27話 石の秘密
僕はどうするか迷ったが、やはりキツカ様のところへ行ってみることにした。アポなしだから後日来るようにと言われるのは覚悟しておこう。アスカもそれでもいいと了解してくれたので、国務院へ向かう。
国務院の受付で、グリス侯爵家のキツカ様とお会いしたいとお願いする。面会者はグランとアスカですと伝える。しばらくすると、キツカ様はわざわざ僕たちを出迎えに入り口まで来てくれた。そして立派な応接間に案内してくれる。
「グラン、アスカさんと結婚したそうだな。おめでとう。父上や兄上たちもお祝いを伝えたくて会いたがっていたぞ」
「ご無沙汰をしてすみません。新居の準備をしたり、冒険者の準備をしたりと忙しくしていました」
「とこで今日はどのような用件だい?」
「キツカ様に調査をお願いしたいものがあります」
僕はリュックから出したサンストーンをキツカ様へ手渡す。受け取ったキツカ様は珍しそうに石を眺めている。
「キツカ様はご存じでしたか?サンストーンです。外部記憶装置で調べても、ほとんど情報がありませんでした」
「そうだろうね、もうこの世界で手に入れることができないと言われている。この大きさのサンストーンなら、国王陛下がかなりの金額で買い取ってくれるだろう。グラン、どこで手に入れた」
「はい、ダンジョンです」
「ダンジョン?過去にダンジョンからサンストーンを持ち帰った者はいないと記憶しているが……」
「キツカ様、今回の件は他言しないとお約束いただけますか?」
「もちろんだ、こんな石が手に入ると知れたら、他国と争いが始まるかもしれん」
「実は私のユニーク魔法で複製という魔法があります。自然界から材料が集められれば、複製が作れるのです」
僕はリュックから、もう1つのサンストーンを出して、これもキツカ様にお渡しする。キツカ様は2つを見比べるように眺める。
「確かに同じ石に見えるな」
「はい、ダンジョン内で1つの石をこの大きさまで育てて、キツカ様に調査をお願いするために、帰り際にダンジョン内で複製を作成してきました」
「石を育てる?どういうことだ?」
「はい、これも私のユニーク魔法だと思うのですが、2つの石を1つの石にまとめることができます。今回できるようになったが、正しいですか」
「そうなると、種となる石が最初に必要だな。それはどうやって手に入れたんだ?」
「はい、スライムから取り出した魔石です」
「魔獣の魔石など取り出せないだろ!」
「ことによると、壊れる前に純度を上げてしまったから、壊れずに済んだのかもしれません」
「グラン、待ってくれ。魔石の純度を上げるのも魔法か?」
「はい、私にとっては純度を上げるのも、2つの石を1つにするのも同じ原理なのですけど……」
「すまない、俺の理解がついていけないからもういい。それでグランはこの石の何が知りたいのだ?」
「キツカ様、この石は魔力を生み出すことができるはずです!」
「グラン、声が大きい!そしてそのことを二度と口にするな!」
「キツカ様、それはどうしてですか?」
「この石は魔獣を作る材料だと言われている。そして言いにくいが、魔法士は大なり小なり体に魔石を抱え持っている」
「やはりご存じだったのですね。私も自分の体の中に魔石があるのを確認しました」
僕は自分の心臓の下あたりを指さした。キツカ様は驚いていた。
「グランはどうしてそんなことに気付いたんだ?」
「母が亡くなったときと、魔獣が消滅するときが似ていることに気付いたのです」
「母の死……アグリの死に際に立ち会ったのか?……アグリは正式な白魔法士ではなかったからか。普通の魔法士は死の際は1人で過ごすものなのだ。だから死に際を人に見られることはない」
「キツカ様、この石はどうするべきでしょう?」
「俺はもちろん調べる。研究者が研究を放棄するなどありえない。だから知り得た情報はグランに提供する。だが、絶対にこの3人だけの秘密だ」
「分かりました。でもキツカ様、私の目的はこの石で魔道具を作ることなのです。私はそちらの研究を進めたいと思っています」
「くれぐれも人に知られるな。まあ、アスカさんが側にいてくれるから、怪しい者など近づくことはできないだろうが」
「その石はキツカ様に差し上げますので、ぜひ研究にご協力ください」
「おいおい、この石の価値は話しをしたぞ」
「はい、でも私にとっては、ダンジョンに行けばいくらでも手に入るただの石ですから」
「分かったありがたく頂戴する。そうだ、結婚祝いも兼ねて、お礼に何か贈り物を届けよう。それならいいだろ?」
「はい、ありがとうございます。楽しみにしております」
「グランも何か分かれば教えてくれ。2人のことは受付にも伝えておくので、気軽に立ち寄ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
こうして石の調査をキツカ様にお願いした。いろいろタブーな危険な石なのは分かった。でもこの石を使いこなせれば、魔道具など誰でも使える物になる。夢のような世界だ。
僕がボーっとそんなことを考えていると、アスカが僕のことを心配そうに見ていた。アスカにとっても今日の話しはただ事でない話しだったのだろう。僕はアスカの手を取って歩き始めた。
「アスカ、お腹が空いた。リイサさんの店にお昼を食べに行こう!」
「はい、旦那様」
アスカも僕が普段の様子に戻ったのを感じて、安心したようだった。




