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20話 歩行訓練無事終了

 歩行訓練を終えて小休止の後、私はミリンダさんにお願いした。



「いろいろお願いして申し訳ないのですが、お父様のところへグリムさんとお話しに伺いたいのです。お父様とグリムさんの許可をいただいてきてくれませんか?」


「かしこまりました。お部屋でしばらくお待ちください」



 ミリンダさんは新しい紅茶に入れ替えてくれた後、部屋を出て行った。




 しばらくするとノックされ、ミリンダさんが戻ってきた。



「ご当主がお会いになるそうです」



 ミリンダさんに車いすを押してもらい部屋を出る。



「ここからは私が」



 グリムさんがミリンダさんと交代して、車いすを押してくれた。お父様のお部屋に着き、グリムさんにノックしてもらう。



「お父様、アグリとグリムさんで参りました」


「お入りなさい」



 私とグリムさんが入室すると、グリムさんはお父様の近くまで車いすを押してくれた。



「お父様へお借りした杖についてお伝えしておこうと思い、お時間いただきました」


「杖の件か……それならフィーネとスミスも立ち会わせよう」



 お父様はスミスさんを呼び、フィーネさんとスミスさんもここへ来るよう伝えた。しばらくすると2人も部屋に来て、ソファーに座る。全員揃ったところで、グリムさんが杖を皆さんへ見せる。



「スミスさんと相談して、この杖をお借りすることとなりました。かなり貴重なものと伺ったのですが、お父様、よろしいのでしょうか?」


「アグリ、その杖を持ってみてくれるかい」


「はい」



 私はグリムさんから杖を受け取った。朝と同様に私が握ると杖の魔石が白から透明に変わる。その変化にお父様が目を見開いて驚く。



「これは驚いた。言い伝わっていたことと同じだ。適合するものが持てば、石の魔力と使用者の魔力が融合し石本来の色と力を取り戻すと……」



 お父様は、うーん、考え込んだ。



「フィーネも持ってみなさい」


「はい」



 私はフィーネさんに杖を渡した。私が手を離した瞬間に石は白く濁ってしまった。



「この杖はグリス家初代当主婦人が使用していたと記録が残っていた。婦人は杖を持つことで石の魔力と婦人の魔力が一体となりお互いを補い合って力を発揮したそうだ」


「アグリ、君もその感覚があったのかい?」


「はい、手にすると私の魔力が石に吸い取られ、その後、石と私の魔力は混ざり合って1つになって、その魔力もとても澄み切ったものになる感覚です。それと、今日は右手の代わりに魔手を出し、左手の杖には、立てたまま倒れたりしないよう魔力を供給していたのです。ですが、魔力の減りがとても遅かったので自分でも驚いていました」


「アグリ、すまないが今ここでもう一度その状態を見せてくれないか?」


「はい」



 私はまず、「ハンド」と詠唱し、右手の魔手を出現させ、次に左手の杖に魔力を流して倒れないでと心の中で祈る。安定したところで車いすからゆっくり立ち上がった。この姿が初見の3人は驚いた様子で、フィーネさんに至っては、「白魔法の重複詠唱なんて有り得ない!」と知識があるだけに驚きも大きいようだった。



「アグリもういいよ、ありがとう」


「はい」



 グリムさんが私の真後ろに車いすを調整してくれて、私はゆっくり腰を落としていった。



「アグリ、少なくともこの屋敷で生活する間だけでも、その杖を君が使い続けて欲しい。本来の使用者を得たことで杖にもアグリにも、まだ変化が現れるかもしれないから」


「はい、お父様のお言葉のとおりにいたします」




 その後も何週間もかけ、歩行訓練を続け順調に回復していった。ミリンダさんは右袖がなく右腕部分が大きく開いた割烹着を用意してくれたり、グリムさんから筋肉痛予防マッサージを伝授されたミリンダさんが、お風呂の中でもマッサージをしてくれたりと周りの人のサポートも大きかった。


 そして今日は魔手も杖もなく、自分の体のみで歩き、屋敷の周りを1周するグリムさんの最終試験を受けることになった。もちろんグリムさんとミリンダさんも私の横を一緒に歩いてくれる。2人はひやひやしながら私の歩く姿を見守っているけど、自分としてはもう大丈夫って確信しながら歩いていた。そして、内心では、もうそろそろ将来のことを真剣に考える頃!と気持ちを引き締めていた。


 私のやりたいことって何だろう?もう白魔法士は無理。でも正式な白魔法士にはなれなくても、自分なりの魔法士にはなりたい。ただ。自分なりの魔法士になって、誰のどんなお役に立てるのか、全然想像ができない。それでも、魔法の探求は続けていきたい。せっかく学校であれだけ多くのことをいろいろな人たちに学ばせてもらえたのだから。調合は社会のお役に立てそう!素材を集めたりするなら都会よりも田舎がいいかな?山なら素材は豊富に用意できそう。村の人たちに薬を提供して、生活必需品を提供してもらう、物々交換が成立すれば何とか1人でやっていけるのでは?皆さんと離れてしまうのは寂しいけど、自立して生活していくにはそれしかなさそう。そうなると住まいだけは確保しておく必要があるかな?家ともなると高いのかな?まずはお金を稼ぐことから始める?それなら王都は最良の場所だけど……でも何を売ってお金を得るの?今の私は衣食住すべてを人に頼って生きているというのに……


 と頭の中をぐるぐる駆け巡らせる。



「アグリさん、アグリさん!」グリムさんに大きな声で呼ばれていた。


「もう1周歩くおつもりですか?」とミリンダさんに言われた。


「ごめんなさい、考え事をしていたもので」


「グリムさん、徒歩については合格をいただけますか?」


「合格です!ただし、明日以降も屋敷の周りを1周することを日課にします」


「はい、明日からも歩きます!お父様にも歩行訓練終了をお伝えしてもいいですか?」


「どうぞ、お伝えください」



 こうして辛かった歩行訓練はようやく終了です。まだまだ全回復までは程遠いですが、生活をしていくなかで困ることはないでしょう。困るのはこれからの生活のことだけです(涙)


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