96話 魁の新リーダー
換金を終えマイルさんの店を出て、せっかく集まったのだからとなりリイサさんの店に皆で行くことになった。店に着くと、何も言わずともテーブルいっぱいにビールが並べられた。いつものガツンの乾杯。今回僕は腕が動かず不参加だけど(笑)乾杯の後、ランゼンさんに興奮気味に褒められた。
「魁は商談まで一流なんだな。マルスとグランが組むと、商人とも対等に渡り合えていた。うちはその点、無頓着過ぎたのかもしれない」
僕はそんな落ち込み気味のランゼンさんにお伝えした。
「どのクランも得手不得手があると思います。LHは皆さんが穏やかな人で、クランがアットホームな雰囲気でとても好感が持てました。ガンダさんもチャミさんもとても親切にしてくれましたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、今まで無知で損をしていたのは腹立たしい」
「戦闘ばかりでなく、これからはクラン運営でも協力すればいいのですよ」
しかし父上が異を唱える。
「グラン、俺たち3人はもう少し先のことまで話し合っていた。これからのクラン連合は口約束ではなく、実在する組織にする。新しいクランを作り、その傘下に俺たちのクランが参加することにした」
「父上、どういうことでしょう?」
「いきなり今のクランを解散して、皆で新しいクランに入ってくれでは、皆が混乱するだろう。だから、まず今のクランの形はそのままに、新しいクランの傘下に入る。今のクランのリーダーが新しいクランの創設者となるため、各々のクランは新しいリーダーに引き継ぐことにする。今のクランに残りたい者は、そのままクランに残ってもらえばいいしな。ちなみに魁のリーダーはグランだ。よろしく頼むぞ」
「なるほど、父上よいお考えです。新しいクランに移籍も可能、今までのクランに残るのも可能、誰でも自由に選択可能なのですね」
「ああ、その通りだ。それにグラン。国王陛下にお願いして、魁のリーダーが代わっても、特例はそのまま残してくださるそうだ。仮に魁がグランとアスカの2人だけになっても、クランの存続は可能になった」
「お父様、旦那様、いったいどういう意味ですか?」
「アスカ、それについては僕が後で説明するから、もう少し待ってて」
「分かりました」
難しい話しが終わると、後はいつものお酒とおつまみをいただきながらの飲み会になる。アスカは僕のことを常に気にしてくれて、料理をとってくれたり、料理を切り分けてくれたりした。
「ありがとう、アスカ。今の僕はアスカが隣にいてくれないと、何もできないダメ人間だ」
「旦那様、そんな寂しいことを言ってはいけません。まだ、リハビリはこれからなのです。ゆっくり治していくのですから、焦らずでんと構えていてください。お困りのことは、私がお手伝いをしますから」
僕がしょんぼりしているのを、アスカが励ましてくれる。そんな様子を見かねてか、父上が話題を変えるために、僕とアスカに話しかけてきた。
「グランとアスカには伝えていなかったな。明日の午後はセルシスに全員集まって報酬の支払いをする」
「父上、その前に、冒険者レベルの更新をしませんか?」
「そうだな……皆で冒険者ギルドに行くか。セルス、ランゼン、午前中は皆で冒険者レベルの更新をするぞ」
セルスさんとランゼンさんも頷いた。
「了解」
「皆さんにリュックを持ってくるように伝えてください。個人の荷物をお返しします。清算も明日すると皆さんに伝えてください」
「分かった。では明日」
セルスさんとランゼンさんは帰っていった。残ったのは父上、マルスさん、リサさん、アスカと僕。僕とアスカもそろそろ帰ることにした。リサさんも今日は帰ると言って、僕たちと一緒に店を出た。
「リサさん、調子悪いんでしょ?」
「グランはお見通しね」
「成功するかは保証できませんが、僕がやった治療、リサさんもやりますか?」
「サンストーンを飲むこと?やってくれるの?」
「リサさんが望むならやります。ただ、死ぬほど苦しかったです」
「そんなの当たり前。魔力を回復させるのだから」
「分かりました。準備ができたら声をかけます」
「よろしくお願いね、グラン、アスカ」
「はい」
マルスさんの屋敷の前で、リサさんと別れる。僕はアスカに声をかける。
「アスカ、申し訳ないけど、これからダンジョンに付き合ってくれない」
「はい、リサさんの治療の準備ですね。急いだ方がよさそうです」
僕とアスカはすぐにダンジョンへ向かった。さすがにお昼過ぎと中途半端な時間で人はあまりいない。1階層の人目のないところへアスカと向かう。この辺でとなり、サーチ。辺りをプラプラ歩くと、ようやく1匹のスライムを見つける。アスカに頼んで切り刻んでもらって、僕はすぐに不純物を取り除き、小さなサンストーンにした。
僕はこの小さなサンストーンを大量に複製して革袋に詰めた。続いて、リュックからダイヤモンドを取り出し、ダイヤモンドも複製する。魔力はほとんど減らない。ダイヤモンドも大量に複製した。
「アスカ、もう少し時間をもらってもいい?ここは材料も豊富なので、すべて作ってしまうかと思って」
「ええ、お待ちしているので、思う存分作ってください」
僕は申し訳ないので、オレンジジュースの入ったビンとマグカップを出して、アスカに休憩してもらった。
僕はダイヤモンドで杖を3本。剣を3本。スティレットを10本作った。アスカはあまりの本数に驚いていた。
目的を果たし、僕とアスカは帰ることにする。僕は左手でアスカと手を繋ごうとする。アスカが気付いて、手を握ってくれた。ダンジョン内でもデート気分の2人です(笑)




