25話 家族の家系図
翌日から地上へ向けての移動を開始する。3日で地上に戻るので、移動のペースはゆったりだ。僕のお願いを聞いてくれた父上は、16階層と8階層で野営することにしてくれた。僕は休憩のたびに複製の確認をする。結果は24階層と変わらない。サンストーンだけが、だんだん大きくなった。
16階層での野営、僕は2人に付き合ってもらっていることが申し訳なくて、せめておいしい物を作ろうと考える。僕はひき肉をいれたオムレツを作ろうと思い、まな板の上で肉を包丁で叩き始めた。せっかくひき肉を作るのならと思って、明日はハンバーグをつくることにして、お肉を追加した。アスカは横で料理の様子を見ている。
ひき肉の半分はオムレツ用に炒めて、もう半分はこねて丸く形を整える。僕はさらにハンバーグの中にチーズを入れることを思いつく。早速リュックからチーズを取り出してハンバーグの中に埋め込む。ハンバーグをお皿に乗せて、そのままリュックにしまった。続いて卵を取り出し、卵を割ってかきまぜていく。熱したフライパンにバターを落とし卵を焼く。頃合いを見てかまどからはフライパンを避ける。炒めたひき肉を乗せて、トントンと手首を叩きながらひき肉を卵でくるんでいく。さらにアスカがじっと見つめていた。
僕はお皿に乗せて、次のオムレツを作り始める。そして3つのオムレツを作って完成。トマトのソースと合わせてテーブルへ持って行く。パンとスープもテーブルに運べば準備完了。せっかくなのでワインも開けることにした。
ふわふわのオムレツは2人にも好評で喜んで食べてくれた。ワインもおいしかった。父上だけはもっと強い酒がいいと言って、自分で用意したお酒に切り替えた。僕はよい機会だと思い、父上と母さんがどのようにして僕と出会ったのか聞かせてもらうことにした。両親の死については母さんから聞かされていたより、生々しい話しを聞かされた。僕を助けようと必死だったことが伝わってくる。母さんがサーチの魔法でようやく僕を見つけ出してくれたこと。弱っていた僕に魔法をかけて、必死で助けてくれたこと。母さんが僕を孤児にしたくないと、自分の子供として育てると決心したときのこと。僕の名前が父上のおじい様からいただいたこと。母さんはこれからは2人で生きていくからと、常に僕を抱きかかえて山の探索にまで連れていったこと。詳しく知らなかったことや、まったく知らなかったことまで聞かせてくれた。そして僕の最大の疑問を聞いてみた。
「父上は母と恋人だったのですか?母はこっそり父上の絵を見ながら涙を流している姿を、私は何度か見かけたことがあったので……」
父上は言いずらそうだが、話しを聞かせてくれた。
「俺がアグリさんに求婚したが断られた。俺の将来のことを考えてくれてのことだ。アグリさんはいろいろなものを抱え込んで1人で田舎にこもってくれたんだ。当時の国王陛下も皇太子様もフィーネ様も、皆がアグリさんに救われた。貴族にすらなれるほどの功績を棒に振ってだ……」
「母は私の将来をとても心配していました。ですがどんなに思案してもどうすることもできず、父上に託すことを決めたようでした。身寄りのない自分が、信頼して任せられるのは父上しかいないと……」
「ああ。アグリさんの頼みなら、何でも叶えてやる。たとえ命をくれと言われても、願いを叶えるだろう」
「父上、地上に戻ったら家系図を作りましょう!」
「家系図?どうしたのだ急に」
「私の親として母が、アスカの親として父上が、同じ系譜として名を遺すのです。同じ一族として。母はきっと喜んでくれます」
「そうだな、4人で家族として名を残す。アグリさんも安心してくれるだろう」
「はい、そして家系図に相応しい功績を残せるよう、父上もアスカも私も、努力を怠らずしっかり生きていきましょう」
その後、2日を使い地上へ戻る。残念ながら素材の収集という点では成果が得られなかった。サンストーンはこぶし大ほどの大きさまで成長?できた。キツカ様に分析をお願いするために、複製も作っておいた。
ようやく3人で屋敷に戻り、セイラさんに無事の帰還を報告した。夜は恒例のリイサさんの店での打ち上げだ。僕たちも自分たちの屋敷に戻ってひと休みして、夜に父上たちと合流することにした。屋敷に戻ると、家財道具がいろいろ増えていて、もうすっかり生活空間に仕上げられていた。
僕とアスカは早速お風呂に入る。アスカと並んで湯船に浸かると、帰ってきた~としみじみ感じる。僕はアスカの手を握る。
「アスカ、僕を守ってくれてありがとう。やはりダンジョンは怖いところだった……」
「もう行きたくないですか?いいですよ、無理に冒険者にならなくても。旦那様なら料理人としても十分やっていけますから」
「アスカが料理店の奥さんか……それも悪くない。でも、アスカが最も輝いているのは、やはり剣を振っているときだ。僕はそんなアスカを見ていたい」
「旦那様、焦らないでください。ゆっくりで大丈夫です。何がしたいかを見つけてください。私はいつも旦那様の隣にいますから」
「ありがとう、アスカ。大好きだ!」
アスカは顔を真っ赤にしてうつむく。もうお約束だ(笑)
お風呂から出た僕たちは、少し早いけど父上の屋敷に行った。父上ももうお風呂を済ませていて、出かける準備ができていた。セイラさんに声をかけてリイサさんの店に向かうことにした。
地上の暮らしは平穏でいい。




