62話 クラン連合
いつもの朝の日課を終え、アスカとお風呂に入っていた。
「アスカ、今日はランチの前に食材の納品に行くよ。ランチの後はセルシスの拠点だけど、アスカは場所が分かる?」
「はい、何度か行ったことがあります。魁の拠点は寮でしたけど、セルシスの拠点は、ちゃんと拠点でした」
「魁の拠点はどうなるんだろうね。まあ、拠点を使っていた人はほとんどいなかったけど」
朝食を食べ終えて、僕は部屋で献立表を書き写すことにした。アスカに頼んで各クランに渡す分は作ったのだけど、やはり個人用があった方が親切だろう。僕の姿が見えなかったからか、アスカが部屋を覗きにきた。
「旦那様、こちらにいたのですね」
「うん、献立表を人数分写してしまおうと思って。もうすぐ終わるから少し待ってて」
「では、私はお茶の支度をしてきましょう」
「うん、お願い。お湯はここで入れるから、空のポットだけ持ってきて」
しばらくすると、アスカがトレイにお茶のセットとクッキーを持って戻ってきた。僕はポットにお茶を満たすと、また続きを書き始める。お茶のいい香りがしてくる頃、ようやく人数分の献立表を書き終える。僕は事務机からソファーへ移動して、わざわざアスカと並んで座る。
「アスカと並んで、のんびりお茶が飲みたかった。このところ忙しかったからね」
「そうですね、2人で並んでのんびりするのは久しぶりです」
「でももうダンジョンに行くまでは、それほどやることは多くないよ。ただ、倉庫街にはまた行かないといけないか……」
「お酒やおつまみを買いに行くのですね」
「うん、前回のお礼にボタンさんには何かお土産を買っていこう」
楽しい時間はあっという間、そろそろリイサさんのお店に行かないと。僕とアスカは階段を下りてセリエさんのところへ。
「ちょうど良かった。先ほど姉がきてお2人に伝言です。今夜は皆さんでパーティーになるそうです」
「では、セリエさん。お昼ご飯も晩御飯も食べないことになります。昨日の料理は明日にしましょう」
「はい、私1人なら簡単に作って済ませてしまいます」
「では、行ってきます。留守をお願いします」
僕とアスカはリイサさんの店へ向かう。店に着くとキキさんと倉庫へ。調理済みの鍋が30個置かれていた。キキさんに何日のいつの何と聞きながら、1つ1つリュックにしまう。そして、アスカとキキさんの指示で今日の納品分の鍋と食材を納品。お店に戻ってランチを食べた。
「アスカ、拠点はここから近いの?」
「はい、すぐそばです。ギルド関連の施設は、屋敷も含めてどれも近いです」
ランチを終えて、早速セルシスの拠点へ。門には守衛さんがいた。
「魁のグランとアスカです」
「はい、中へお入りください」
「はい、ありがとうございます」
僕とアスカは玄関の方へ歩いて行く。玄関は開け放たれていて、玄関を通ると右の広い部屋に横長の机とイスが並べられていた。アスカが部屋に入ると、やはり注目される。王国最強だものね(笑)
部屋を見回すと、父上が手招きしてくれた。アスカに中央に座ってもらって、僕は通路側に腰かけて、横にリュックを置いた。すると父上に声をかけられた。
「グラン、野営の責任者はお前にした。だから、メンバー紹介の時に前へ出てきてくれ」
「はい、父上」
扉が閉じられたところで、父上が壇上にあがる。そして父上は突然、机をダンと叩く。一瞬にして空気がピンと張りつめる。
「今回の目的は33階層のボスの討伐ではない。行けるところまで行くのが目的だ。命がけだ。だから、命がおしい奴は部屋を出てもらってかまわん。世界のだれも見たことがない階層をこの目で見たい奴だけがここに残ってくれ。そして、今回参加できない奴らも心配するな。次回は必ずお前たちを連れていく。この遠征はこれから何度でも続けていくものだからだ」
そして父上は皆を見回す。
「皆残るでいいんだな。では始めよう。セルシスのセルス、LHのランゼン、うちのような小規模クランの声掛けに耳を貸してくれて感謝する。そして、王国屈指のメンバーが揃ってくれて感謝する。セルス、ランゼン、リサ、グラン前に出てきてくれ」
呼ばれた4人が前に出て父上の横にならぶ。
「今回のリーダーは俺が務めさせてもらう。副リーダーはセルスとランゼン。リーダーは毎回持ち回りでクランのリーダーが務める。後衛のリーダーはリサ。前衛のやつは知らないかもしれんが、後衛のやつは皆知っているな。そして、野営のリーダーはグラン。グランは誰も知らんだろう。アスカの旦那で俺の息子だ。こいつがいたから今回のクラン連合が実現できた。この後、戦術と野営について説明する。まずは自己紹介から始めるか。でかいクランからいくぞ、セルス頼む」
こうして1人1人の自己紹介が始まる。前衛のだれだれ、後衛のだれだれと簡単な自己紹介だ。たまたまアスカが最後の自己紹介になった。注目されている。前に立っていた人が席に戻り、アスカが前に呼ばれた。何のことはない、僕とアスカで壁に大きな紙を広げて持たされただけだった。
「これから話す戦法が、このクラン連合の戦い方だ。周りを見回して気付いたやつもいると思うが、後衛や支援が極端に少ない。これによって迅速にダンジョン内を進めるようにした。でも、心配はいらない。物資は豊富で、戦利品も1つ残らず持って帰る。おまけに個人個人に持ってきてもらうものも、持って帰ってもらうものもない。もちろん自分で持って行きたいものは持って行ってもらってもかまわん。詳しくは野営のところで説明する」
こうして、父上のダンジョン攻略についての説明が始まった。




