35話 新婚初日の朝
新婚初日の朝も、もちろんアスカと訓練を始める。いつものように最初は細剣の素振り。僕はアスカに聞いてみた。
「アスカ、僕は細剣があっているの?それとも、そもそも魔法士は剣が不要?」
「剣は使えて損はありません。身を守るためにも使えますから。細剣が合っているかは迷うところです。旦那様、一度立ち会ってみますか?」
「僕がアスカと立ち会うの?」
「はい、私も子供の頃からお父様に立ち会っていただいていました」
こうして、アスカと初めて立ち会うことになった。
僕に向かって構えるアスカには隙がまったくない。素人の僕でもそれが分かる。僕はアスカの真正面をめがけて突きを撃った。アスカは少しだけ横にそれる。もちろん僕は空振り。ここでアスカに攻撃されたら僕はもうあの世いきだ。かわされても、次の攻撃を受けない形で攻撃を終えないと危険なのか……
僕は今度はアスカを左に誘導するよう、アスカの左胸を突く。するとアスカは僕の左側へ移動する。思い通りなので、僕は胸の正面に踏み込んで突きを撃つ。左側か後ろへよける予想をしていたが、アスカは低い体勢を取りながら、僕に向かって突いてきた。もちろんアスカは僕に当てることなく止めてくれるけど、僕は尻もちをついて座り込んでしまう。
「旦那様、大丈夫ですか?」
「ごめん、大丈夫だよ。でもすごい迫力だった。せっかくだからアスカに頼みがある。僕の正面で本気の連続突きを見せてくれないかな」
「はい、それはかまいませんが……」
「アスカの連続突きが、この王国で一番早いのでしょ?それがどれほどのものか知っておきたい」
「分かりました。では、お見せします」
僕が立ち上がって、アスカをじっと見つめると、アスカは構え、そして連続の突きを見せてくれた。早いし力強い。あんな細身の女の子から、どうしてこんな攻撃が出てくるのか……まあ、それは置いておいて、僕は魔法で対処できるか確認したくなった。
大きな魔法の盾では、ガシガシ魔力を削られてしまう。そうなると、魔法の手の攻撃のように細くする必要がある。ただ、細くすると盾として剣に当たるのか疑問だ。アスカの腕の動きをもう一度思い出して考える。当たり前だけど、どんなに強いアスカだった、一度剣を引かなければ突き出すことはできない。引き切ったときが、最も速度が遅いはず。そこを見極めることができるようになれば対処できるかな?
僕は右手を突き出し、アスカの動きを注視する。
「アスカ、今度は魔法でお相手するよ」
「はい、ではもう一度」
アスカは剣を何度か突いてくれたが、僕の盾は全く剣に当たらない。でも、僕は気付いた。必ず当たる方法。答えは簡単、アスカと同じ動きをすればいいだった。僕が実際に体を動かすのは、もちろん無理。でも頭の中に見たままをイメージするくらいなら、アスカの動きに追いついていけるはずだ。
「アスカ、次はたぶんいけると思う」
「はい、それでは攻撃します」
アスカの何度かの突きに2度だけ当てることができた。アスカは驚いた様子。僕も逆にアスカに2度しか当てられなかったことに驚いた。アスカは恐ろしいほどの速さなんだ。もう少し大きな盾にしないと無理だ。魔法の消費量が心配なので、訓練中は黒魔法で練習しよう。
「アスカは疲れていない?まだお願いしても大丈夫?」
「はい、大丈夫です。また、攻撃します」
今度は5度あたる。たぶん半分だと思う。だいぶ盾を出すタイミングと位置が分かるようになってきた。アスカの動きに対応できれば、他の人も魔獣も対応できるだろう。
「次こそはすべて当てる!」
「はい、また、攻撃します」
そしてついに、すべての突きに盾があたる。パスパスと突きを受けた土の盾は埃のように弾けて土煙となって消える。盾なんてかっこよく言っているけど、僕の場合は魔法の手なのだけどね(笑)何度か繰り返してみて、もう当たるようになった。
「アスカ、今度は立ち合ってみていいかな?」
「はい、旦那様。いつでもどうぞ」
「では、早速」
僕は細剣でやった攻撃を土の魔法の手で行う。アスカが左によける動作をするので、左側に魔法の手、右に避ける動作をすると判断し、少し右への攻撃と、さらにその下側への2か所の攻撃をしてみた。アスカは右にそれた後、後ろに大きくさがる。でも、僕は魔法なので、そのまま伸ばし続ける。アスカは少し驚いたようだが、今度は剣を突いて撃ち落としてしまう。なるほど、僕のやっていることと同じだな。
それからは2人で突いたり防いだりを繰り返していた。僕は夢中になっていて気付かなかったけど、僕の魔力が20%ほど減っていた。杖を持って魔法の装備も完璧なのに、これほど消費させられていたとは……もう少し盾の大きさを小さくできるよう訓練しないと。
アスカは僕が急に攻撃を止めたので、驚いて駆け寄ってきた。
「旦那様、何かありましたか?」
「急にごめん、アスカ。魔力を20%も使っていたことに驚いただけ」
「旦那様、この訓練を朝の訓練に取り入れたいのですが、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんいいけど、アスカのお役に立てそうなの?」
「はい、かなり実戦に近い訓練に感じました。旦那様が速度を上げられると、さらに負荷がかかっていいと思います」
「アスカの訓練になるよう、僕も努力してみるよ」
こうして新婚初日の朝は、とてもハードな訓練から始まったのでした……?(笑)




