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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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29話 前祝のはずが……

 僕とアスカの結婚の祝福ムードの飲み会の中、それはガンズさんの質問から話しは始まった。



「グリム、グランの戦いはどうだった?」


「不思議な魔法を使う。24階層まではグランに任せると、俺たちは何もやることがない」


「グリム、もう少し分かるように話してくれ」


「ああ、まず俺やアスカよりも早く、魔獣を見つける。グランがあそこに魔獣がと指をさしても俺には見えなかった。そして敵にある程度近づいたグランは、魔法で糸のようなものを出して敵を攻撃する。24階層までの敵なら1撃で魔石を破壊できる」


「おいおい、それじゃ24階層までなら無敵じゃないか!」


「いや、23階層ではボス戦をやったが、さすがに討伐はできなかった。ただ、同じ攻撃でボスの両目を潰してくれて、俺とアスカは楽な戦いだった」


「うーん、これは24階層までは気力も体力も温存できるということか」


「おまけにグランのリュックは魔道具らしく、荷物はいくらでも詰め込むことができる。食品も腐らないらしい。なので、食事は地上と変わらない。俺など毎晩晩酌をしていた。お湯も浴びてさっぱりできたし、グランとアスカなどは2人で簡易ベッドで寝ていたほどだ」



 するとリサさんが質問してくる。



「グランはアグリさん仕込みってこと?火も水もないところからお湯を出したりするの?」


「はい、リサさんには分かると思いますが、すべてがイメージです。水は空気の中に湿気として存在しますし、火はこすれば摩擦熱で存在します」


「なるほど……と言ってあげたいけど、無理!もうこじつけのイメージじゃない」


「リサさんもぜひ試してください。お湯はあると便利です。飲んでも茹でても洗濯でもシャワーでも」


「リサ、無駄無駄。規格外過ぎるんだ。アグリさんの息子だぞ」


「リサさんには戦い方について教えて欲しかったんです。目くらましと足元の障害物はリサさんが発動してくれると聞きました。僕は何がいいですか?」


「ボスに使った目を狙うのはいいと思う。前衛の人は攻撃を受けつつ、どこか1点を崩していくことが多い。1点を崩すだけでも敵の力が大きく削げるから。それをお手伝いできると助かるはずよ」


「分かりました。アスカとも相談して、次の戦いまでに準備します」



 続いては父上が昼間のクランとの打ち合わせについても話し始めた。



「俺はグランが荷物を1人で担当できることで、無駄な後衛を連れて行かずにすむと考えた。そして、2人1組でチームとして、敵前方を上位3チーム、後方を2チームか3チーム編成で戦うつもりだ。基本魔法での回復はせず、ポーションで回復する。なので、チーム内で戦う者と回復する者で交互に入れ替わる。前方が攻撃力も防御力も高いので、敵は後方に目を向けにくくなり、後方は攻撃に集中できると考えている。どうだ、33階層のボスはこれでやれるだろ?」


「ああ、やれる。ただ、金はかかるな。安いポーションじゃ回復が追い付かない」


「それも対応方法がある。グランは純度を上げる魔法が使える。リサにポーションを作ってもらってグランが純度を上げると、材料費だけで最上級のポーションが作れる」


「グリム、これは俺たちだけでは無理ではないですか?他のクランにも協力を要請するのですか?」


「ああ、早速だが、今日の昼間に何人かの上位冒険者と話してみた。皆がやる気になっていたぞ。前衛は全員レベル14以上で揃えられるだろう」


「おおっ、それなら王国最強軍団ではないですか!33階層どころかその先の討伐まで行けそうです」


「年内は準備に使うつもりだ。年明けに討伐に向かう。ガンズそれでいいか?」


「ああ、今年は皆の好意でのんびりさせてもらった。来年は新年そうそうから討伐三昧でいく」


「父上、それに皆さん。参加者の選定だけは早めにお願いします。特に男性と女性の比率は早めに知りたいです」


「グラン、それはまたどうしてだ?」


「女性を雑魚寝はさせられませんから」


「あら、私もアスカも雑魚寝でやってきたわよ」


「僕が参加するからには、そんなことはさせません!」


「それってアスカにはそんなことさせないの間違いではないの(笑)」


「リサ、そんなにグランをいじめるな。あの快適さを知ったら、俺ですら雑魚寝はごめんだと言いたくなる。何せカルパスを1度も食べずに済むダンジョン遠征だぞ」



 その一言で、皆がどれほど快適かを実感したようだ。カルパス恐るべし。




 アスカが眠そうにしていたので、僕とアスカは先に帰らせてもらうことにした。店を出るとアスカは手をつないできた。最近のアスカは2人になると手をつなぐのがお気に入りのようだ。



「いよいよ、僕たちの結婚式だね。嬉しいな~」


「はい、とても楽しみです」




 2人で話していると、すぐに屋敷についてしまう。今日はアスカに疲れをとってもらいたくて、少しぬるめのお湯にしてハーブも入れてみた。香りがよくてリラックスできそうだ。


 いつもと同じように、2人ならんで湯船に浸かる。



「アスカが疲れているようだから、今日はハーブを入れてみたよ。いい香りだね」


「はい、お湯もぬるめでのんびりできます」



 僕はアスカの肩を揉んであげることにした。アスカの肩は細くて小さい。こんな女の子がこの国で1番強いの?僕には信じられなかった。



「気持ちいい?痛かったら言ってね」


「はい、とても気持ちいいです。それにとても幸せです」


「疲れているときは、いつでも言って。このくらいならいつでもしてあげられるから」


「はい、ありがとうございます」



 アスカはお風呂の中でもうとうとしだしたので、急いでお風呂からあがった。着替えを済ませたので、部屋までは僕がお姫様抱っこして運んであげることにした。アスカは嬉しそうに甘えてきた。



「今夜のアスカは甘えん坊だな」


「はい、私は旦那様だけには甘えて良いのです」


「うん、僕にはいっぱい甘えて欲しいな」



 ベッドに横になると、アスカはすぐにくっついてきた。そしてすぐに寝息を立て始めた。明日はアスカとのんびり過ごそう。結婚式には万全の体調でいたいから。


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