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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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59話 ポーションの出来栄え

 リイサんのお店で僕とアスカが席に着くと、キキさんはすぐに3人分のランチを持ってきてくれた。サービスでデザートもつけてくれたようだ。



「リサさん、お待たせさせて、ごめんなさい」


「いいのいいの、2人が忙しくしているのは分かっているから。しっかり働いた分は皆からお金をもらうのよ」


「僕とアスカの費用は気にしてません。少なくとも僕はクランの中で、一番ペーペーですから」


「何言ってるの、グランがいなかったら、このダンジョン攻略自体が実現できないのよ。もっと偉そうにしていなさい。それに費用をもらうのは、あなたたちのためばかりではないの。ちゃんと働いて報酬が得られない組織に誰が興味を持ってくれるの?善意だけでは世の中は動かないんだからね!」




 ランチを食べ終えて、早速拠点に移動することになった。拠点に入ると食堂横の厨房に大きな調合用の鍋が3つ置かれていた。そして壁には山のような薬草の束が置かれている。さて、リサさんのお手並み拝見だ。


 リサさんは調合鍋のふたを開け、中を見せてくれた。何やら液体で浸した、たくさんの薬草が詰まっていた。



「これは昨日作って、半日寝かせたもの。これを絞れば。最も性能の低いポーションの完成。では、性能の高いポーションは何が違うかというと、水が少なく薬の成分が濃いもの。でも水を飛ばすために熱を加えるのはダメ。成分が変化してしまうから」


「なるほど、僕が役に立てるのかは分かりませんが、思いつくまましゃべってみます。まず、僕は圧力をかける魔法がつかえます。それを使ってギューッと絞れるかは分かりません。それと水だけを取り除くことはできます。熱による変化はないと思います。調合鍋から少し取り出して、試してみましょう」



 僕はマグカップを取り出し、調合鍋から1杯をすくい取った。そしてマグカップに左手の人差し指を入れる。指先に意識を集中して、水だけを右手に移動させる。マグカップの中身がどんどん減っていき、右手は水でびしゃびしゃに濡れた。マグカップの半分まで液体の量が減ったので、リサさんに見てもらった。



「上級ポーションレベルだと思う。でも、目指しているのは最上級。もう少し水を抜きたいわね」


「マグカップは底が深いので、スープ皿に変えましょう」



 僕はリュックからスープ皿を取り出し、マグカップの中身をスープ皿に移した。そして、スープ皿に左手の人差し指を入れる。水分を抜いて行く。たぶんスープ皿に入れてから半分くらいに水分が減って、少しとろみが出てきたようだ。するとリサさんに止められた。



「また、確認してみるわね」



 リサさんは見たり臭いをかいだり指で触ったりした。そして最後に指をぺろりと舐める。



「うん、いい感じ。これなら最上級と言っても怒られないわ。最上級のポーションが作れるところまでは確認できて、最低限はクリアね。それで、グラン。魔力量は問題ない?」


「はい、問題ないです。休み休みやっても問題ないのですよね」


「うん、問題ないわ」



 とりあえず、これで今回のダンジョン攻略の準備は進められる。でも、もう少しきっちりした工程を作りたい。



「リサさん、誰でも作れるように、作業を明確にしたいのですけど」


「調合鍋に今の性能の低いポーションを作るまでは、紙にメモを書いておいた。鍋1つについて、何をどのくらい入れるって。だから迷うことはないわよ」


「リサさん、さすがです。すると次は鍋からポーションを取り出す作業ですか」


「鍋の下に栓がついているの。その栓をゆるめれば液体だけ抜き出せる。まずはやってみせましょう」



 リサさんは鍋の横に置かれていたポットのようなものを栓の口に近づけ、栓をゆるめる。勢いよく液体が出てきた。ポットがほぼいっぱいになると栓を閉める。リサさんは別の鍋にその液体を注ごうとした。



「リサさん、ちょっと待ってください。その鍋を見せてください」


「ええっ、もちろん。何か気になる?」


「僕が手を入れないと純度があげられないので、その確認だけ」



 僕は手を鍋に突っ込み鍋の底に手を突く。肘まではうまらないから大丈夫かな?



「リサさん、調合鍋1つから、この鍋いっぱいくらいのポーションが取れるのですか?」


「そうよ。そしてこの鍋の4分の1まで水を抜けば、最上級のポーションができる。500本分になるの」


「凄いですね、リサさん。そこまで計算されて準備をしてくれていたんですね」


「これでも王立の魔法学校を卒業しているのよ。そのくらいはやれますとも!」



 これで何とかなりそうだなと思っていた頃、父上が女性を2人連れて現れた。リサさんは2人とも知り合いのようで、とても懐かしそうにしていた。特におばあさんとは、とても親しげだった。



「グラン、アスカ、こちらに来て挨拶しろ」



 僕とアスカは2人の女性の前に行って挨拶した。



「初めまして、グランと申します。隣は妻のアスカです。よろしくお見知りおきください」



 僕が挨拶をすると、若い方……と言っても父上よりも年上のようだが……が、僕に抱きついて泣き始めてしまった。リサさんが女性の背中をさすって落ち着かせる。ようやく僕から離れて、挨拶を始めた。



「いきなり、ごめんなさい。私は孤児院で働いているフレデリカです。昔、グランさんのお母さん、アグリさんの魔法学校での担任教師でした。だから、アグリさんを事故から助けてあげられなかったのは、私の責任でもあります。申し訳ありませんでした」



 フレデリカさんは頭を深々と下げられてしまった。僕は困って、リサさんや父上をキョロキョロ見てしまう。でも、2人とも無反応だった。しかたない。僕はお返しに、フレデリカ先生を抱きしめた。



「母からフレデリカ先生に、ずいぶんと助けてもらったと聞いていました。庶民の母が魔法学校で普通に学生を続けられたのは、フレデリカ先生のご配慮があったからだと。母は多くの人たちの善意に感謝しながら天へ召されました。人を恨んだり、人生を嘆いたりはしていませんでした。母のその気持ちを尊重してやってください」


「ごめんなさい、グランさんの言うとおりです。アグリさんは立派な息子さんを授かって、幸せに過ごせたのですね」



 フレデリカ先生が落ち着くまで、僕はしばらく先生を抱きしめて、背中をポンポンと叩いていた。母を抱きしめているような気分になって、僕も少し涙ぐんでしまった。


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