82話 チャリティー販売
34階層入り口近くで野営をすることになった。いつものように料理が始まり、設営が始まりと動き出した。もちろん皆がウキウキしている。預かり荷物の手渡しも数が多い。食事が始まってもお酒を飲みながら食事をしている人たちが多い。お酒を飲まない3人は肩身を狭くしているかな?
食事が終わり後片付け。そしてシャワー。今日は女性のシャワーはリサさんが担当してくれている。男性は参加者が少なかったので、すぐに女性のシャワーの手伝いに向かった。女性のシャワーが終わり、僕もシャワーを浴びる。僕は自分でシャワーを出していた。シャワーを終えると、アスカにマルスさんと話してくると伝えて、僕はマルスさんのところへ向かった。マルスさんは父上やガンズさんたちと飲んでいた。父上が僕を見かけて手招きをしてくれる。僕も近くに座ってお酒を注がれた。僕が神妙な顔をしていたので父上は心配をして声をかけてくれた。
「グラン、何かあったのか?」
僕は言っていいのか迷っていると、マルスさんが先回りして話す。
「リサのことなんだろ。魁の人間しかいない。遠慮しないで話していい」
「分かりました。リサさんですが、かなりお悪いと思います。母が体調を悪くしたときに似ています。母とは年齢も近いですし、魔法は酷使されていますし……」
「確かに最近のリサは困った顔をしていることが多かった。たぶん魔力の回復速度が遅くなったんだろう。魔法士としてはもう晩年だ」
「そうですね。このまま魔力を使い続けると、魔力が回復しなくなったり、魔力が出せなくなります。命にかかわります」
「グラン、心配してくれてありがとう。でも、リサの好きにさせてやってくれ。それが冒険者だ。先がどうなるかはともかく、リサは冒険者でいたいのだろうから」
「分かりました。もう何も言いません。ただ、僕はあきらめません。回復の方法を探してみます」
「グラン、よろしく頼むな」
「お任せください」
僕はグラスの酒をグイっと飲み干す。すると父上が笑った
「グランも酒が強くなってきたな」
「父上、酒で思い出しました。私は明日の休暇にお酒の販売をします。孤児院へのチャリティー販売です。許可をいただけますか?」
「グラン、いったい何の酒を売るんだ?」
「ビールです!」
それには3人のおじさんたちも飛び上がる。
「グラン、絶対にやれ。チャリティーなんだから、誰に遠慮することもない。それで何樽持ってきているんだ?」
「明日は10樽くらい売ろうと思ってますけど……」
「よし、たらふく飲めるな。楽しみにしているぞ」
「はい、ありがとうございます。では、おやすみなさい」
僕はこうしておじさんたちの中から無事に逃げ出せたのでした(笑)
アスカのところに戻った。アスカはリサさんと話しをしていた。
「アスカ、明日は僕の手伝いをして欲しいんだけど」
「手伝いはかまいませんが、何をするのですか?」
「ここでビールのチャリティー販売をするつもりなんだ」
「チャリティーとは孤児院へのですか?」
「うん、まずは食べることが最優先だけど、その後も勉強道具は用意してあげたいし」
「はい、喜んでお手伝いします」
するとリサさんが横から悪い顔でアドバイスをしてくれる。
「セルスがビールを買いにきたら、お腹を空かせている子供たちに、パンを食べさせてやりたいと2人して話しな。きっといいことが起こるよ」
「はい、言われたとおりやってみます」
そして翌朝、今朝は希望者だけ朝食を用意することにした。その辺に転がって寝ている人が多いからだ。希望者の7人分の朝食だけを作って、できた料理を取りにきてもらった。その中にセルスさんもいた。リサさんは僕の肘をつんつん突っつく。
「セルスさん、朝食を終えてしばらくしたら、チャリティーのビール販売会を開催します。お腹を空かせている孤児院の子供たちに、パンを食べさせてあげるための企画です。ぜひご参加ください」
僕とアスカは2人そろって頭を下げた。すると横からリサさんも参戦。
「セルス、この2人は孤児院の子供たちのために、今回持ってきているポーションの作り方を教えて仕入れたり、孤児院で焼いたパンを買い取ったり、孤児院の子供たちのためにと頑張っているんだよ。よろしく頼むね」
「魁はそんな慈善活動のようなこともしているのか?」
「当たり前じゃないか。グリムなんて国王陛下に掛け合って、魁の拠点だった建物を個人で買い取って、老朽化した昔の孤児院からそこへ引っ越させたくらいだよ。まあ、セルシスのリーダーのセルスなら、もっと立派な慈善活動をしているのかもしれないけどさ、そこは2人の若者の努力をくんでやって欲しい」
「分かった。俺が真っ先に買いに行ってやる!」
リサさんがまた、僕の肘をつんつん突っつく。
「セルスさん、本当にありがとうございます。セルシスのセルスさんが協力してくれたと、子供たちにも伝えておきます」
僕とアスカは、再び2人そろって頭を下げた。
朝食を食べ終えて、後片付けも済ませる。リサさんに行くよと言われ僕とアスカは1つのテーブルの前に立つ。
「グラン、このテーブルに樽を置いて販売しよう。それと残りの樽も後ろに並べて置いてくれる」
「分かりました」
僕は言われるままにビールの樽をセットする。そしてアスカと2人で立たされ、お尻をポンと叩かれる。
「これからチャリティーのビール販売を始めます。孤児院の子供たちのために、ぜひご協力ください」
すると真っ先にセルスさんが駆け付けてくれた。
「俺がすべてのビールを1ゴルで買い取ろう」
僕とアスカは驚いた。でもリサさんはさらにしたたか。
「セルス、知っているかい?このビールは少しでも多く孤児院の子供たちにパンを届けようと、わざわざこの2人が倉庫街まで行って買ってきたものだよ」
「すまない、俺の配慮が足りなかった。2ゴルで頼む。子供たちにたくさんのパンを食べさせてやってくれ」
リサさんはまた、僕のお尻を叩く。
「セルスさん、本当にありがとうございます。孤児院の子供たちに、セルスさんからの贈り物と言って、パンを届けたいと思います」
そしてリサさんの決め台詞。
「セルス、本当にありがとう。孤児たちも喜ぶよ。皆さん、セルシスのリーダーのセルスさんが、33階層のボス討伐のご褒美にビールを振る舞ってくれるよ。しっかりお礼を言って、ありがたくご馳走になるように」
「あざ~す!」
こうして、ビールの樽には人が殺到しました(笑)




