80話 リサさんの体調不良
昨日はあれだけぐうたらしていた人たちが、朝起きたらきりっとしている。朝食を終え出発準備となると、戦闘モードに切り替わっている。驚いた。いよいよ出発という雰囲気の中、僕とアスカは最前列に向かう。
32階層に降りて、いつものコの字形進行。もう、普通の魔獣でも相当強い。朝の訓練の仮想敵のレベルを上げないと。敵を倒しつつ進むが、ボスとは出会えず向かいの壁まで到着右90度曲がり前進をする。ある程度進んだところで昼食をとることになった。いつものようにテーブルに水差しを置いておくと、水を飲みにくる人が多い。もしかして二日酔い?僕は水差しに水を満たして作業にもどる。
昼食後の休憩中に、僕はまたダイヤモンドを成長させた。最初は小さな粒だったけど、今では指輪にするとちょうどいいくらいの大きさになった。倍々で大きくなるので、ここまで大きくなるとこの後はどんどん大きくなる。僕は近くで休憩していたリサさんに聞いてみることにした。
「リサさん、杖は自分で作れますか?」
「作れるわよ。お金はかかるけど」
「石だけの杖も作れますか?」
「本来は、1つの素材で作るのが常識。グランが持っている杖の方が珍しいくらい」
「お金は僕でも払えるくらいの金額ですか?」
「心配しなくても大丈夫、30ゴルくらいあれば間に合うと思うから」
「ごめんなさい。出直してきます」
「杖の魔法書を手に入れられればいいのだけど……私は学生時代に国王陛下から賜った本で作ったの」
「杖の魔法書……聞いたことないです。調べてみます。ありがとうございました」
そろそろ出発となってしまったので、杖の魔法書のことは調べられなかった。夜にでも調べよう。
午後は90度曲がるところからスタート。前進を再開する。魔獣とは遭遇するが、ボスとは出会わない。もうそろそろ、33階層の入り口が見えそうな位置まできて、ようやくボスらしい光が見える。僕は光の方を指さす。
「父上、アスカ、ボスと思われる光が見えます」
「了解。皆、ボスらしい。準備を頼む」
「了解!」
僕たちは魔法の射程内まで前進。チャミさんの魔法を受けて、位置につく。父上の合図で戦闘開始だ。
今回の魔獣は顔が3つある。リサさんの目くらましは、3つの顔にお願いした。火を吹くとも聞いたので、ヒナノさんの火の玉は待ってもらった。僕は試しに魔獣の頭の上から雨を降らせてみた。湯気が立ち上る。この魔獣は高温のようだ。リサさんにも雨を降らせてもらって、僕も水の量を増やしてみた。すると、魔獣は雨を嫌がるように上を気にしだした。しまいには雲を殴りつけている。もちろん、そんなことで雲は消えない。ヒナノさんにも水の玉を心臓辺りを狙ってとお願いした
僕は頭の1つを凍らせてみることにした。明らかに動きが鈍くなった。それならと残りの頭も凍らせる。さらに動きが鈍る。ただ、僕の魔力もそろそろ節約が必要だ。雨だけにしよう。その代わり、雨を頭の上からでなく、肩から腕のあたりに移動させた。腕の動きが鈍る。それを見て、リサさんも左手の肩から腕の当たりに移動させる。こちらも腕の動きが鈍る。そしてついにセルスさんが右腕を切り落とす。それに続いてガンズさんが左の足にダメージを与えてひざまずかせる。ここまでくればもう一息。前衛は全力攻撃だ。そして、アスカの連続突きが魔石を破壊する。ボスは光り輝き消えていく。前衛に歓声が上がる。僕とリサさんは少し顔色が悪い。魔力の使い過ぎだ。2人で地面に座り込んでしまうと、チャミさんが魔力回復の白魔法をかけてくれた。ただ、この魔法は即効性はないようで、回復量を増量してくれるもののようだ。僕は杖の石に直接触れることで、さらに回復を促進。リサさんよりも早く立ち上がることができた。リサさんには座っていてもらって、今回は僕とヒナノさんで水を配って回った。
リサさんが疲れ切っていることもあり、今夜はここで野営することになった。食事の準備をお願いした後に、急いでテントとベッドを準備してもらった。マルスさんにリサさんを抱きかかえてもらって、ベッドで休んでもらうことにした。アサさんが付き添いを買って出てくれたのでお任せした。
僕は心配になっていた。母さんが体調を崩す前触れで、魔力の回復が遅くなったことがあったからだ。僕はその場で、ダイヤモンドを握れるほど大きくして。リサさんのところへ戻る。アサさんにお願いして、この石を心臓の辺りの素肌に触れるようにして欲しいとお願いした。アサさんは任せてと引き受けてくれた。
皆の食事が終わると、今日は男性シャワーが終わってから、女性のシャワーを始めると伝えた。皆のシャワーが終わって僕の番。もちろん自分で自分の上に雲を出してシャワーを浴びましたとも!着替えを済ませたところで、アスカを天幕内に呼んで2人で温風で髪も乾かしてしまった。天幕を出て本日最後の預かり荷物の手渡しが終わるころ、リサさんがアサさんと一緒に歩いてきた。リサさんの顔色はだいぶ戻っていた。
「グラン、石をありがとう。この石は効果抜群ね」
「私もまだ詳しいことは分からないのですが、その石で杖を作るつもりなんですよ」
「うん、いいアイデアね。きっと伝説の杖になるわよ。王都に戻ったら、今回のお礼に協力してあげる」
「それよりも、リサさん。食欲は?」
「うん、ちゃんとお腹空いた」
「分かりました。すぐに準備しますから、座って待っていてください。アスカはマルスさんに声をかけてきて」
僕が食事を持って戻ってくると、マルスさんも心配そうにしていた。僕は皆にお茶とお菓子を出して席につく。リサさんはガツガツ食べていたので、体の方は落ち着いたようだ。明日は魔法の使用は少しセーブしてもらおう。




