31話 リサさんに相談
母さんの学生時代の部屋で静かな時間を過ごした。
「アスカ、待たせてごめん。ようやく落ち着くことができた。母さんの教科書とノートは預かって帰ることにするよ」
僕はリュックに次々と本や紙の束をしまっていく。すべてをリュックに詰め終えて、部屋を出た。階段を降りて、食堂も見回して、そして玄関を通って外に出る。何も植えられていない花壇。母さんがいた頃は花が咲いていたのだろう。
「アスカ、僕はここを孤児院にしたい」
僕の突然の宣言に、アスカは驚いた顔をした。
「お父様も孤児院を作りたいと考えているのです」
「そうなんだ。僕も父上のお手伝いができるといいな。母さんが僕を育ててくれたように、僕も孤独な子供の成長を手助けしたい」
「旦那様の夢の実現を、私もお手伝いします」
「ありがとう、アスカ。嬉しいよ」
父上が未だに実現できていないのだ。僕が直ぐにどうこうするのは難しいだろう。それでもいつかは実現してみたい。
リイサさんの店にランチを食べに来た。いつものテーブルに座って料理を待つ。
「アスカはダンジョンの中でリイサさんの店の料理が食べられたら嬉しい?」
「今までのダンジョンでは、カルパスと干し肉や塩漬け肉ばかりだったので、旦那様のお料理やリイサさんのお店のお料理なら、本当にありがたく思います」
キキさんが料理を持ってきてくれた。僕はついでと思いキキさんに聞いてみた。
「キキさん、20人の1日3食の食事を30日分お願いすることは可能ですか?もちろん時間はかかるのは承知しているのと、料理が冷めたり傷んだりすることは考えなくていいという前提付きです」
「いきなり大きなお話しですね。計算しただけでも……1800食です!1日で3日分の料理を作るとして10日間は調理にかかりますか……」
「材料の仕入れも考えると余裕をみて1月前に注文するのが安全かな?献立表をお店と決めちゃった方が楽ですよね」
「それはとても助かります。作るのも仕入れるのも計画が立てやすいですから。でもこんな注文が本当にお店にきそうですか?」
「はい、たぶん注文すると思います。それも調理完了は年内でお願いすることになるかな?。年末は忙しくなることを覚悟していてくださいね」
キキさんとの話を終えて、僕とアスカは食事を始める。
「なんだか今日は2人で情緒不安定になっていたね。これがマリッジブルーというやつかな?」
「ごめんなさい、旦那様。困らせることをいっぱい言ってしまって……」
「ううん、たまにはアスカにも思うこといっぱい吐き出してもらった方が安心する。アスカはいい子過ぎるから」
「旦那様も私に何でも話してください。約束です」
「うん、約束する。ところで、アスカ。ランチを終えたらリサさんの屋敷に一緒に行ってくれる?」
「はい、それはかまいませんが、リサさんに用事ですか?」
「キキさんに話した料理のこと、父上が言っていたポーションのこと、ダンジョンでの魔法のこと、意外にリサさんと話しておくことが多いと思って」
「それなら、旦那様。ケーキを買って行きましょう。リサさんは甘いものが大好きですから」
「分かった。でも、僕はケーキを売っている店を知らないから、アスカに案内をお願いするよ」
「はい、任せてください」
食事を終え、市場でフルーツがたっぷり載ったケーキを買い、リサさんの屋敷へ伺う。リサさんはすぐに応接間に案内してくれた。マルスさんと子供たちは出かけているようだ。リサさんはお茶と、買ってきたケーキを出してくれて、早速ティータイムになる。
「今日は2人そろってどうしたの?」
「用事があるのは私だけです。リサさんに相談することが多くて。まずは来年早々のダンジョン遠征の食事のことです」
「そうね、男性は戦うことばかり考えるから、私たちが中心になって進めておきましょう」
「はい、それで料理はリイサさんの店にお願いしようと思ってます。20人の1日3食の食事を30日分。僕とリサさんだけでは無理です」
「うん、賛成。でもグランのリュックは本当に腐ったりしないの?」
「はい、それは大丈夫です。ただ、温度だけは一瞬にして常温になってしまうので、温めはダンジョン内ですることになります」
「アスカにも手伝ってもらうから。いいわね、アスカ。あなたもグランの奥さんになったんだから、剣ばかりでなくお料理も家事もグランと一緒にやるのよ」
「はい、何でもやります。教えてください」
「分かった。みっちり特訓してあげるから、覚悟していなさい。それで、グラン。その他の相談事は?」
「父上が言っていたポーションのことです。これも料理と同じでどこかに頼む方がいいのか迷っています」
「ポーションを作ること自体は問題はないわ。大きな調合鍋は買って拠点にでも置きましょう。薬草を大量に買うことになるから、もう買い始めた方がいいかしら?王都中の薬草を買い占めちゃうのも悪いから……その他の材料は薬草ほど大量に必要ないから、薬草の仕入れ量に合わせて購入しましょう」
「鍋も材料もマイルさんのところで大丈夫ですか?鍋はクランで買ってもらうとしても、材料や料理の代金はどうしましょう?」
「全部クランで建て替えてもらいましょう。討伐参加者に参加費を負担してもらうか、報酬から経費を引くかするのでしょうから」
「どちらにしても、前金で払う必要がありそうな大きな金額ですね。仕入れだけでも膨大な費用になりそうです」
「リイサさんの店にも、この注文に限っては、マイルさんのところから仕入れてもらえば?魁が絡めば仕入れも安くなるでしょ」
「なるほど、それならお酒やお菓子?なんかもまとめてマイルさんのところにお願いしてしまいましょう」
「では次の相談は?」
「ダンジョンで使う魔法のことです」
「なるほどね、グラン、アスカ、拠点へ行きましょう!私も聞きたいことが山ほどあるから。アスカは旦那の盾と剣を持って行ってね」
こうして3人で拠点へ移動することになった。




