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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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41話 ダンジョンへの恐れ

 父上との立ち合いで、僕は課題を抱えた。点の攻撃は消費魔力量の点では確かに優れているが、とにかく避けられる。一方のハチの巣盾はアスカも父上も抑え込むことはできたが、黒魔法とは言えども連続して詠唱しては魔力量はあっという間に激減するだろう。そうなると妥協点は点から線にすることか。今でも5個程度の攻撃用の盾は投げていたが、僕の構想では15個は投げたい。そうなると、盾は針のように細くして、その代わり長さは防御の盾並みにしたい。魔力量を見ながら針の太さもできるだけ太くしたいな。



「アスカ、申し訳ないけど、今朝の訓練では盾も持ってきてもらえる」


「はい、かまいませんよ。お父様との立ち合いで、何か試したくなったのですね」


「うん、僕の弱点克服だよ」



 訓練はお互いに素振りをした後、立ち合いの中で試させてもらった。僕はまずアスカに盾を構えてもらって、盾に向かって横一文字に攻撃。盾にいくつかの針が当たる。僕が想像していたより威力はありそうだ。



「アスカ、威力はどう?」


「はい、魔獣を一撃とはいきませんが、いい攻撃だと思います。魔獣によってはノックバックして距離を取れるでしょう。私との立ち合いでも使ってください」


「万が一アスカに当たっても怪我はしない?僕は何本もこれは出せそうだけど」


「怪我はします。旦那様がご心配なら軽装を着けてきます」


「お願いしてもいい?僕がアスカに怪我をさせるなんて、想像しただけでも嫌だもの」



 アスカは少々気難しそうな顔をしながら、すぐに屋敷に戻ってダンジョンへ行くときの装備を着けてきてくれた。



「旦那様、もう次のステップに進むべきだと思ったのでお話しします。ダンジョンの下層で戦えば、怪我をするのは当たり前になります。致命傷を避けるために怪我をします。攻撃をするために怪我をします。冒険者は皆が普通にしていることです。今まで旦那様も私も怪我をしないでダンジョンから戻ってきたのは、怪我をするような場所まで行っていないからです。でも、今回のダンジョン攻略は違います。私もお父様も怪我をします。ただ、致命傷は受けません。ポーションで回復するなり、白魔法で回復するなりで済む範囲の怪我は常にするものと心得てください」


 僕はアスカが怪我をする姿を想像して血の気が引いた。思わずアスカをギュッと抱きしめた。悲しく切なくて涙が溢れてとまらなくなった。そんな危険だってこと知らなかった。アスカが怪我をしながら戦っていたなんて知らなかった。ダンジョンは恐ろしいところだと散々聞かされてきたけど、やはり実感が伴っていなかった。でも、アスカが怪我をすることを考えたら、僕は心底恐ろしくなった。アスカにはそんなところには行ってほしくないし、怪我もしてほしくない。もちろん僕も行きたくない。



「旦那様、ダンジョンが恐ろしいところと実感されたのですね」


「アスカに怪我はしてほしくない。ダンジョンには行きたくない……」


「いいですよ、旦那様が嫌ならば2人で冒険者は辞めましょう。ダンジョンはそれほど危険なところなのです。でも安心してください。ダンジョンへ近寄らなければいいのです。さあ、屋敷へ戻って、今日はのんびり過ごしましょう」



 アスカは僕を支えるようにしながら、屋敷へ連れ帰ってくれた。部屋まで行って、着替えを手伝ってくれて、ベッドへ横になるように言ってくれた。僕はアスカの指示に従いベッドに横になると、自分が震えていることに初めて気付いた。アスカは自分も着替えをすませて、僕と一緒にベッドに寝転んでくれる。そして、アスカは僕を優しく抱きしめてくれた。



「震えるほど怖かったのですね。お可哀そうな旦那様。でも、大丈夫ですよ。旦那様が落ち着くまで、このまま抱きしめてあげますから」



 アスカは子供をあやすように、僕の頭を撫でてくれた。僕はアスカの胸元に顔を埋めてじっとしていた。心が休まる。子供の頃に悲しいことがあると、母さんもこうして抱きしめてくれた。母さんが亡くなって、こんな安らぎはもう一生得られないと思っていたのに、アスカがしっかりと与えてくれた。僕は嬉しくなった。そしてこの安らぎの中で、まだ甘えていたくなった。




 僕が目を開けると、すべての色は茜色だった。長い時間眠ってしまったのか……ただ、僕はアスカの胸元に顔を埋めたままで、アスカは僕の頭を撫でてくれている。今の状況が把握できないでいる。



「旦那様、起きられましたか?お腹は空いていませんか?サンドイッチなら、ベッドサイドに用意してありますよ」



 僕は何も答えず、さらに深くアスカの胸元に顔を埋めた。



「今日は随分と甘えん坊の旦那様ですね。いいですよ、旦那様の気が済むまでこうしていましょう」



 僕はアスカに包まれながら、再び深い眠りに落ちる……




 僕は再び目を開けた。辺りは暗く、明かりは小さなランタン1つのようだ。でも変わったのは外の様子だけ。僕はアスカの胸元に顔を埋めたままで、アスカは僕の頭を今でも撫でてくれている。さすがの僕でも今回の目覚めで頭も覚醒していた。



「アスカ、ごめん。ようやく目が覚めたよ」


「まだ、このままでもいいですよ。無理しなくていいですからね」


「ううん、もう大丈夫。アスカ、ありがとう。やはりアスカをお嫁さんにできて本当に良かった。僕は幸せだ。大好きだよ、アスカ」


「どうしたのですか、起きていきなり……少しは落ち着かれたようで安心しましたけど」



 僕は変わらずアスカにくっついたままだけど、アスカとの会話はしっかりしていた。



「旦那様、お腹は空いていませんか?」


「うん、お腹空いた」


「今日はセイラさんが来られて、明日の朝食まで作ってくれました。お風呂も入れるように準備してありますよ」


「アスカはお腹空いてる?」


「はい、もうペコペコです」


「奥さんがお腹を空かせているなんて大変だ!一緒にご飯を食べに起きよう」



 僕がもぞもぞ起き出そうとすると、アスカはもう1度ギュッと僕を抱きしめてくれた。



「旦那様の気持ちを理解してあげられなくて、本当に申し訳ありません。これからは旦那様を大切にしますので、今回は許してくださいませ」



 アスカはそう言って、僕にキスをした。僕は少し驚いたけど、やはりアスカとキスするのは嬉しい。今度は僕からアスカにもう1度長いキスをした。


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