61話 孤児院誕生!
僕はセリエさんをリイサさんのお店にお誘いするために屋敷に戻った。すぐに厨房に顔を出すと、セリエさんが料理をしていた。
「セリエさん、ただ今戻りました。残念ながら今夜はリイサさんの店に集合になりました。アスカはもうリサさんとお店に向かいました。セリエさんも支度をお願いします」
「あら、お料理を作っている最中なのです。私はこれを食べますから、お2人で行ってきてください」
「いいえ、今日のお料理は明日の夜に3人でいただきましょう。セリエさんはこのまま作ってしまってください。料理が終わったら私のリュックにいれてしまいましょう」
「グランさんのリュックは、本当にお料理を入れても大丈夫なのですね」
「はい、今度行くダンジョンでは1月も前に作った料理を食べる予定なのです」
僕は料理の様子を見ると、ほとんど完成しているようだった。
「セリエさん、こちらのお肉は焼く前のまましまってしまいますね」
「はい、お願いします。それと、スープももうしまってください」
「了解です」
僕がお肉のお皿とスープの鍋をしまっていると、セリエさんが野菜をトマトで煮込んだ料理もお鍋のまま持ってきてくれた。
「これもお願いします。私は急いで着替えてきます」
セリエさんの支度ができたところで、僕たちはリイサさんの店へ向かった。
「セリエさんのお料理は野菜の料理もあって嬉しいです。アスカはあまり野菜を食べないからそれも安心です」
「子供の頃からリイサさんの店で食べていたら、さっぱりした味の料理はお口に合わないかもしれませんね」
「はい、ですからこれからセリエさんの料理で薄味にも慣れて欲しいんです」
僕たちがお店に入ると、すでにマルスさんも合流していて、3人で飲んでいた。僕たちのビールが運ばれてきて、早速乾杯!
「今日のグランはかっこよかったわよ!アグリさんはしっかりした息子に育てたものね」
「こんなところで話すことではないですけど、やはり私もアスカも半分孤児みたいなものですから、父上にも母にも感謝する気持ちが強いです。だから孤児の子供たちに少しでもできることはしてあげたかったのです」
「うんうん、立派な心掛け。私も貧乏農村の出で、おまけに魔法学校の卒業前に両親共他界してしまって村へも帰れず、身寄りも帰る場所もなくなってしまったの。そんなときにグリムが声をかけてくれて救われた。だから私も孤児院の助けにはなってあげたい」
「私は孤児院の庭で薬草の栽培をしたらいいと思ってます。薬草は結構丈夫な草なので、育てるのはそれほど難しくないのです。それと、我が家は孤児院からパンを買おうと思ってます。自分たちが食べる分を作るついでに、他人に売れる分があればいかなと思いました。とにかく少額でも安定してお金がはいってくる仕組みを作れば、孤児院がいつまでも続けられますから。そしてゆくゆくは、ダンジョン攻略に持って行くパンもポーションも作って欲しいです」
「グランの偉いところは夢を語るだけでなく、具体案も合わせて提示すること……考えてみると、アグリさんもそんなところがあったわね」
すると父上がどかどかと店内に入ってきて、自慢げにサムズアップ!
急いでビールを注文して、まずは乾杯!
「皆、聞いてくれ。国王陛下が拠点を孤児院にすることを許可してくださった。おまけにフィーネ様の口添えで、フレデリカさんとヒビキさんは孤児院の職員として、国務院で雇っていただけることになった。それとフィーネ様が、昔のアグリさんと同じように、季節ごとに孤児院で作ったハンカチを送ってくるように言われた。買い取っていただけるのだろう。さすが我が国王陛下と王妃様だ!」
すごい、さすが父上。あっという間に国王陛下と王妃様に謁見して、要求を全部受け入れてもらうどころか、お土産までもらって帰ってきた。母さんがハンカチを織り、刺しゅうをしていた姿を思い出す。孤児院の子供たちも王妃様へお渡しするハンカチとなれば、やる気をだして作るだろう。今日はいい日になって本当に良かった。
今度はガンズさんがどかどかと店に入ってきた。またまた急いでビールを注文。とりあえず乾杯!
「屋敷を回ったが、どの家にも人がいない。最初からここへ来ればよかったな。ランゼンから連絡があって、明日の午後にセルシスの拠点に集合だ!」
皆の表情がきりっとした。いよいよダンジョン攻略のミーティング。気合が入ってきたのだろう。
「父上、明日のミーティングで私の発言する時間も取っていただけますか。裏方の仕事を頼める人を募集したいので」
「裏方の仕事?まあいい、グランにも発言させる」
「皆さんには先にお伝えさえてもらいます。ダンジョンへ持って行くものを注文してもらうつもりです。注文してもらったものは私が責任をもってダンジョンへ持って行きます。お酒やおつまみやおやつなんかです。シャワーは浴びることができるので石鹸やタオルでも何でも注文可能です。もちろん、ご自分で持って行かれるのも自由です」
すると父上が即座に反応!
「グラン、晩酌の酒とつまみの注文の話しだな。必要なものを書いてグランに渡せばいいんだな。明日には書いて渡す。ガンズもマルスもリサも注文したほうがいい。ダンジョンで毎晩晩酌ができるからな!」
ガンズさんも興奮気味に質問してきた。
「グラン、何本でもいいんだな。どんな酒でもいいんだな。つまみも何でもいくつでもいいんだな」
「はい、前もって教えてくれれば、こちらで準備しますから。腐ったりもしないので、生ものでも問題ないですよ」
「いやいや、さすがに生ものは……なんだかダンジョンでなく、旅行に行くような気分だな」
なんだか皆さん、大変な盛り上がり。ダンジョンでお酒を飲むのがそんなに嬉しいのかな?ビジネスチャンスです!




