50話 セリエさんの引っ越し
僕とアスカは父上の屋敷にセリエさんを迎えに来た。セイラさんがお茶を用意してくれたので、まずはお茶をご馳走になる。
「父上、セリエさんの給金は、どう払えばいいのですか?」
「ギルドから本人に支払われているはずだぞ。気になるならセイラさんに聞いてみなさい」
セイラさんがお茶菓子を持って戻ってきたタイミングで、聞いてみた。
「セイラさん、お手伝いさんのお給料はどう受け取っていますか?」
「毎月月末にギルドから支払われています。セリエも昨日、ギルドに登録してきたので、月末には給料がはいるはずです」
「分かりました。ありがとうございます」
「お2人とも、セリエを末永くお願いします」
「こちらこそ、セリエさんに来ていただけて、本当に助かります」
支度を整えたセリエさんが降りてきた。荷物は小さなカバンが1つだけだった。小さな村の人間なら、農民だろうが商人だろうが、それほど裕福ではない。旦那さんを亡くされて、生活を維持できなくなって、姉を頼って王都へ来たのだろう。僕と境遇は同じだ。これからは協力してやっていこう。
セリエさんは父上にお世話になったと挨拶をしていた。父上とセイラさんが僕たちを見送ろうとしたので、セイラさんも来るようにお願いした。父上も賛成してくれて、4人で屋敷に向かう。と言っても隣同士なので、門を出て隣の門を入れば終わりだ。セリエさんの登録はアスカがしておいてくれたらしく、4人でそのまま門を通れた。
「グリムさんのお屋敷より、さらに大きいのですね」
「はい、父上よりアスカの方が冒険者レベルが高いらしく、冒険者ギルドで1番大きなお屋敷をお借りしています。ただ、1部屋1部屋が広いだけで、屋敷の作りは同じです」
玄関を通って、3階へ上がる。セイラさんはおやっと不思議そうな顔をした。僕とアスカが前を歩いて、僕たちが使っている部屋のフロアを挟んで反対側の部屋へ案内する。
「セリエさんはこの部屋を使ってください」
セリエさんは部屋を見回しポカンとしている。セイラさんは戸惑いながらも僕たちに確認した。
「3階のフロアはご家族のフロアです。私たちの住むところではありません」
「はい、フロア右側は家族で使うつもりです。ですから、セリエさんは左のお部屋を使ってください」
「グランさん、使用人やお手伝いは2階に専用の部屋があります」
「せっかく広い部屋があるのに、わざわざ狭い部屋を使う理由がありません。それにセリエさんはもう家族みたいなものです。気にされることはありません」
僕が意見をかえる気がないのを察して、セイラさんはあきらめてくれた。
「とりあえず、セリエさんは荷物を片付けてください。その後、女性3人で屋敷内を見て回ってください。ほとんど使っていない部屋ですけど。見終えたら居間へ来てください」
僕はそう言い残し、厨房へ向かった。お茶とクッキーを用意する。魔法でポットに熱湯を満たす。トレイに乗せて居間へ運んで、皆が降りてくるのを待った。
昼間に庭をじっくり見るのは久しぶりだ。伯爵様のお庭とは比べ物にならないが、それでも、この広い庭は庶民ではとうてい手に入れられない。アスカの偉大さがよく分かる。僕は庭を見ながらうとうとしてしまったらしい。
アスカに肩を揺すられ起こされた。
「ごめんごめん、気持ち良くてうとうとしてしまった。すぐにお茶をいれるから」
しかし、お茶はもうセリエさんが入れてくれていた。とりあえず、4人でソファーに座りお茶を飲む。
「セイラさん、この調子だと、お昼はリイサさんのお店ですかね?」
「はい、そうなると思います」
「では、セリエさん。昼食の後でセリエさんの生活用品を買いに行きましょう。洋服も必要ですかね、それも買いに行きましょう。それと、今月の生活費をお渡ししておきます」
僕は王都民証に向かって話す。セリエさんに1ゴルを送金してくださいと。ブルブルと僕とセリエさんの王都民証が揺れて送金は完了。セリエさんは1ゴルの生活費に、また驚いていた。
「私は魔法士なので、生活の中で魔法を使います。例えばお湯は魔法でわかします。かまどの火も魔法でつけます。なのでセリエさんは私をうまいこと使って、セリエさんの労力を節約をしてください」
「はい……分かりましたとは言えないので、おいおい教えてください」
「それともう1つ。大変申し上げにくいのですが、私とアスカは新婚夫婦です。イチャイチャしている姿を見かけても、知らん顔をしてください」
「はい、そちらはお任せください!」
もちろん、アスカはこのやり取りを聞いて、真っ赤になってうつむいてしまった。その姿を見て、僕たち3人はクスクス笑ってしまった。
「セリエさん、私もアスカもセリエさんに生活のお手伝いはお願いしますけど、四六時中屋敷に居てくださいとは言いません。セイラさんのところへお茶を飲みに行ったり、市場へ買い物に行ったり、趣味に時間を使ったり、仕事とプライベートはきっちり分けて、マイペースで快適に生活してください。それが私とアスカからの1番のお願いです」
「はい、ご厚意に感謝します。これから末永くよろしくお願いします」
お腹も空いてきたので、お昼を食べに行くことにした。アスカが先に行って父上に声をかけてくれて、父上とも屋敷前で合流。これからは5人でリイサさんの店に行くことが増えそうです。




