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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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90話 命がけの治療

 僕は皆さんに向けて話し始めます。



「皆さん、私のために集まっていただき、ありがとうございます。これから治療をしてみます。リサさんとフィーネ様とアスカを残して、外でお待ちいただいてもいいですか。治療が終わったらお呼びしますので」



 父上が代表してこたえてくれた。



「分かった。グラン、しっかりな」


「はい、父上」



 皆が出ていったので、僕は説明を始める。



「リサさんとフィーネ様に残っていただいたのは、魔法士として意見があればお聞きしたかったのです。アスカは私に万が一のことがあるかもしれないので……」



 アスカは目に涙をいっぱい溜めていたけど、泣かずに堪えて頷いた。



「これから、体内にある魔石の形を人のものに魔法で変えます。体が動かないのは、これで解消できるのではないかと考えています。先生のお話しでは、魔石が小さくなることで死んでしまうそうなので、変形では死なないと思っています。そして私は幸いなことに魔石の形が魔法で見えます。ただ自分でみることになるので、一方向の一部分が見えるだけです。試しにこれから鏡で見えるか確認してみて、見えれば鏡を見ながら別方向からも確認します。見えなければ自分の目で見ながら、形を変えてみます。最後に、私が苦しんでも一時のことなので動じないでください。では、リサさん。鏡を出すのでリュックをお願いします」



 僕とリサさんで先ほどと同じ要領で手鏡を何枚か取り出す。リサさんに鏡で心臓の辺りを映してもらう。魔法を詠唱。もちろんサーチだ。鏡越しでも魔石が見えた。僕の魔石は真ん丸だ。これでは体に異変が起きても仕方ない。



「フィーネ様は横から見せてもらえますか。アスカも杖はいいので、横から鏡を見せて」



 2人も鏡を構えて、僕が見えるように方向を調整してくれる。



「アスカはもう少し近づいて。うん、それでいい。フィーネ様は少し上に持ち上げてください。はい、そこで。では、治療を始めます」



 頭の中にイメージを浮かべる。医学書んで見た形だ。変形!……激痛。僕はベッドの上で悶絶した。魔石を1つにしたときもこんな痛みだった。



「アスカ、リサさん、杖を持たせて」



 2人が慌てて杖を握らせ、石を体に押し付けてくれた。しばらくすると痛みが和らいでくる。皆に頼んでもう1度鏡を同じように構えてもらう。魔法で見てみると、医学書と同じような石の形になっている。



「ありがとうございます。魔石の形が人のもののようになりました。痛みが引くにつれ、体がすっきりした感じがしてます」



 3人は安堵の表情に変わった。僕が落ち着いてきたのを感じて、リサさんが説明を始めてくれた。



「グラン、体が落ち着いたら自分の杖を作って欲しいの。フィーネさんが持ってきてくれた杖は国宝で、そう長くお借りしていることができないから」


「杖の魔法書でしたか?それはあるのですか?それと私がこの状態でも作れるものですか?」


「何とも言えない。でも、悪いけどやってみて」


「分かりました。魔法書をどうすればいいですか?」


「まずは読んでみて欲しいんだけど、まだ座るのは無理?」


「たぶん無理です。読んでもらってもいいですか」


「分かった。私が読み上げる」



 リサさんがたぶん1章から読み始めてくれたようだ。僕はちょっと待ってもらった。



「リサさん、目次があったら読み上げてくれますか。理解の助けになりますから」


「分かった」



 リサさんが、目次を読み始めてくれる。あれ、おかしい?形を作ることばかりだ……最後の章で杖にする魔法を詠唱している……この本酷い!



「リサさん、この本は魔法学校の初等部で習う内容ですか?」


「いいえ、高等部で習う内容だけど、何か気になった?」


「はい、ほとんどが杖の形の作り方で、最後の章が杖にする魔法の詠唱方法ですよね。最終章だけ読めば十分です」


「そうなの?それじゃ最終章だけ読んでみる」



 リサさんが、もったいぶった文章を読み上げる。肝心の一文がでてくる。僕が復唱してみる。リサさんが頷いた。



「リサさん、ダイヤモンドを私の左手に持たせてください。アスカは右手に持たせて」



 2人が僕のいう通りに動いてくれる。僕は魔法を詠唱。右手に1つになった大きなダイヤモンドになる。



「リサさん、次をお願いします」



 僕はまた詠唱。右手に1つになったさらに大きなダイヤモンドになる。



「アスカ、侯爵家の杖の石と比べて大きさは?」


「旦那様の石の方が小さいです」


「リサさん、次をお願いします」



 僕はまた詠唱。さらに大きなダイヤモンドになる。



「旦那様、侯爵家の杖の石より大きくなりました」


「ありがとう。リサさん、最後の石をお願いします」



 僕はまた魔法を詠唱。さらに大きなダイヤモンドになる。そして、先ほど聞いた杖にする魔法を詠唱。無事に杖が完成だ。確かに僕と杖の間に魔力が双方向に流れて、侯爵家の杖とそん色ない。そして体がさらに楽になった。



「皆さん、ありがとうございます。無事に完成しました」



 どう見ても丸い石の塊に、皆はどう反応してよいのか困っている様子(笑)



「リサさん、外の皆さんを呼んでもらえますか」



 リサさんはすぐに皆を病室に迎え入れてくれた。



「皆さん、無事に治療が終わりました。ありがとうございました。今夜はこのまま経過をみるので、これで眠らせていただきます。父上は明朝、病院へ来てください。アスカは悪いけど今夜は付き添いをお願い。フィーネ様は杖と魔道具をお持ち帰りください。そして国王陛下に心からの感謝の気持ちをお伝えください。回復したら皆さまに元気な姿でお礼に伺いたいと思います。よろしくお願いします」


 僕の説明で皆さんが安心してくれて、帰り支度を始めてくれた。僕は顔だけ皆さんの方へ向けたけど、それしかできなかった。アスカは皆さんを見送りに行って、しばらくしたら戻ってきた。僕はアスカに杖と石を片付けてもらい、僕の体を横向きにしてもらった。そして、大きな石の塊を抱きかかえるような体勢にしてもらった。横に座ったアスカの顔が見えた。嬉しかった。


「おやすみ、アスカ」


「おやすみなさい、旦那様」



 アスカは優しく僕の頭を撫でてくれた。心地よくぐっすり眠れそうだ。


昨夜「聖女として召喚された私が、いつのまにか森の魔女と恐れられている!」の4話を登録しました。よろしければ「名もなき少女から始まった、魔法士の系譜」と合わせてお読みください。

12月になり、忙しい日々を過ごしています。皆さまは師走をいかがお過ごしでしょうか?


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