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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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98話 母の杖の返却

 毎日の日課のアスカとの朝の訓練をしていると、父上がわざわざ訪ねてきた。僕とアスカが父上の方へ向かおうとすると、訓練が終わるまで見学しているから続けなさいと言われ、僕とアスカは訓練を再開した。いつものように訓練を続け、今日はここまでとなった。訓練を終えた2人は父上のところへ向かう。



「アスカの訓練は凄まじいな。まるで実戦だ」


「はい、お父様。倒すべき敵が明確ですから」



 これには父上も僕も何も言い返せなかった。



「ここへ来たのは、今日の昼食を兄上から誘われたからだ。グランとアスカもどうかと思って聞きにきた」


「父上、伯爵様に入院中のお礼を言いたいので、ぜひ、一緒にお連れください」




 父上が戻って行かれたので、僕とアスカも急いでお風呂と朝食を済ませた。今日は貴族街に向かうのでクランの制服を着て行くことになる。


 僕とアスカが父上を迎えに行き、その足で貴族街の門へ向かった。父上の先導で伯爵家の門を通り玄関へ向かう。マチスさんが出迎えてくれた。僕はあらためて、マチスさんに入院時のお礼を伝えた。その後、僕たちは食堂へ案内された。伯爵様はもう席に座ってお酒を飲んでいた。僕たちも席につくように言われたので、僕はマチスさんに伯爵様へ献上する入院のお礼の品ですと言って、ダイヤモンドの剣を渡した。


 伯爵様はマチスさんから剣を受け取り驚いていた。



「グラン、このようは高価な剣をどうやって手に入れた。おまけにこの剣は……父上の剣ではないか?違うかグリム?」


「伯爵様、その剣は私が作ったもので、費用はそれほどかかっていません。そして、形見の剣であるのも間違いありません。父上からお借りして、作成時の参考にさせてもらいましたので」


「グラン、この石は何だ?」


「ダイヤモンドです」


「このようなダイヤモンドが存在するわけがない。魔法で作ったのか?」


「はい、魔法で作りました。それは剣の形はしていますが、魔道具で言えば杖なのです」


「グランすまない。理解できていない」


「では、実際にお見せすることにしましょう」



 僕は腰に下げていた自分の杖を、伯爵様に見えように持つ。そして、剣をイメージする。ダイヤモンドが柔らかい粘土のようになり、だんだんと剣の形に変形する。一通り剣になった杖を皆さんにお見せした後、今度は元の杖に戻す。伯爵様も父上も唖然としていた。



「伯爵様、この剣は魔法士が使うと魔剣になります。剣が伸びたり、炎の剣になったり、氷の剣になったりします。もう魔道具を発展させていかないと、38階層のボスの討伐は無理でしょうから」


「それほど38階層のボスは強かったか」



 その問いには父上が答えた。



「兄上、私とアスカは一太刀受けたところで、死を覚悟しました。そして、グランの捨て身の魔法で倒しましたが、グランはあのような目にあいました。今の王国最高レベルの冒険者が集まっても、そのような状況です」




 マチスさんは頃合いと思い、料理を運ぶよう給仕係りに指示を出す。さすがに伯爵家の昼食は美しくて豪華だ。これを楽しみにしていました(笑)右手が使えない僕のために、僕の分は1口サイズに切り分けてくれていた。さすが、マチスさん!僕とアスカは夢中で食べていたけど、父上は食事をしながらも、伯爵様にダンジョン攻略についてや、クラン連合について、そしてこれからのクラン連合についても報告をしていた。


 伯爵様は、新しくできたクランについても専属のダンジョン情報提供クランに任命すると言ってくれたが、新しいクランは将来大型クランになる予定だ。幹部だけを登録することになった。


 伯爵様からは、クラン連合のダンジョン攻略について報告会を兼ねた昼食会を、明日、王宮で行うと言われた。父上は参加者に、父上、セルスさん、ランゼンさん、それに退院のお礼をするため僕とアスカでお願いしますと伝えた。


 父上から伯爵様には、父上が冒険者レベル16になったことと、僕が冒険者レベル17になったことを報告した。これにも伯爵様が驚かれていた。




 こうして、僕たちは伯爵家を後にした。僕は父上にこれからグリス侯爵家にお借りしていた杖を返しに行くと伝えた。父上はセルスさんとランゼンさんに、明日、王宮へ行くことを伝えに行くので同行できないと言われた。僕とアスカの2人で行くことにした。




 僕とアスカが、侯爵家の門にたどり着く。守衛の方にアグリの息子のグランとグリムの娘のアスカが面会したいと伝えてもらった。しばらくすると、スミスさんが迎えにきてくれた。僕とアスカはお辞儀をして挨拶をした。



「スミスさん、ご無沙汰しております。急にきてしまい、申し訳ありません。今日は侯爵家からお借りしていた杖をお返しにまいりました。お取次ぎをお願いします」


「ご当主様がお会いするとのことです。先代様はお出かけでおりません。よろしいですか?」


「はい、ぜひ侯爵様にお会いさせてください」


「では、ご案内します」



 スミスさんは屋敷の応接間に案内してくれた。僕とアスカは臣下の礼で待っていると、侯爵様が来てくれた。



「グラン、アスカ、よく来てくれた。堅苦しい挨拶はいらないから、座ってくれ」



 僕とアスカはイスへ腰かける。僕はスミスさんにお願いして、侯爵家からお借りしていた杖と僕が作った杖を渡した。



「侯爵様、母から2代にわたりお借りしていた侯爵家の家宝の杖を、ようやくお返しすることが叶いました。自分用に納得のいく杖を作ることができました。侯爵様にも私が作ったものと同じものを献上させていただきます」



 侯爵様はまず、侯爵家の杖を確認する。間違いなく侯爵家の杖だと認識される。次に僕が献上した杖を見る。



「グラン、この杖は、侯爵家の杖を超えているだろう。よくぞここまでの杖を作れたものだ」


「はい、侯爵様には母譲りですと言えば、ご理解いただけるかと思います」


「あはは、なるほど。確かにアグリ仕込みでなければ、これほどの杖は作れまい。グランは母の教えをさらに発展させたのだな」


「お褒めのお言葉をありがとうございます。杖の縁は終わりましたが、これからも変わらずお付き合いいただければ嬉しいです」


「グラン、心配するな。アグリを今でも妹と思っている。だからグランは儂の甥と思っている。いつでも遊びにくるといい」


「はい、ありがとうございます」




 侯爵家を後にした。母さんがずっと使っていた杖を手放すことは寂しかったが、母さんが強く望んでいたことだったから。ようやく願いを叶えたよ、母さん。


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