1話 魔法学校までの道のり
私は物心ついた頃にはもう孤児院で生活をしてた。布にくるまれ籠に入れられた赤ん坊の私は、孤児院の前に置き去りにされていたそうだ。赤ん坊に関する情報は何もなく、名前すらなかった。孤児院長は私の名を『アグリ』と名付け、村の子として孤児院で育てようと決心する。孤児院長は私を連れて村長にその旨を報告し、問題なく了承さた。こうして私は村人となった。
小さな村ではあったが、将来の働き手となる孤児を蔑むようなこともなく、村は村の子と同様に私を育ててくれた。村人たちには今でも感謝をしている。
そんな私が転機を迎えたのは9才のとき。村の近辺を徘徊するようになった魔獣を、追い払おうとした村の犬が、魔獣と奮戦した際に怪我を負ってしまった。何とか魔獣は追い払ったものの、犬は深手を負い、もう死を待つのみの姿となっていた。犬をことさら可愛がっていた私は、横たわった犬の体に縋り付き、『治って!治って!』と心の底から祈り願った。すると犬は白い光に包まれ、傷口が塞がり、徐々に回復を見せ始めた。しまいには、弱々しいながらも立ち上がるまでに快復した。その光景に村人たちは私の祈りが神に届いたと、神への感謝の祈りを捧げた。そんな中、孤児院長だけは私が白魔法士としての才があるのかもしれないと判断した。そして、領主様宛に事の顛末を手紙にしたため報告したのだった……
数日後、領主様から派遣された初老の女性の魔法士が、魔石を持って村を訪れた。魔法士は、「この石を両手で持ってみてくれるかしら」と、私に魔石を握らせた。すると石は白く光り、私の体内に魔力が存在することが確認できた。
「アグリさんはいくつですか?」
「9才です!」
「それでは来年の春から魔法学校初等部に所属してもらいます」
そう私に伝えてくれたものの、私には何のことだか理解できなかった。
「魔法士候補を輩出された村には領主様から補助金が支給されます。大切な働き手をお預かりすることになりますので。それではアグリさんの入学準備をお願いします」
村長と孤児院長にそう伝え魔法士は村を去っていった。
その日以降は、読み書きや計算についての教育を孤児院長から受けるのが日課となった。空き時間も自習をしたり本を読んだりして過ごした。かなりの詰め込み学習だったようだが、私は勉強が好きで苦にも感じていない様子だったようだ。孤児院長にもっともっととせがむほどの勉強意欲だったらしい。
翌年の春になると、今度は馬に乗った騎士様が、私を迎えに王都から村を訪れた。そして、村の子供にしては少々贅沢な服を着せてもらい、孤児院長に手を引かれ騎士様の元に連れていかれた。
「村の皆さんに大切に育てていただいて幸せでした。立派な魔法士になって村に戻ってきます」
私はお礼を述べて深々とお辞儀をした。
そんな私に、村人はフラワーシャワーで出発を祝ってくれた。その花びらが舞う美しい光景が一生涯忘れられず、私は花好きをこじらせてしまった……(笑)
馬上に私を乗せた騎士様は、「では、アグリさんをお預かりします!」と馬を進め、村人たちも手を振って私たちを見送ってくれた……
村を出て3日で王都が見えてきた。王都は白い石の城壁に囲まれていて、大きな門が開かれ、大勢の人の往来も見えた。
また、王都と隣接するように高い壁に囲まれた一画もあった。
「騎士様、あちらの壁の中にも街があるのですか?」
「いや、あそこには地下にダンジョンがあるんだよ。ダンジョンは魔獣が住み着いているので、魔獣が外に出ないように高い頑丈な壁が建てられているのさ。騎士や冒険者がダンジョン内の魔獣を討伐していることで、魔獣が外に出たという話しはもう何年も聞いていないけどね」
そんな話しをしていると門へと到着。騎士様は私を馬に乗せたまま馬を降り、門番に書類を見せて入場手続きを始めた。
騎士様が使用した受付は順番待ちをすることもなかった。だが別の受付は庶民や商人と思われる人々が長い順番待ちをしており、活気があるやら騒がしいやら。そんな光景を初めてみた私は目が回るような思いをしていた。
手続きを終え馬上に戻った騎士様に、「それでは魔法学校に案内するよ。ここから先は人が多いからしっかりつかまって!」と言われ、私は手綱をしっかり握りなおした。
王都に入ると建物も城壁と同じ白い石で建てられ、道も白っぽいレンガが敷き詰められていて、街全体が明るい印象を与える。混雑していた門近くの広場を抜けると、人の往来も落ち着きだす。私は大きな建物が立ち並ぶ道をキョロキョロ見物していた。そして目的地の白い壁に囲まれた大きな建物の前で止まり、騎士様は門番と話しをするため再び馬を降りていった。
門番に書類を見せると、門番は、「教員室に向かってください」と門を開けてくれた。
騎士様は馬には乗らず、手綱を持ちながら馬と共に歩き出した。『私も降りた方がいいのかな?』と疑問の表情でいると、騎士様が、「乗馬のままで大丈夫だよ。それより馬上は高くて遠くまで見えるから、周りを見ているといい」とにっこりしながら教えてくれた。
「魔法学校は正面が学習館、左手が実技館、右手が学生寮になっている。今から行くのは学習館で、先生たちのいる教員室に向かうんだ」
いよいよの魔法学校に私の緊張も高まる一方でした。




