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24話 皇太子様とのお茶会

 ご褒美の授与の後は、皇太子様がお茶にしようと言ってお茶の支度をしてくださり、お茶を飲みながら皆で談話した。皇太子様は、皇太子妃候補全員が揃う懇親会のことを聞かせてくれた。私はフィーネさんからは聞いていたのですが……



「参加者は4名で、どのご令嬢も侯爵家のご令嬢であった。どのご令嬢も美しいドレスと豪華なアクセサリーを身に着け、それは美しく見事であった。それに比べてフィーネは魔法学校の白魔法士の制服で来ていたのだ」


「儂はこっそりフィーネに聞いたのだ、どうして白魔法士の制服なのだと。するとフィーネは私は魔法学校に所属している学生なので白魔法士の制服は皇太子様のご前でも失礼にはなりません!それに卒業後は白魔法士として働きたいと考えているので、社交界とは縁遠い存在となる。なので何度も着ないドレスを仕立てる必要はない!だそうだ(笑)」


「我が家には年端もいかぬものに社交界は不要という教育方針がある。そして、魔法学校に入学したので学生の身分で社交界は不要とされている。皇太子妃候補に選んでいただきながら、皇太子様ともお会いするのが初めてで心苦しい。ただ本日、候補の皆に会って安心した。皆とても社交的で上品で奇麗で、誰が皇太子妃になっても立派にお勤めされそうですもの!と太鼓判を押された(笑)」


「端から皇太子妃に選ばれないものとフィーネは信じ切っていて、皆でお茶とお菓子とおしゃべりを楽しむ会と勘違いをしておったぞ!」



 これには皆が耐え切れず、大笑いをしていた。



「アグリと親しくしているという話しも事前に聞いておった。庶民の者とも分け隔てなく親友となれる貴族など、そうそういるものではない。まぁ、グリス侯爵家であるから多少は理解できるか……(笑)」



 これにも笑いが堪え切れなかった。



「私も皇太子様がフィーネ様を選ばれたと聞いて、皇太子様が人を見る目のある、信頼できるお方だと思いました。お2人そろえばさらに良い王国にしてくださると、私は心底信じております。ですので、あの事件でフィーネ様にお怪我がなかったことをグリム様と2人で喜んでおりました」


「アグリは片腕を失って、将来が心配になりはしないのか?」



 皇太子様は少々心配顔で問われた。私は明るい笑顔を作ってお答えした。



「本日、皇太子様に心配を取り除いていただきました。私は住まいを持っておりませんので、侯爵様のお屋敷を出た後、どこに住むか途方にくれていました。それを皇太子様が解決してくださいました。本当にありがとうございます。それと腕のことですが、腕はそのうちにはやすのでご心配には及びません!」


「腕をはやすとな……いったいどのように?」


「魔法で手をはやします。研鑽を重ねれば、必ず元の腕とそん色ない魔法の手を作れると信じておりますので」


「アグリ、すまぬがその腕、見せてはもらえぬか」


「はい、かまいません。ですがまだ初期段階なので腕とは呼べない代物ですけど」



 皇太子様は護衛の騎士様にこの部屋に魔法結界を張るよう指示し、結界が張られたところで、「アグリ、頼む」と言われた。私は歩行訓練の時の手ではあまりに恥ずかしいので、人の腕に近いものを想像する。長さは左手と同じで、肩の盛り上がり、肘のふくらみ、手は難しいわね、そうだ鏡で左腕を見れば簡単だ!



「皇太子様、鏡の前に移動させていただきます」



 そう言って壁に埋め込まれた大きな鏡の前に移動した。



「グリム様、左腕をまくるのをお手伝いいただけますか」


「……はい」



 グリムさんが私の隣にきて、白魔法士の制服の袖をまくってくれた。



「これでよろしいですか?」


「はい、そのままでお願いします」



 私は鏡を見ながらその形を想像し、出来上がったイメージを自分の右腕として張り付けるイメージを追加した。そして詠唱、「ハンド!」だらりと垂れただけだった白魔法士の制服が膨らむ。そして袖の先には半透明の白い手が出現した。私はちょっといたずら心が起こった。



「グリム様、手を引いていただけます?」



 グリムさんも心得たもので片膝をついた。



「アグリ様お手を」



 しっかり応じてくれて、手を差し伸べてくれた。私はその手の上に魔法の手をそっと乗せる。グリムさんはゆっくり立ち上がり、手を引きながら皇太子様の前に歩み寄った。



「お見苦しいものではありますが、ご興味があれば遠慮なくご覧ください」



 私の手はグリムさんの手に乗せられたままだったが、それだけでも皆は驚いて目を離せない様子だった。



「アグリ、これは動かせるのか?」


「はい、まだぎこちないですが……」



 そう言って私は、肩、肘、手首と動かした後、手を握ったり開いたりして見せた。



「物を掴んだりもできるのか?」



 私は右手でスカートのすそを掴み(つまみではありません!)、スカートを広げ社交的な会釈をしてみせた。



「まだ、指先を自由に動かすには時間がかかりますが、握ると開くはできるようになったので、左手の補助程度には使えると思います。実は正直にお話しすると、ここまでうまくいったのは今日が初めてだったのです……」


「いやいや、見事なものだ!アグリ、すまぬが儂もそちの手を取らせてもらえぬか?」


「皇太子妃様のお許しがあれば、かまいません」



 また皆が笑いだす。このネタは今後も使えそうです(笑)



「冗談はさておき、皇太子様、お手をとっていただけますか?」


「よろこんで」



 皇太子様が手を差し伸べてくださる。私はゆっくりと手を乗せる。皇太子様はびくっとされた後、手の感想を話される。



「見た目と違って固いのだな、それに冷たい。人形の手のようだ。閉じたり開いたりしてみてくれ」


「はい」



 私は手を動かした。皇太子様はまじまじと眺められた。



「見事なものだな、指が動くようになれば、手の代わりなどではなく、手そのものとなりそうだ」


「硬さや温かさは今の私レベルの魔法士では難しいです。指は私でもどんどん進歩させられると思いますので、腕としては働いてくれそうです」


「これだけできるのであれば、魔法学校に留まれるのではないか?」


「いえいえ皇太子様、魔法学校はそれ程甘くはありません。実技も調合も今の私にはとても無理です」


「そうか、それは配慮を欠く発言をしてすまなかった」


「でも皇太子様、本来この魔法は黒魔法の攻撃魔法です。その魔法から独自に改良を加えてこのようになりました。学校にいることはできなくても、本人の努力次第で道は開けると信じております」


「確かにそなたならいずれ腕と変わらぬ魔手を作り上げるであろう。完成した暁には儂が思うまま褒美を取らせるから励め!」


「ありがとうございます。皇太子様と皇太子妃様のご期待にお応えできるよう精進します」



 そして何故か楽しい会になってしまった集まりも、そろそろお開きの時間となった。最後に皇太子様はお言葉をくださった。



「アグリ、困ったことがあればいつでも助けてやるから相談に来い!そしてお主が守ってくれた皇太子妃は儂が必ず幸せにしてやるから心配はいらぬ」



 少々顔を赤らめながらのお言葉。皇太子様はまっすぐな性格のお方で、フィーネさんは良い旦那様に出会われたようで安心した。



「皇太子様、皇太子妃様だけではたりません!すべての王国民を幸せにしてくださいませ。皇太子様なら必ず成し遂げられますから」


「よかろう!その代わりそれが実現できたら、そなたから褒美をもらうから覚悟しておけ!」


「はい、皇太子様の仕事ぶりを遠くから見守らせていただきます」



 そして解散となり、それぞれの居場所に向けて帰っていった。


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