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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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60話 父上の決断

 僕とフレデリカ先生が2人で泣き出して、周りは余計に困ってしまったようだ。僕をアスカが、フレデリカ先生をリサさんが、なだめながら2人を離す。


 僕は改めてフィレデリカ先生を目の前にした。



「フレデリカ先生、ごめんなさい。お話ししていたら、母のことを急に思い出してしまって……」


「いいんです。でも、お互いに涙を流すのはここまでにしましょう。あまりめそめそしていると、アグリさんに叱られてしまいます」



 そして僕はおばあさんとも挨拶をする。



「お見苦しいところをお見せして、すみませんでした。アグリの息子のグランと申します。母のゆかりの方なんですよね?」


「私はヒビキです。アグリさんが魔法学校の学生寮にいたときの、食堂のおばさんです」



 今度は僕がヒビキさんの両手をがっちり握った。



「ヒビキさん、母の遺品の割烹着をまだちゃんと持ってます。花の種をもらったり、フィーネ様が寮に来られたときに、お茶やお菓子を出してくれたとも話していました。母がお世話になり、ありがとうございました」


「いいんだよ。アグリさんは何事も一生懸命で、ついつい手助けをしたくなってしまう学生さんだった。でも、こんな立派な息子さんがいて、少し安心したよ」



 すると、リサさんがパンパンと手を叩いた。



「はいはい、昔話はここまでです。今日は大事な話しがあってこられたんでしょ。しかりして、グリム!」


「ああ、すまない。グラン、アスカ、こちらのお2人は、現在、孤児院を運営されている。ただ、孤児院の建物が老朽化して、そろそろ建て替えが必要だとのこと。最近は寄付が減り、孤児院の運営に苦労されていること。この2点で大変お困りになっている。それで俺もできる限りのことをしたいと考えていた。そしてグラン、お前も身寄りのない子供たちを助けたいと話していたのを聞いて、俺は決心した。この拠点を王国から買い取り、ここを新しい孤児院として使う。そして、孤児たちに仕事の場も勉強の場も与えて、自分たちの食い扶持も、将来の自分たちの夢も、両方持てるよう手助けすることにした。その手始めが、ポーションのビン詰めの仕事だ」


「父上、なぜもっと早くに話してくれなかったのですか!今回のダンジョン攻略のことで、お願いできた仕事が山のようにあったのに」


「おいおい、グラン。俺は怒られなければならんのか?」


「はい、父上には反省していただきたいです!アスカの屋敷のお手伝いさんとしてギルドに登録すれば、お2人にお給料もお出しすることができましたし、パンを焼いてもらうことだってお願いできました。食料の調達だって格安でできたものを……」


「すまん、すまん。これからはグランとアスカにも必ず声をかけるようにする。許してくれ」



 ここで皆さんがクスクス笑い出したので、この話しはここまで。皆さんにはテーブルに座ってもらって、僕とアスカはお茶とお菓子を用意して、同じテーブルに座った。皆が揃ったところで、リサさんが話し始める。



「ここでポーションを作っています。それで、ポーションのビン詰めをお願いしたいのです。今日は1500本分のポーションを作ります。まずはそのビン詰めです。終わりそうになったら次のポーションを作ります。そして最終的に合計4500本のポーションを作ります。年末までには作り終えたいです。作業はここでやってください」



 フレデリカ先生とヒビキさんは考え込んでいた。仕事は請け負いたそうだが、何か問題がありそうだ。僕は聞いてみることにした。



「フレデリカ先生、ヒビキさん、何か懸念事項があるのですね。お話ししていただけますか?」


「はい、仕事ができる大きい子供と、まだできない小さな子供がいます。子供たちを2か所に分けると、私たちも1人ずつ引率をしなくてはいけなくなって。食事や雑用に手が出なくなってしまいます」


「なるほど、では解決方法は簡単です。仕事をしない子もここへ連れてきてください。必要があれば仕事が終わるまでの期間は、こちらで寝泊まりされてもかまいません。何せここは元学生寮。すべての生活に必要な設備がそろっていますし、部屋もたくさんあります」



 父上が膝を叩かれた。



「グラン、いい考えだ。そして俺も決心した。ここをもう孤児院にしてしまおう。俺は早速国王陛下にお会いして許可をいただき、ギルドと交渉してくる。相談相手はフィーネ様だ、何とかしてくれるに決まっている」



 そしてリサさんも相槌をうつ。



「フレデリカ先生、ヒビキさん、そうしましょ。ここなら皆が安心して暮らせるし、私たちも支援がしやすい。きっとお隣にいるメリル先生も手助けしてくれます」



 その一言で、フレデリカ先生が決心した。



「旧友のご厚意に甘えさせていただきます。これで子供たちにより良い生活をさせてやれます。ヒビキさんもいいですね?」


「私は使い慣れた厨房に戻ってくるだけだ。何の問題もないよ」


「では、明日の午前中に子供たちを連れてここへ来ます。ここへ泊まるでも、孤児院へ帰るでもかまいませんので、皆さまはご無理だけはしないでください」




 こうしてお2人は、父上に連れられて帰っていかれた。残った3人で最上級のポーションを作るまで作業を進めた。僕は念のため調合鍋に圧力の魔法をかけて搾り取り、アスカにポットに注ぎ貯めてもらった。絞ると結構ポーションが取れた。これも最上級のポーションにまで仕上げる。どうすればいいか分からなかったので、リサさんに声だけかけてそのままにした。


 そして僕は調合鍋を魔法で洗って乾かし、アスカは出がらしになった薬草をゴミとしてまとめてくれた。これで今日の仕事は終了。リサさんは2階と3階の部屋を確認して回ったようだ。寝泊まりするのに問題はなさそうだ。


 僕たちも帰ることにした。リサさんはビールを飲みたがった。気持ちは分かる、今日はいろいろあったから。僕はリサさんとアスカを先にリイサさんの店に向かわせ、マルスさんにリサさんはリイサさんの店と伝え、セリエさんを迎えにいく。きっと父上も来るだろう。朗報を持って!


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