。
「分かりました、ご一緒させていただきます」
お茶の準備が整って、2人でテーブルを挟んで向き合って座る。お茶を1口飲んだところで私は話しを始めた。
「お父様の許可はいただいたので、明日から私にミリンダさんのお仕事を教えてください。具体的にはお掃除やお洗濯やお料理……お裁縫も教えていただきたいですね」
「アグリさん、とても言いにくいのですが、そのお手では仕事をするのは難しいかと……」
「ミリンダさんのおっしゃるとおりです。でも私は後数か月もすればこのお屋敷から出て、1人で暮らしていくことになります。ですので、1人で暮らせるよう仕事を覚えたいのです」
「そのお体で1人暮らし……アグリさん、もしや私のことを案じてではないですか?」
私は最初、言葉の意味が理解できなかったが、よくよく考えるとすっと理解できた。
「ミリンダさん、考えすぎです。確かにお父様には打診されました、使用人を連れて行ってはと。でも私はミリンダさんにお給金を払えるような財産はありません。はっきり言って、ミリンダさんより貧乏ですし(笑)先ほどもお話ししたように、私は庶民です。元の生活に戻るだけのことです。私は生まれてから魔法学校に入学するまでは孤児院での生活でしたし、魔法学校では寮生活なので、家事全般を教わる機会がなかったのです。ですからここでミリンダさんに教えを受けなければ、一生困ることになってしまうのです……片腕でどこまでできるか分かりませんが、できる範囲で結構ですから教えてくださいませ」
「分かりました、私の知る限りのものはアグリさんへお教えします。ただ、他の使用人の邪魔になることは避けたいので、アグリさんのご自分の分をご自分でされるのはいかがでしょう?お洗濯はご自分の着た服を、お掃除はご自分のお部屋を、料理については……昼食はご自分で作ることにしましょうか、昼食なら厨房も比較的空いていますので」
「はい、ミリンダさんの方針のままでお願いします」
「裁縫はどうしても難しいのですが……」
「裁縫については、まずはミリンダさんがされているのを横で見させていただきます」
「はい、それなら問題ありません。そうそう、せっかくですから、アグリさんがお召しになる衣類を作ることにいたしましょう。そうすればご自分で作られる時の参考になるでしょうから!」
「はい、それは助かります。ただ、私は生地も糸もボタンも何ももっていないのですが……困りましたね」
しばらく悩んでいると、あることを思い出した!私は立ち上がり、タンスを開けて、布袋の中を家探しする。小銭袋が出てきた!これは調合の素材を買うために貯めていたなけなしのお金だった。私は小銭入れをミリンダさんに差し出す。
「私の全財産なのですが、これで足りるでしょうか?」
ミリンダさんは小銭入れの中を覗き込んで驚きの表情。
「アグリさん、これはある程度まとまったお金です……この1枚の銀貨で、1人暮らしなら十分1ヶ月暮らせます!」
「お洋服と肌着と靴下……靴も必要ですね。それとタオルの大きいものと小さいものも必要ですか。後は……」
「アグリさん、裁縫については一度、生地を扱う店に行ってみませんか?お願いすれば採寸もしてくれますし、それで型紙も作ってもらって購入もできます」
「はい、それでお願いします。私は買い物もしたことがないので、お金の価値や物の価値が分からないもので」
「アグリさん、そこも覚えないと1人暮らしは絶対にできません!」
「はい、勉強します」
「明日からは街の市場へ行くのも日課としましょう」
「よろしくお願いします」
こうしてミリンダさんのアグリ改造計画がスタートしたのでした。




