102話 国王陛下に謁見
貴族街の門の前、父上と僕とアスカが到着。そこにはガチガチに緊張した、セルスさんとランゼンさんが待っていた。父上はそんな2人に声をかける。
「そんなに緊張するな。38階層のボスにもビビらないお前らが、どうしてここでビビる?」
「俺もランゼンも、貴族街に来るぐらいなら38階層に行けと言われた方が良かった」
気持ちは分かります。でも諦めてもらいましょう。
いつものように、伯爵家に行き、アスカは支度を整えてもらう。支度が終わればすぐに出発となったが、伯爵様を含めた4人が馬に乗り、僕とアスカは馬車に乗った。門で魔法使用許可のネックレスを受け取り身に着ける。手続きを終えれば、王城の門を通過し王宮玄関へ着いた。バストンさんが出迎えに出てきてくれていた。僕は前もってバストンさんに剣と杖をお渡しした。バストンさんは後程献上しますと言って受け取ってくれた。僕は右腕が使えないので、お料理を一口大に切って欲しいともお願いして、了解してもらった。
部屋へ案内されて、臣下の礼でお待ちする。国王陛下と王妃様が直ぐに現れた。伯爵様が、僕を助ける手助けをしてくれたことに感謝を述べた。僕も深々と頭を下げた。一通りの挨拶が終わり席につく。席に座ってホッと一息つけたところで、僕は怪しい微細な魔力を感じて、サーチで辺りを確認。屋根裏に人がいるようだ。
「国王陛下、大変申し訳ございませんが、ご質問を許してください」
「ああ、何なりと申せ」
「ありがとうございます。今日、お集まりの皆様はこの部屋にいる方だけですか?」
「ああ、そうだが。それがどうした?」
「はい、私の面識のない方がお部屋におりますようで、部屋を間違えた方のようです」
僕は氷の魔法を詠唱した。天井の上で人のうめき声が聞こえた。護衛が直ぐに天井へあがり、凍えている立派な身なりの人が引きずり降ろされる。国王陛下が誰かを確認する。
「ビーズ伯爵か、さすがにもう見逃さんぞ。一族そろって処分を受けてもらう。牢へ連れていけ」
「国王陛下、少々お待ちください。この方からは何か魔力が出ています。魔法に詳しい方に調べさせてください」
「グラン、助言に感謝する。バストン手配を頼む」
護衛の近衛兵に両脇を抱えられ、取り急ぎ廊下へ連れ出された。それでざわついた雰囲気が静まった。
「どうも魔法界に関わる者が怪しい動きをして信用ならん。誰を信用して良いのやら……」
「国王陛下、魔法に関わる伯爵家は魔法を使えなくてはいけないのですか?魔法に関する知識が豊富な方では務まりませんか?」
「グラン、誰か心当たりがいるのか?」
「はい、国王陛下も王妃様も心から安心して頼ることができるお方です。キツカ様はいかがでしょう?」
その意見に、国王陛下と王妃様が考え込む。そして2人が顔を合わせる。
「グラン、いい考えだ。その案は使わせてもらうかもしれん」
「はい、お役にたてて光栄です。しかし国王陛下、この王国は魔法に関して権威を守ろうとか、暴利を貪ろうとかそんな人たちがいますか?それともそれは王国の方針ですか?」
「グラン、なぜそう思ったのだ」
「はい、外部記憶装置から魔石に関する文献がごっそり消されています。例えばサンストーンもムーンストーンもダイヤモンドも、文献はすべて消されています。王国で消されたのでしょうか?」
「いや、外部記憶装置から文献を消すなどありえない。そうなると、原書も持ち出された可能性があるということか?バストン、すまんがこれらの石についての文献が王立図書館に存在するか調べさせてくれ。グラン、その他に気になったことはなんだ?」
「はい、先日は王妃様が私の命をお助けくださいました。その際に杖の魔法書を拝見しました。大変高価な本と伺いました。ですが私が読ませていただくと、まるで魔法学校の初等部の生徒が読むような絵本とも思えるような内容でした。杖を作るのに必要な魔法は最後の一文だけです。これは魔法士をだましてお金を得ようとしてるとしか思えません。それと生命力や傷を回復するポーションですが、高品質のものは大変高価です。原価は最低品質のポーションの4倍ですが、販売価格は25倍です。この価格では低レベルの冒険者は高品質のポーションを購入することができません」
「フィーネ、その本は魔法士協会が出しているものか?ポーションも製造過程や販売過程で魔法士協会が関わっているのか?」
「はい、国王陛下。とても高価な本で、1つの杖をつくるのに1冊の本が必要と言われています。ポーションについては調べてみないと分かりません」
「グラン、魔法書についてはどうなのだ?事実なのか?」
「本日は王妃様に献上するために杖を作って参りました。私が自分の分を作り、王妃様の分を作り、グリス侯爵様の分を作り、クランメンバーのリサの分も作りました。魔法ですので、覚えればいくつでも作れます。自分専用でもありませんから、入院でお世話になった皆さまへ、感謝の印としてお渡ししています」
「伯爵家と魔法士協会で何やらやっていたのか。石に関する本が持ち出されているのなら、それを追えばよいか……意外と見つけるのは容易かもしれん」
国王陛下が思案を始められたのをきっかけに、バストンさんは給仕に配膳の指示を出す。皆の前に料理が運ばれてきた。何度見ても美しくおいしそうなオードブル。こんな料理を出せるレストランをアスカとやってみたいな。僕はそんなことを考えながらアスカの様子を見ると、おいしいものに目がないアスカは、目をキラキラさせていた。




