70話 孤児院の子供のできること
僕とアスカはフワフワした気分のまま、リイサさんの店の店にたどり着く。すぐにキキさんと倉庫に行って、料理の受け取りと食材の納品を済ませる。店に戻ってテーブルに座ると、キキさんが直ぐにランチを持ってきてくれた。
「アスカ、別荘のことは好意に甘えてしまっていいと思う?」
「旦那様はまず良い機会なので、旦那様が夢見ていた別荘を建ててしまいましょう。お返しといってはなんですが、ガデンさんにはもう1つミスリルをお渡しして、マイルさんには一部だけ負担をお願いして、別荘の中のものはすべてマイルさんのお店から購入することで、少しだけ恩返ししましょう」
「アスカは分かっていると思うけど、僕はほとんど手元にお金がない。アスカが立て替えることになってしまうよ」
「はい、こう見えても私も王国最強の冒険者を務めていますので、貯金は旦那様が驚かれるほど持っています。妻としてはたまにはお困りの旦那様に頼られたいです」
「うん、それじゃアスカの好意にも甘えて、僕の夢を実現しちゃうよ。嬉しいな!」
僕が満面の笑みを浮かべていると、アスカは横でクスクス笑っていた。
すると間が悪いことに、リサさんが店に入ってきてテーブルに腰かけた。
「グラン、何で薄気味悪い笑顔を浮かべているの?」
「夢が叶いそうで、笑顔を止められません」
「アスカを嫁にもらう以外にも夢があったの?以外にグランは贅沢ね」
「はい、僕はとても幸せ者です」
リサさんは、これはダメだって感じでランチを黙々と食べていた。アスカは相変わらず僕を見てクスクス笑っている。カオスな状況です!
食事を終えて孤児院へ移動。門をぬけて玄関をとおる。すると子供たちの声が聞こえてきた。3人が食堂に入ると、小さな子供たちはアスカの姿に気付いて集まってきた。アスカはこんにちはって挨拶しながら、1人1人の頭を撫でてあげていた。もう少し大きい子供たちは会釈をしてくれていたので、僕とアスカは手を振って応じた。アスカは王都では有名人らしい。
「厨房は料理を作ることになったから、調合鍋は昔の講師控室に持って行ったの。こっちよ」
リサさんに案内されて、1階の一番奥の部屋へ向かう。板張りの床の部屋で荷物がすべて運び出されてがらんとした部屋だった。年長さんたちと思われる子供たちに挨拶された。僕とアスカも挨拶を返す。
横を見ると、壁際に置かれているテーブルの上にポーションが詰められたビンが大量に置かれている。予定では1500本のポーションだ。
「グラン、まずはこの鍋のポーションを最上級に仕上げてくれる」
「はい、分かりました」
僕は子供たちにお願いして、空の鍋を用意してもらった。
僕は左手を鍋にいれ、右手を空の鍋にいれた。頭の中で魔法を詠唱すると、左手の鍋の水位がどんどん下がっていき、右側の鍋には水が溜まっていった。左手の鍋が4分の1まで減ったところで魔法を止める。
リサさんが鍋に指をいれてぺろりとなめる。
「グラン、これでいいわ。アスカ、この鍋の中身をテーブルの鍋に入れてもらえる」
僕は両手を鍋からだして、水を溜めた方の鍋を持って水を捨てにいった。アスカはポーションの入った鍋を、テーブルに置かれていた大きい鍋に移した。この作業を3回繰り返して作業は完了。前回と同様にアスカに頼んで調合鍋の中身を搾り取ることにした。僕が圧力の魔法をかけ、アスカが鍋にポーションを注ぐ。圧力をかけるとそこそこ出てくる。3つの鍋から搾り取って、アスカから鍋を受け取る。面倒なので左手を鍋にいれ、右手は窓の外に出して魔法を詠唱した。これで残りかすも最上級ポーション!
子供たちが調合鍋を洗いに部屋の外へ持ち出そうとする。僕が手伝いに行こうとすると、リサさんに止められた。できることは自分たちでする!なのだそうだ。確かにそれも大事なことかも。
「リサさん、僕とアスカはヒビキさんに用事があるので、厨房の方へ行ってきます」
「了解。こちらも片付けが終わったら合流する」
僕とアスカは厨房へ向かった。ヒビキさんは野菜の皮むきを女の子2人としていた。
「あら、グランさんとアスカさん、ポーションの手伝いにきたのかい?」
「はい、もう終わりました。こちらにはヒビキさんにお話しがあってきました。ヒビキさん、ここでパンが焼けますか?焼けるとすると、1日いくつくらいなら焼けますか?」
「ええ、もちろん。子供たちのパンはここで焼いているからね。ここのオーブンは1回で50人分のパンを焼く想定だったと思う。頑張れば1日で4回焼けるかな?そうすると200人分400個のパンになるかな?」
「子供たちでも作れますか?」
「ええ、ここに居る2人。大きい方がアキハ、小さい方がキンシと言って、私も含めて3人で料理をすることが多いです」
「分かりました。では、ヒビキさん。私が毎日18個のパンを注文します。今回はお金でお支払いしませんが、小麦粉を置いていきます。ですから小麦粉が無くなるまでは、ここで食べる分に加えて18個多く作ってください」
僕はリュックから小麦粉の袋10個取り出した。それと、倉庫街で買ってきた、ソーセージとベーコンをそれぞれ10袋ずつおいた。
「ヒビキさん、パンの方はお引き受けしてもらえますか?ソーセージとベーコンは倉庫街に行ってきたお土産です」
「アキハ、キンシ、2人がやるかどうか決めなさい。これは寄付ではなくお仕事としてグランさんから引き受けることになる。1日も休むことはできない。グランさんにパンを作ってあげれば、その報酬として皆で食べる分のパンもいただけるそうだ。どうする?」
するとアキハさんが僕のことをしっかり見て答えた。
「はい、ぜひやらせてください。一生懸命、おいしいパンを焼かせてもらいます」
「ありがとう、よろしくお願いしますね。パンは私かアスカか、セリエさんという女性が取りにきます。取りにこれない日もあると思います。ここの夕食の時間までに取りに来なければ、夕食のときに皆さんで食べてください」
僕とアスカが厨房を出ると、リサさんが柱の陰から僕らを見ていたようだ。
「グラン、何やら面白そうなことを始めたのね」
僕は知らん顔をして孤児院を引き上げるのでした。




