51話 セリエさんの初めてのおつかい
リイサさんのお店で父上も同席。となれば、昼からビールもしかたない。いつもの乾杯です。でも、さすがにセリエさんも1杯だけにするつもりのようだ。
「どうだ、セリエさん。やっていけそうか?」
「大きなお部屋をお借りしました。それだけで、もうドキドキでした」
「なるほど、セイラさんも大きな部屋に移ってはどうだ?」
「もうあのお部屋で15年です。あの部屋が私の家のようなものですから、お気遣いはいりませんよ」
それから父上とセイラさんは昔話に花を咲かせた。これは長くなるパターンだ。僕とアスカとセリエさんはランチをパクパク食べて、2人を残し早々に買い物に出かけた。
「セリエさんは王都は初めてですか?」
「はい。ですから、どこで買い物ができるかも知りません」
「実は私も王都に来てまだ数カ月で、セイラさんに教えていただいた店しか知りません。これからはセリエさんがセイラさんから聞きだしてください」
まず、僕たちは市場で今夜の買い物をした。今夜は3人で歓迎会をするためだ。思い思いに食べたいものを買い、飲みたいお酒を買う。セリエさんには、明日から数日、倉庫街に行って家を空けるからと伝えて、しばらくの間の食料も買ってもらった。
食料品の買い物が終わると、僕たちはその足でライザさんの店に向かった。店にはオスバンがいたので挨拶した。そしてオスバンさんに相談する。
「今日はセリエさんの普段着と仕事着なので、既製服になります。ですから、ライザさんは呼んでいただかなくて大丈夫です」
オスバンさんと世間話をしながら店内を歩き、店内の一画に案内される。確かに王都で一般の女性なら、この辺の服装が普通だろう。だが、セリエさんは恐縮して服を選ばない。
「セリエさんも、こんな高価な服は選べないと思われたでしょ。私も王都に来て初めて服を選んだときはそうでした。でも、この辺の服は王都の一般の女性の普段着です。ですから好きな服を選んで試着してみてください」
それでもセリエさんは躊躇していたので、僕はアスカに頼んでセリエさんに似合いそうな服を選んでもらって、2人で試着室に向かってもらった。
「オスバンさん、セリエさんは我が家にお手伝いさんとして来てくれた人なのです。ですから、仕事の時に着る気軽な服装の案内もお願いします。それと、庶民の女性が、例えば貴族街に手紙を届けに行く場合、どのような服装なら違和感がないですか?」
「貴族街にも使用人やお手伝いの人もいますし商人もいますから、制服のような服装なら違和感はありません」
「その服も案内をお願いします」
こんな会話の間にも、何度かセリエさんは試着して着替え姿を見せてくれていた。3着の予定だったけど、アスカは選んでもらえるよう5着持ち込んでいた。でも、セリエさんは選んでくれない。えい、5着いただいてしまえ!
次に仕事着の一画。こちらは仕事で使う服なので、しっかり選んでくれた。こちらの服の方が傷みが早いと思って、こちらも5着購入することにした。そして、最後にきちっとした服装。これは僕もアスカも分からないので、オスバンさんにお願いした。オスバンさんは白いブラウスに濃紺のスーツのような服を選んだ。セリエさんとアスカには試着に行ってもらった。
「女性用のスーツもあるのですね」
「はい、女性の秘書もいますし、女性の経営者もいます。そういう方たちはカチッとした服装をされます。そして、スーツ姿なら貴族街でも、まったく違和感はありません」
しばらくすると、セリエさんがスーツ姿で出てきた。僕は分からないのでアスカの方を見ると、アスカはうんと頷いていた。これで決まりだ。
「グランさん、スーツ姿なので、靴も合わせる必要があります」
「なるほど、靴も今日いただく服に合わせて、何足か見繕ってください」
靴は普段用3足、外出用3足、スーツ用1足を購入することにした。それと、アスカにエプロンも必要ではと言われエプロンも2枚いただいた。
オスバンさんにお家計をお願いすると、350シル。予定よりかかったけど、セリエさんにはこれからお世話になるしいいでしょう!金額を聞いて、セリエさんは青い顔をしていた。そんなにお返しできません!だそうだ。
「セリエさん、この服は私とアスカからのプレゼントです。王都で生活されるのです、このくらいは最初に揃えておく必要があるのです。今回は何も言わず受け取ってください。次回からはご自分でお好みの服を買ってください」
オスバンさんも、これから王都で頑張ってくださいと、しゃれた髪留めをいくつかサービスしてくれた。
荷物をリュックにしまい、僕たちは屋敷に戻ることにした。
屋敷に戻って、セリエさんのお部屋にお邪魔する。買ってきた洋服を渡して僕は居間へおりた。アスカはセリエさんにクローゼット部屋を案内するのだろう。しばらくすると2人が下に降りてきたので、3人で厨房へ行く。
僕はセリエさんにポットにお湯を入れるところを見せる。一瞬でポットに熱湯が満たされる。セリエさんは驚くばかり。ついでにかまどに薪をいれて、魔法で火をつける。これは驚くというより、怖そうな顔だった。そして風呂場にも案内して、空の湯船にお湯で満たした。もう無表情だった。
「セリエさん、私とアスカはいつも2人で男性用の方にはいっています。ですので、セリエさんは女性用を使ってください。私がいれば、女性用も私がお湯をいれますので」
「グランさんがいると、水汲みも、火おこしも不要なんですね」
「はい、なので私をうまいこと利用して楽をしてください」
「お言葉に甘えるようにします」
一通りの説明を終えたので、3人でお茶を飲むことにした。歓迎会の準備は夕方から始めよう。それまでしばし休憩です。




