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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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89話 目覚め

 皆が病室に到着すると、アスカはグランの手をとり、グランの顔をボーっと見ていた。そんなアスカにリサが声をかける。



「アスカ、邪魔!これからグランの治療を始めるの。もうすぐ目を覚ますだろうから、横で見ていなさい」



 力ない様子のアスカを無理に横に移動させ、リサはグランの右手に杖を持たせ、石は胸元へ乗せる。



「アスカ、右手と石をおさえてて」



 そう言って、アスカと交代する。リサはお腹の辺りを手のひらで触って確認する。



「魔力は順調に吸い出されているみたい。このまましばらく様子を見ましょう」




 皆がじっと僕を見守る中、僕はようやく目を開ける。でも、ぼやけてよく見えない。



「アスカ、生きてるかい?」


「旦那様、私は無事です」


「良かった。助けられたんだ」


「はい、旦那様にお助けいただきました」



 リサさんも横で声をかけてきた。



「グラン、分かるリサよ」


「はい、分かります。でも、目がぼんやりとしか見えないんです」


「そう、しばらくすれば見えるようになるわ。それよりグラン、手は動かせる?」



 グランはもぞもぞし始めた。



「右手はダメです。左手は少しなら動かせます」


「痛かったり辛いところはない?」


「それは大丈夫です。それよりも、まずは魔力量の制御をしないといけないようです。これでは体がもちません」


「自分でも分かっていたのね、こうなることが」


「いいえ、最悪は魔獣になるかと考えていました」


「今は左手に侯爵家の杖、右手に国宝の杖、それにグランからもらったダイヤモンドを2つ使って、ようやくこの状況」


「なるほど、もう少し魔力量を減らしたいです。左手を僕のリュックに入れてもらえますか」


「分かった。ちょっと待ってて」



 リサさんは僕のリュックをベッドまで持ってきてふたを開く。左手の杖を受け取ってもらってお腹の上にのせておいてもらう。左手をリュックの入り口に入れてもらい、リュックをゆっくり押してもらった。



「リサさん、リュックを引っ張って手を出させてください」



 リサさんは、今度はリュックをゆっくり引いて、僕の手をリュックから出してくれる。僕はあまり力の入らない左手で、それでも力いっぱいに布袋を握っていた。



「リサさん、この袋の中にダイヤモンドがたくさん入っています。1つ取り出して僕のお腹の辺りに触れさせてください」


「グリム、アスカの横へ行って、言われたとおりにして」


「了解」



 父上が布袋から石を1つ取り出し、僕のお腹に押し付けてくれた。



「父上もご無事だったのですね。良かったです。石をもう1つ押し付けてください」



 今度はリサさんが布袋から取り出し、父上に渡した。父上がもう1つ押し当ててくれる。



「これで少し様子を見たいです。リサさん、ここは病院ですか?」


「そうよ、何か必要?」


「はい、人の体内にある魔石について詳しい先生がいたらお話ししたいです。それと、石の形や大きさについても知りたいです。絵や図があればなおありがたいです」


「分かった。先生をつれてくる。それまでしばらく休憩していなさい」



 リサさんは出て行ったようだ。僕は目を閉じ、休憩しながら、エコに聞いてみることにした。



『エコ、人間の体内の魔石について書かれている絵はある?』……『7ページ該当しました。見終える時は終了と送ってください』



 僕の頭の中にイメージが浮かび上がる。医学書の挿絵のようだ。かなり精密に書かれている。『次』


 これも、医学書の挿絵のようだ。精密に書かれている。前のページの石の形と同じだ。『次』


 これも、医学書。当たり前か、体の中のことを書いているのだから。このページの石の形も同じだ。『次』


 このページの石の形も同じだ。横から書かれているで、参考になる。『次』


 このページの石の形も同じ。『次』


 このページの石の形も同じ。少し下の方から書かれている。『次』


 このページの石の形も同じ。『終了』



 僕は目を開けた。天井が見える。そして横にアスカと父上の顔が見える。涙がでてきた。



「旦那様、見えるようになったのですね」



 そう言うとアスカも涙を流した。



「アスカ、泣かないで。せっかくの美人がだいなしだ」



 僕は左側の方も見る。驚いたことにフィーネ様がいる。



「フィーネ様、どうしてここに?」


「リサさんに連れてこられたの。グランが死んだらアグリさんに顔向けできないから協力して欲しいって。でも良かった。グランに何かあったら、私もアグリさんに怒られただろうから」


「杖もお貸しくださったのですね。ありがとうございます」


「今はそんなことを気にしなくていい。回復することだけ考えなさい」




 しばらくすると先生を連れてリサさんが戻ってきた。先生は石や杖を患者に押し付けた儀式だと思ったのか、嫌な顔をした。だが横に王妃様がいるのを見て何も言えないようだ。フィーネ様が先生に伝える。



「先生、この子の質問にはすべて答えなさい。王国で禁じられている内容でもかましません」


「かしこまりました、王妃様」



 僕は質問を始めた。



「先生、人の体の中の魔石は、同じ形をしていますか?」


「はい、大小に関わらず、だいたい同じ形をしています」


「魔石の大きさが、魔力量の違いになりますか?」


「要因の1つです。大きくても石の密度が低い人もいます。そういう人は魔力量はあまりありません」


「魔法士の死は、魔石の摩耗によるものですか?」


「詳しく解明されていませんが、魔石が小さくなることで体を構成する力を失います。それも死因になります。魔石が小さくなる原因ですが、魔力を使うことと血で少しずつ溶けることが要因と推測されています」


「魔石を回復させる方法はありますか?」


「今のところありません」


「先生、最後に1つ。私の体内の魔石を見る方法はありますか?」


「ありません。解剖によって見せてくれた人がいたという話しは残っています」


「では、どうして同じ形をしていると答えることができたのですか?」


「長い歴史の中で、何人かの魔法士が魔法によって見ることができたそうです。現在見ることのできる魔法士はいません」


「先生、いろいろ教えていただき、ありがとうございました」


「お大事にしてください」



 先生が戻っていかれた。いよいよ治療に入りましょう。


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