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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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69話 夢の別荘があっさり

 今朝のアスカはソワソワしている。無理もない。ガデンさんに頼んでいた。剣が出来上がってくるのだから。誰も手にしたことがない高純度のミスリルの剣。国宝級の剣なのは間違いない。でもアスカは価値には興味はないだろう。とにかく振りやすく強くて丈夫な剣。それがアスカの理想の剣だから。


 それでも、朝の日課はしっかりこなしてから2人で屋敷を出た。いつものように手をつなぎ、目指すはガデンさんのお店です。


 店に入るとケインさんがいた。僕はガデンさんを呼んでもらう。ガデンさんがアスカと剣の話しを始めたので、僕はケインさんと倉庫街でテントを購入したことと、倉庫にお借りしたテントを返却することをお願いした。


 ケインさんと用事を済ませると、僕も応接室に呼ばれた。アスカが満足そうな顔をしていたので、剣の出来は良かったのだろう。そして僕には短剣が渡された。アスカが昔使っていた剣を短剣に打ち直してもらったものだ。僕は剣のことは分からないけど、鞘は素人の僕が見ても立派なものだった。剣を抜いてみる。鏡のように磨き抜かれた剣は、切れるのは間違いないだろう。横にいたアスカに手渡すと、アスカはなめ回すように剣を見て、お見事ですと一言だけ言って僕に返してきた。



 3人でソファーに腰かける。



「ガデンさん、素晴らしい剣にしていただき、ありがとうございました。私は剣のことは分かりませんが、アスカの満足気な顔を見ただけで、剣の素晴らしさが伝わってきました。それに鞘も素晴らしいもので驚きました。アスカの剣とお揃いにしていただき、夫婦で末永く大切につかわせてもらいます」


「そこまで褒めてもらば、作ったかいがあったというものだ」


「それで、何かお話しがあるのですよね?」



 僕の質問に答えるように、机の上に革を広げ、大小さまざまなミスリルのかけらを見せられた。



「これが剣を作った後に残ったミスリルだ。買い取らせて欲しい」


「ガデンさんに差し上げます」


「それはありがたい申し出だが、これだけで相当な金額になる。ただで受け取る訳にもいかない」


「そう言われても、今のところ欲しいものは特にないですし」


「この店の商品でなくてもかまわない、何かないか?」


「うーん、2人で欲しいと話しているのは、別荘なんですけど、畑違いですよね」


「王都から近い湖の別荘でいいのか?」


「ええ、そこに別荘を持つのが2人の夢ですから」


「分かった。俺の別荘を見てきてくれ。気に入ればそれと交換にしよう。俺は別荘よりミスリルが必要なんだ」


「ええっ、ガデンさん、それではガデンさんが大損ではないですか!」


「しかたない、このミスリルは代わりになるものがないからな」



 ガデンさんは紙にササっと地図を書いて渡してくれた。そして2人の入室許可をその場でしてくれた。



「もう俺はまったく行っていないので、建物はボロボロかもしれん。だから建て替えるつもりで見てきてくれ」




 僕とアスカは呆然としたまま店を出た。店を出てお互いの顔を見合っても、まだ夢でも見ている気分だった。2人で大きく深呼吸して、とりあえず今は考えないことにして、マイルさんの店に向かうことにした。


 店に入ると、マイルさんはすぐに応接室に案内してくれた。そして席につくと、いきなり何枚かの書類を出してきた。



「この書類は懸賞金の受け取り申請書です。私の名前は書いておいたので、お2人の名前を書いてください」



 そう言われて書類を見ると、商業ギルドと近衛兵団と国務院と国王陛下宛!



「マイルさん、これだけの組織からお金がもらえるのですか?」


「はい、あの盗賊団からは大損害を受け続けていましたから、当然のことです」



 僕とアスカは言われるままに、名前を書き込んだ。



「この書類は私が責任をもって提出させていただきます。それで、私からの感謝を何でお渡しすれば良いですか?」



 あれ、この展開、ガデンさんの店でのやり取りに似てる。えい、思い切って話してしまおう!



「実はこちらに来る前に、ガデンさんとも同じようなやり取りをしてきました。欲しいものは何でも言ってくれと。それで別荘が欲しいと言ったら、ガデンさんがお持ちの別荘をいただけることになりました。ただ、建物が古いので建て替えは自分たちでしてくれと言われまして……」


「別荘を建てたいということですね」


「もちろん不足分は自分たちでお支払いしますから、一部だけでもご協力いただけると嬉しいです」


「では、こうしましょう。私の知り合いに頼んで、お2人のご希望の別荘を建てる。そして請求がきたとろこで、お2人は懸賞金をお使いください。不足分を私がお支払いしましょう」


「ええ、それではマイルさんが相当な負担になってしまうではありませんか!」


「はい、でも荷馬車が奪われ人の命が奪われとなることを考えると、それほど高いものではありません。それに私の知り合いに頼むので、がっつり値引きをさせて、自分の負担を減らします」




 僕は夢心地なまま、倉庫で仕入れた品の清算を済ませ、倉庫街でご馳走になったお礼を言って、お店の外に出た。


 こうして別荘の建物はお願いできることになってしまい、夢の別荘はあっという間に実現できそうだ。いったい今日の僕とアスカに何が起きているんだろう?


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