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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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56話 寄り道の寄り道

 馬を走らせて1時間ほどしたところで、何やら煙のようなものがあがっているのが見えた。



「何かあったのかな?行ってみる?」


「はい、旦那様。お困りの人がいるかもしれませんから、行ってみましょう」



 僕たちは最短距離で移動するため、森の中を突っ切って馬を走らせる。やはりトラブルだ。荷馬車が野盗に襲われている。護衛の人たちが戦っているようだが、野盗の方が数が多いようだ。



「アスカ、助けるよ」


「はい、旦那様」



 アスカは馬を降りて、1番の激戦が行われている場所に駆け付ける。僕は数人の女性を守ろうとしていた護衛の人を助けるように魔法を使う。殺してしまう訳にもいかないので、得意の熱湯をかけることにした。お湯の雨をかぶった野盗は、その場に倒れ悶絶していた。



「護衛の人は野盗を縛ってください。私が魔法で他の野盗を食い止めます」



 僕は自由に動き回っている野盗を、次から次へとお湯攻めにする。どんなに屈強な野盗でも、さすがに熱湯攻めにはかなわない。どんどん倒れて悶絶する野盗が増えていく。野盗のボスと思われる人がいた。全身金属製の防具を着けていた。お湯は効果がないかな?僕は魔法の手の糸を出して。ヘルメットを何度も小突き回す。脳震とうでも起こしたのか、ボスはばたりとその場で倒れた。僕の見る限り、動いている野盗はいなくなった。馬にまたがりアスカの方へ向かう。こちらももう戦闘は終わっていた。


 僕たちが女性たちのいる場所に再び戻ってくると、護衛の責任者が近寄ってきて僕とアスカにお礼を言った。



「危ないところを助けていただき、感謝します。この輸送隊はマイル商会のもので、お礼をさせていただきたいので、お住まいとお名前を教えていただけますか?」


「ああ、マイルさんの商会の人たちでしたか。私たちは今朝、マイルさんの倉庫に寄って、ボタンさんと別れてきたのです。私はグランで、隣は妻のアスカです」


「おお、なんという偶然でしよう。お取引先の方だったとは。マイルにもお助けいただいたことを伝えておきます。それと大変言いにくいのですが、近衛兵団が来られるまで、私どもと一緒にいてくれませんか。また、野盗が援軍を連れて戻ってくるかもしれませんので……」



 僕はアスカを見ると、アスカも僕を見て頷く。



「はい、皆さんが落ち着くまでは一緒にいましょう。護衛の方々で野盗を一か所に集めてください。その他の皆さんは私と妻のところへ来ていただきましょう」



 僕とアスカは荷馬車の近くに行き、商人や女性の皆さんと合流する。まだ、皆が不安そうな様子だ。僕はリュックからテーブルとマグカップ。紅茶のポットを出して紅茶をいれることにした。僕が紅茶をいれると、アスカがマグカップを配ってまわってくれた。お茶を飲んで少し落ち着きを取り戻したのか、皆さんがホッと安心してくれたようだ。そのうち、護衛の皆さんも戻ってきたので、護衛の皆さんにもお茶を配った。


 野盗はもがいて逃げようとしていたので、僕は定期的にお湯の雨を降らせて悶絶さえておいた。そのうち、野盗もあきらめてくれたようで、おとなしくなった。




 しばらくして、何頭かの馬の走る音が聞こえた。皆が緊張しながら警戒していたが、お待ちかねの近衛兵団だった。アスカと護衛の責任者が近衛兵団の隊長に状況の説明をしていた。僕はマグカップを回収して回る。皆さんから大変喜ばれ恐縮していまう。テーブルも片付け終えると僕の役目は終わり。説明が終わったアスカが戻ってきた。



「旦那様、後は近衛兵団の皆さまが引き受けてくださいます。私たちは先に進みましょう」



 僕とアスカは皆さんに会釈しながら、この場を後にした。大きな道に戻り馬を走らせる。ボタンさんが書いてくれた地図のとおりで、山が見えてきた分かれ道を右に進む。ゴーっと大きな音が聞こえてきた。僕たちは馬を降り、馬は近くの木に手綱を結んで、水を与えて休ませる。そして僕はアスカと手をつなぎながら、崖の端まで近づいた。そこにもの凄い水量の滝が落ちていた。崖の下もかなり深く、こんな景色は見たことがなかった。



「凄い迫力の景色だね」


「はい、とても見事です」



 僕たちはしばらく滝を見つめていた。でも空腹には勝てなかった。アスカには滝を見てていいよと言い残し、僕は昼食の準備をした。かまどを2つ出して、固形燃料に火をつける。野菜のスープの入った寸胴鍋と、チキンのトマトソースの煮込みの入った寸胴鍋を出した。テーブルと籠とスープ皿を4つ。パンは食べやすいようにロールパンをかごの中に入れておく。フォークとナイフとスプーンを取り出して並べる。スープもチキンも温まったところで、お玉ですくってスープ皿に注ぐ。チキンの上には粉のチーズをたっぷりふりかければ出来上がり。



「アスカ、お昼の支度ができたよ」


「はい、旦那様。今すぐいきます」



 僕とアスカはイスに腰かけ、いただきますで食べ始めた。景色がきれいだから、余計に食事がおいしい。



「旦那様は凄いです。野盗も退治されれば、こんなおいしいご飯もササっと作ってしまいます」


「野盗の退治はアスカだって頑張っていたでしょ。見事な剣さばきで無力化していくのだもの」


「旦那様の熱湯の攻撃は、対人戦では無敵だと思います。きっと私も父上もかないませんよ」


「そんなことないと思うよ。野盗のボスは金属製の鎧で身を固めていた。だから魔法の手で攻撃したんだよ」


「金属製の鎧でも熱湯で攻撃可能だったのではありませんか?」


「確かに熱湯の攻撃は有効だったかも。自分が攻撃される立場だったら恐ろしい。でも、せっかく景色の良いところでご飯を食べているのだから、もっと楽しい話しをしよう!」



 そして僕たちは、今回の旅の楽しかった出来事を話して過ごした。昼食を食べ終えて片付けを済ませ、王都へ戻ることにした。王都へは夕方前に着いた。屋敷へ戻るとやはりホッとする。


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