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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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94話 朝から大騒ぎ

 やっと病院から屋敷に帰ってこれて、普段の生活ができるのがとても嬉しい。厨房で薪に火をつけ、お風呂のお湯も入れる。今日から携帯しているのは自分で作った杖。侯爵様にお借りしていた杖はお返しするつもりでいる。


 アスカも訓練のための着替えを済ませ、玄関に降りてきた。軽装はつけていないものの、戦うアスカの姿。再びその姿を見れて安心した。僕はアスカを抱きしめた。



「やっと屋敷に帰って来れたって気がする。いつでもアスカが隣にいる。これが僕の幸せな日常」


「そうですね、いつものように訓練から始めましょう」


「うん、今日もよろしく」




 アスカの素振りは変わっていた。もう仮想敵は38階層のボスだろう。もちろん僕もそうしなければならない。ただ、今の僕の最重要課題は右腕のリハビリだ。先生に教わった方法で左手を使いながら右腕を動かす。



「アスカ、38階層のボスは30階層のボスのスピードとパワーがアップしたボスと考えればいい?」


「はい、レベルは数段上ですが、そう考えて間違いありません」


「アスカ、一緒に必ず討伐しよう。僕も一生懸命攻略方法を考える。アスカも剣技を高めて欲しい。一緒に頑張ろう」


「はい、旦那様と一緒に必ず討伐します」



 アスカは素振りを続けていたが、僕はまだ戦闘訓練を始めるのは難しそうだったので、別の思い付きを試してみることにした。僕はリュックからダイヤモンドの塊をいくつか取り出す。なるべく軽量にしたいので、少しずつダイヤモンドを追加するためだ。まずは薄い板に変形、割れない程度の薄さを心掛ける。大きさもとりあえずは2人が立って少し余裕がある程度でいい。次は棒を建てる。イメージは机をひっくり返したような感じ。棒は念のため6本にしておこう。次は別の棒をリング状にして四角形に変形、机の棒の先の上に乗せて手すりが完成。これでとりあえずすべてが完成だ。


 僕は手すりをくぐって中に乗る。雲を浮かせてるイメージと同様に、ダイヤモンドの板を地面から少し上の位置をイメージする。自分では分からないけど、ちゃんと浮いているよね?せっかくだから前へ進めてみますか!ということで、前の位置へゆっくり移動するイメージ。やはり浮いている。引きずる感じがまったくない。僕は自分の身長くらいまでの高さをイメージ。やはり飛んでる!さすがのアスカもこの異常事態に気付いて素振りの手を止め僕を見ていた。



「旦那様、飛んでいるのですか?」


「アスカから見ても飛んでるように見える?」


「はい、私の身長くらいの高さに飛んでいます」


「もう少しテストするから、アスカは気にせず訓練を続けて」


「……」



 アスカが固まってる。無理もないかな、旦那が飛んでいるのだから。




 僕は屋敷の屋根の高さまで移動する。移動速度も少しだけ早くした。いい感じ。手すりから身を乗り出してアスカを見る。アスカは呆然と、僕を見上げているだけだ。ここで魔力の消費量を気にしてみたけど、まだぜんぜん気にするレベルではない。今の僕の魔力量は以前の僕とは比べ物にならないからね!


 僕は1度、アスカのそばへ着陸した。



「飛べるみたいだよ、この箱だと。アスカも乗ってみる?」


「大丈夫でしょうか?旦那様はお怪我もされているのに」


「アスカも乗せるから、より慎重に飛んでみるということで、試してみない?」


「分かりました。旦那様とご一緒します」



 アスカも手すりをくぐるようにして、箱の中へ入ってきた。



「飛び箱の中は2人が乗るだけの広さなのですね」



 あれ、飛び箱?まぁ、アスカが命名したなら飛び箱でいいでしょ(笑)



「うん、実験だからなるべく軽く作ってみたんだ。問題がなければ、もう少し乗りやすく改造してみる。では、少し浮くだけの高さから始めるよ」



 まずは人のヒザの高さくらいに浮いてみた。それでも、アスカは目を真ん丸にして驚いている。



「旦那様、飛びました!浮きましたが正しいでしょうか?」


「このくらいの高さなら怖くないでしょ?では、先ほどと同じように背の高さくらいまでゆっくり高く飛ぶよ」



 僕はゆっくりと高い位置に移動させる。飛び箱は徐々に高い位置へ上昇していく。



「旦那様、前にも進むのですか?」


「進むよ。試してみるからね」



 僕はゆっくり飛び箱を前へ進めた、これで飛んだことになるよね。僕はせっかくなので、庭をゆっくりと1周してみることにした。アスカは手すりをギュッと握りつつも、流れる景色を楽しんでいる様子。アスカは馬に乗るのも好きなようだから、速度の速い乗り物がそもそも好きなのだろう。最初は歩くよりも遅い速度で進んでいた飛び箱も、最後は人が走るよりも速い速度になっていた。


 僕は庭を1周したところで魔力の消費量を気にしてみる。微々たるものだった。



「アスカ、次は屋敷の屋根くらいの高さまで、高く飛んで庭を1周してみるよ」


「旦那様、決して無理はいないでください。それだけは約束してください」


「うん、約束する。アスカに怪我をさせたくないから、無理は絶対にしない」


「では、もっと高く飛んでみましょう」



 飛び箱はするすると上昇する。屋根と同じような高さまできたところで上昇を止めた。くるりと辺りを見回すと、さすがに高く飛んでいる実感がわいてくる。屋敷の3階から外を眺めても、こんな気分にはならないのに不思議だ。今回は速度も速めてみた。感覚的には馬を走らせる程度の速度。無理なく飛べることを確認できた。これ以上の確認は王都内では難しいだろう。



「アスカ、父上の屋敷に行く予定だから、今日はこの辺にしておこう。今度は王都の外でどのくらいの速度が出せるかの試したい。それと、どれほど飛んでいられるのかも。飛ぶことに問題がないことを確認できたら、いつの日か海を見に行ってみよう。アスカの夢だったでしょ?」


「旦那様が私の夢をかなえてくれるのですか!とても嬉しいです」




 退院翌日の朝とも思えない、大騒ぎな朝となってしまいました。ここしばらくはアスカに辛い思いばかりをさせていたので、先の楽しみもできて良かったです。


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