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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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85話 走る

 俺はボスの剣をどうにか抑えていると、グランが横を飛んでいった。グランが右手を突き出すと、不思議なことにそのままスッとボスの体をすり抜け、体内へ腕が刺さっていく。そしてまぶしいほど光り輝く。それと同時に俺が受けていた重圧もなくなる。


 グランはそのままの勢いで飛んでいき地面に激突。何度かバウンドするように転がり続けたが、ようやく止まった。その後はピクリとも動かない。


 後ろから凄い勢いで走ってくるやつがいる。リサのようだ。リサはグランの側まで駆け寄り、グランを仰向けにする。胸に耳を当てて辺りをキョロキョロしている。そして大声で叫ぶ。



「アスカ、杖!」



 アスカは微動だにしない。



「アスカ、杖を拾ってきなさい。グランを殺す気!」



 アスカはハッとなって、辺りを見回し杖を見つける。全力で走り杖を拾い、全力でリサに届けた。


 リサはグランにポーションを飲ませていた。飲ませ終わるとグランの手に杖を握らせる。そして服の胸元を切り開き心臓の辺りに石を押し付けた。



「アスカ、私のリュックからありったけの包帯をだして」



 アスカはいくつかの包帯を取り出しリサの前に置く。リサは1本細い包帯でグランの手と杖をぎちぎちに結ぶ。そして太い包帯を使って、グランの体と杖をガチガチに固定して縛ってしまった。


 リサは今度は自分でリュックの中を探し、無色透明な石を取り出す。



「私も、旦那様からその石をいただきました」


「なら、その石は地上に戻るまで私に貸してちょうだい」



 リサはアスカと話しながら、グランの背中の方から心臓の辺りに石を押し付けるよう、先ほど巻いた包帯の中へぎゅうぎゅう押し込んだ。


 その頃にはもう、皆が周りを取り囲むように集まっていた。



「アスカ、自分のリュックを持ってきて。グリム、グランを背負ってもらうから支度してこっちにきて。チャミ、今はグランに魔法をかけてはだめ。後衛の皆はグランから渡されたリュックを持ってきて」



 皆がリサの指示で動き出す。まずアスカが戻ってきて、自分のリュックをリサに渡す。リサは中から石を取り出す。



「チャミ、このリュックに2人で6日分の水と食料とポーションを入れてアスカにリュックを渡して」



 俺はリサの近くへいきひざまずく。リサに指示されマルスがグランを抱え、俺の背中に背負わせる。リサが固定するよう包帯で俺の体とグランの体を縛り付ける。



「グリム、準備は完了。すぐに王都に戻って貴族街の病院に連れていきなさい。護衛はアスカ1人で大丈夫ね」


「ああ、任せておけ」


「セルス、今日だけグランを護衛して走る?」


「ああ、皆もそれでいいか?」


「異議なし!」



 皆の出発準備が整う。セルスが指示を出す。



「皆が走れるだけ走っていく。もう無理となったら言ってくれ。護衛はそこまでとする。ランゼン。殿を頼みたい。遅れる者が出たら声をかけてくれ」


「了解」


「グリムいいか?」


「頼む」


「出発!」



 セルスとアスカと俺を先頭に皆が走り出す。グランを担いでいる俺が一番遅いので、俺に合わせて走っていく。




 皆が死に物狂いに走り、24階層まで戻ってきた。



「セルス、ここまで来てくれれば十分だ。後のことは任せる。アスカ、この後は俺とアスカで大丈夫だな?」


「はい、お父様」



 俺とアスカは水とカルパスで軽い食事をとる。2人で念のためポーションも飲んでおいた。



「リサ、連絡が取りたくなったらガルム伯爵家に行ってくれ」


「分かった、後は頼んだわよ」



 俺とアスカは再び走り出した。それを見送ったパーティーの皆は疲れ切ってその場で野営となったようだ。




 俺とアスカは走り続けた。意識朦朧となりながらも、とにかく走り続けた。どのくらい走り続けているのかもわからない。しかし、ついにたどり着いた。地上だ。



「アスカ、兄上のところに行って、大至急貴族街の病院に来るよう言ってくれ。兄上がいなければ、マチスにきてもらってくれ」


「はい、お父様」



 アスカは猛然と走り出し、もう姿が見えなくなった。俺も走り続ける。幸い昼間のようで、ダンジョンとの門は空いていた。守衛に会釈だけして走り抜けた。そのまま走り続け貴族街の門に着く。さすがにここは走り抜ける訳にもいかないので、俺とグランの王都民証を確認してもらった。門を開けてもらい、会釈だけしてまた走り出した。


 さらに走り続け、ようやく病院にたどり着く。ダメもとで受付の女性に頼んでみる。



「すまないが、息子が死にかけてる。見ていただくわけにはいきませんか?後ほど伯爵家から紹介状が届くのですが」



 受付の人は困った顔をしていたが、幸い通りがかった医者が一大事と言って、救急室でみてくれることになった。


 受付の人には、ガルム伯爵家の人がきたら救急室にいると伝えてもらうようお願いした。


 部屋に通されここへと言われて、グランをベッドへ寝かせる。



「先生、魔法士の見立てで、杖を絶対にはなさせるなと言われてきました」


「様子が分かるまでは、そのままにしましょう。患者さんのお父様ですか?廊下のイスにかけてお待ちください」


「よろしくお願いします」




 俺が廊下のイスに座って待っていると、兄上とマチスが駆け付けてくれた。



「兄上、無理を言って申し訳ありません。グランがダンジョンで瀕死の重傷となりました。リサが直接ここへ運べと言ったので、兄上のお力をお借りました」


「分かった、グランは診察中か?」


「はい、先生に診ていただいています」


「マチス、グランの入院手続きをしてきてくれるか」


「はい、行ってまいります」



 兄上と俺はイスに腰かけた。



「兄上、アスカはいかがしましたか?」


「あの汚れで病院に連れてこれるか。風呂にはいらせ着替えをしてから来るように命じてきた」


「ありがとうございます」


「アスカがきたら、お前も屋敷に行ってこい」



 先生の診察はまだ続いていた。


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