39話 父上との立ち合い
ようやく父上が屋敷に帰ってきた。
「2人とも来ていたのか、セイラさんから話しは聞いたか?」
「はい、父上。セリエさんとお会いさせていただくことにしました」
「旦那さんを亡くされて、1人で王都に来られたと聞く。会って問題がなければお願いしなさい。それで2人は何の用事だ?」
「父上、今度のダンジョン攻略の準備を始めたいと思います。具体的には料理とポーションの準備です。参加者は決まりましたか?」
「前衛は決まっているが、後衛で悩んでいる。白魔法士を1人にするか2人にするか。それとグラン、お前を黒魔法士として考えてもいいのかだ」
「お父様、白魔法も黒魔法も詠唱可能な人を1人がよろしいのでは?リサさんは参加されますし、旦那様がポーションを運ばれます。白魔法は回復魔法ではなく、能力を向上させる魔法だけでも良いと思いますし」
「リサも同じ意見だった。その方向で検討しよう。そうなると合計16人で、前衛は12人だ。女性は5人となるな」
「父上、了解しました。リサさんと食事とポーションの数を決めて準備にかかります。それで父上、準備に前金が必要になりますが、どうすればよいでしょう?」
「マイルさんのところから材料は仕入れたい。魁が仕入れて、調理や調合をお願いする形は可能か?」
「料理はリイサさんのところにお願いするつもりです。父上からもリイサさんにお話しをしてみてください。私から頼むよりリイサさんも安心されるでしょうから。ポーションはリサさんが調合するつもりでいました。ですので、調合鍋と大量のポーション用のビンの仕入れも必要です。数が多いので、ビン詰めは大変な作業になるかもしれません」
「ビン詰め作業か……子供でもできる作業だな?」
「はい、数が多いだけで単純作業ですから」
「ビン詰め作業のことは俺に任せてくれ。それとリイサさんのところは今夜皆で行けばいいな」
「お父様、リイサさんのお店に行く前にお願いがあります。旦那様と立ち会っていただきたいのです」
「グランと俺が立ち合うのか?」
「はい、私と旦那様との立ち合いは、ある程度形になりました。次はお父様に剣を振っていただきたいのです」
「アスカ、グランはそれなりのレベルになったということか?」
「はい、旦那様は私に高速突きをさせるほどに成長されました」
「アスカが高速突きか……面白い相手をしよう。ただ、グランが怪我をしないように、アスカが注意してやれ」
「はい、分かりました。お父様感謝いたします」
「父上、よろしくお願いします」
僕とアスカがお礼を言って、いよいよ父上と立ち会ってみることになった。
父上は着替えもせず、訓練で使用している剣を持って庭に出てきてくれた。僕は腰に下げていた杖を普通のサイズまで伸ばし、父上の前に立つ。
「グラン、俺はどうすればいいのだ?」
「私は土の棒のような物を投げて、父上に攻撃や剣筋をそらせる行動をします。父上は攻撃をかわすなり撃ち落とすなりしてください。もちろん隙をみて、私への攻撃もお願いします」
「分かった。それでは、その棒?を投げてきてくれ」
「はい、ではいきます!」
僕は手始めに父上の胸のあたりをめがけて、攻撃用の盾を投げる。父上は剣を振り、あっさり盾を消し去る。僕は防御用の盾を同じ場所に投げる。父上はまた剣を振るが、今度は壊すことができない。
「これは固いな。切れないかもしれん」
父上が大きく振りかぶろうとしたので、僕は構えを崩すように攻撃用の盾を投げる。父上は構えたまま横にずれる。なるほど、剣だと構えたまま移動できるのか!剣を後ろに構えられると、防御の盾が出しにくい……ならば、手首か肘に盾を出すか!
僕は父上の構えた手首と肘に攻撃用の盾を投げる。そして父上が剣を振ってくるのを待つ。ついに父上が剣を振り始めた。僕は剣の軌道を予想して、防御の盾を投げつける。父上は大きく下がりながら剣の軌道を変えて振りぬく。防御の盾をかわし、攻撃の盾を切り捨てたのだ。さすがは父上!
「グラン、短いのと長いのとの投げ分けは安全のためか?心配は無用だぞ」
「父上、もう少し僕の流儀でやらせてください」
「分かった。好きにしなさい。こちらもそろそろ撃って出るがな」
父上は構えと同時に僕に駆け寄ってくる。すごい迫力だ!ここは近づかれないよう、魔力の消費には目をつぶって防御の盾を3方向に投げるしかない。父上は大きく僕の右手側にそれならが、なおも近付いてくる。僕はしかたなく、もう取って置きのハチの巣盾を出し、父上めがけて突き出した。父上は驚いた表情をしたものの、剣を振って盾にぶつけてきた。盾は壊れず、剣がはじき返された。僕は剣に向かって防御の盾を投げる。それと同時に5つの攻撃用の盾を少し広い範囲へ投げた。
父上は防御の盾を優先してよけるため、僕に背中を向けるよう半身回転。さらに僕から距離を取るように、大きく後方へ高くジャンプした。そして飛んでいる間に剣を振りながら体の向きをこちらに戻し、攻撃用の盾を切りにくる。僕は慌てて防御用の盾を投げたが、今度の父上は攻撃用の盾を切ることを優先したのか、今までよりも早い速度で攻撃用の盾を切る。だが、切ったと同時に防御用の盾が剣をはじく。しかし、父上ははじかれる力を利用して、逆回転で剣を振り始める。その時、僕の体がドンと横に弾き出される。アスカが僕を抱えて移動したのだ。
「アスカ、すまん。つい体が反応してしまった」
「いいえ、父上。旦那様の攻撃はなかなか嫌なところを突いてきますので、体の反応はしかたありません」
僕はそんな父と娘の会話をポカンとしながら聞いていた。
「グラン、アスカとしっかり訓練をしたようだな。グランのような魔法士はいないのではっきりしたことは言えないが、グランなら十分に前衛が務まるだろう。だが、経験はずっと積んでいく必要がある。アスカとしっかりダンジョンへ通え」
「はい、父上。今日は立ち合いをありがとうございました」
「よし、体も動かしたことだし、リイサさんのところへ行こう」
こうしてセイラさんにも声をかけて、4人でリイサさんの店へ向かったのでした。




