52話 3人の生活
そろそろ歓迎会の準備でもとなり、3人で厨房へ行った。僕はリュックの説明をセリエさんにもしたけど、理解はできていないようだった。とりあえず、今日買ってきたものをすべてテーブルの上に出す。そして、先日作っておいたコンソメスープの寸胴鍋も出して見せた。これにはセリエさんも驚いていた。せっかくなので、生の肉と生の魚も出して見せた。もう頭がショートしたようで、無反応になってしまった。
僕は薪を取ってきて2か所のかまどに火をつける。そして1つのかまどで寸胴鍋を温め、もう1つのかまどで肉と魚に香草をまぶしグリルすることにした。香草とスパイスをリュックから取り出し、包丁で叩いて細かくした。塩も足してオリジナルスパイスに仕立て、肉と魚にふりかけて下準備完了。
フライパンで焼き始める前に、アスカの様子を見る。アスカは大きいお皿に買ってきた食材を並べてくれていた。
「アスカ、そろそろ焼き始めていいかな?」
「旦那様、その前にパンも出しておいていただけますか。お肉とお魚のグリルがあるので、固いパンがいいですね」
「了解!」
僕はリュックから取り出した長細いパンをアスカに手渡す。アスカはパンをひと口大に切っていた。今夜はパンにのせて食べるつもりのようだ。つまむものが多いからいい考え。
いよいよフライパンで肉と魚を焼き始める。すぐにいい香りが立ち込める。魚を先にひっくり返す。肉は焼き目を確認してからひっくり返す。魚がそろそろ頃合いとなった。アスカがお皿を置いておいてくれた。僕はその皿に魚を取って乗せる。肉も焼き目を確認して順に皿へ移す。これでグリルは完成。スープは温まるまでもう少しかかりそう。僕は空の寸胴鍋を出してお湯で満たしてフライパンと包丁を寸胴鍋に浸けておいた。
お腹も空いたし、もう食べ始めようと思って食堂へ向かう。アスカが3人分の配膳をしてくれていた。ワインのコルクを抜いて、まずは今夜の主役のセリエさんのグラスに注ぐ。アスカと僕のグラスにもワインを注げば準備完了だ。
3人で席についてグラスを手に取る。
「では、セリエさんが屋敷に来てくれたことを祝して、乾杯!」
「乾杯!」
3人でグラスをこつんとあてて、1口ワインを飲む。おいしいです。アスカはセリエさんのお皿に料理を少しずつとってお皿を渡す。
「普段は自分で注いで、自分でよそってなのですが、今夜は特別ですよ。旦那様にも特別にお取りしましょう」
「ありがとう。アスカはお腹がペコペコなはずなのに、セリエさんの前では猫をかぶっているのかな?」
「いいえ、旦那様の分をとった後は、しっかりご馳走になります!」
僕とアスカのそんなやり取りを見ていたら、セリエさんは少ししんみりされていた。
「旦那様が亡くなられて、寂しいですよね」
「はい、だからお2人には、私の前でも遠慮せずイチャイチャしてください。いつかはイチャイチャしたくてもできないときがきてしまいますから」
アスカは励ますようにセリエさんに話し始めた。
「セイラさんも旦那様とお子さんを亡くされて、絶望の中で我が家にお手伝いにきてくれたそうです。お父様は愛する女性とお別れして、私は両親を亡くしてと、3人で悲しみを抱えていたので、3人で寄り添って生きていきませんかとお父様はセイラさんに話したそうです。そして、私の将来を明るいものにするお手伝いをして欲しいとお願いしたそうです。今では私をお嫁に出し、お父様とセイラさんは昔からの親友のように親しくされています。きっとセリエさんもいつか私たちとそんな関係になっていますよ」
「はい、アスカさんの言われるとおりです。その日のための第1歩が今日でした。まだまだ長い道のりですけど、きっとそんな未来になっていますね」
「そうです、今日から始まる目出度い日なのです。だからセリエさんもアスカも、たくさん飲んで食べて、明るい気分でスタートしましょう!」
こうして、場の雰囲気も和んできたので、アスカも食べることに専念しだした。セリエさんも料理を食べ始めていた。特に僕の焼いたグリルに驚かれていた。
「セリエさん、私とアスカの1日についてお話ししておきます。2人は起きると庭で訓練をします。その後、2人でお風呂に入ります。お風呂は先ほどもお見せしたとおり、セリエさんが準備してもらわなくても大丈夫です。お風呂からあがると朝食を食べます。朝食の支度はお願いします。その後、私は朝食の片付けと洗濯。アスカは屋敷の掃除をしていました」
「朝食の片付けも、洗濯も、掃除も、これからは私に任せてください」
「はい、ありがとうございます。その後、外出するときはお昼はリイサさんの店で食べますが、外出しないときは家で食べます。午後は外出したり、自分たちのために時間を使ったりが多いです。夕食も外出していれば、そのままリイサさんの店で食べます。家で過ごした時は家で食べます。たまに市場に買い物に出かけて、夕飯を買って帰ってくることもあります。それと家で晩酌して終わることもあります」
「そうなると、お2人がお屋敷にいるときは、私は昼食と夕食の支度があるのですね」
「はい、夕食の後からお酒を飲むこともありますが、たまにです。後は夜もお風呂に入って就寝です。夜のお風呂も私に任せてください」
「ご飯を食べないときは、一声かけていただけると助かります。食事が無駄になりませんから」
「はい、そこは注意します。ただ、料理は無駄になりませんよ。私のリュックに入れておくと腐らないので」
「すみません、そこはまだ理解できてません」
「セリエさんも朝、お風呂に入りませんか?私が訓練の前にお湯をいれておきますから。それとかまどの火は1つけておきましょうか。その方が楽ですよね」
「はい、ではお言葉に甘えてどちらもお願いします」
「明日は朝食を食べてから出発します。明後日帰ってくるかどうかは、まだはっきりしません。セリエさんはセイラさんのところへ行かれてもかまいませんからね」
「いえいえ、もう今日からここが私の家ですから」
こうして3人の生活が始まりました。




