24話 帰り道の相談
3人での楽しい夜を過ごした翌朝は早起きをした。昨夜は散らかしたまま眠ってしまったからだ。テントを乾かし片付け。タオルやバスタオルを洗濯して乾燥。食器やフライパンも洗って乾燥。そして最後に朝食の準備を始める。父上とアスカが訓練に行こうとしたので、洗濯物を出してもらった。訓練の間に僕は自分の分も含めて洗濯をする。洗濯が終われば、父上の分とアスカの分は各々のリュックの中にしまっておいた。2人が訓練からそろそろ戻ってくる頃なので、パンを炙り、ベーコンエッグも焼いた。
2人が戻ってきたところで、朝食を食べ始める。今日から2人に前衛で戦ってもらい、僕は後衛で支援に徹する。2人の戦いをじっくり見て、他の支援についても検討してみるつもりだ。
食事を終え、片付けも済ませると、出発準備完了。僕たちは魔獣を探しながらの討伐を繰り返した。
そんな日を4日過ごした夜。明日の朝から王都に帰ることになった。急げば明後日の夜に地上に戻れると聞いたが、僕は2人にお願いして寄り道をしながら帰りたいので、3日間で帰るよう申し出た。父上には詳しく話したことがなかったので、僕の魔法について話すことにした。もちろんせっかくなので晩酌しながら(笑)
「父上、ミスリルを見たときに魔法だと言われていましたが、そのとおりなのです。私は物を複製する魔法と、物から不純物を取り除く魔法が使えます。ミスリルは不純物を取り除いた物を複製しました。ただ、ミスリルは材料も少なく魔力も大量に消費するため、1つ複製するのに3日間かかりました」
「錬金術のようなものではないのだな?」
「はい、私の魔法は山や大地など、自然界から材料を集めてきて、複製に使うようです。なので材料が無いと複製できません。ことによると王都で魔法を使うと、誰かの所有物を使用して複製することになるのかもしれません。もちろん試していないのでどうなるかは不明です」
「それで、ダンジョンで何を調べたいのだ?」
「ダンジョンから取れるものが何かあるのか調べたいのです。私のリュックにはいろいろな鉱石や魔石がしまってあって、それらを使って魔法を唱えれば、ダンジョンに存在するかが分かります」
「なるほど、この場でもその調査が可能なのか?」
「はい、ここでも確認しますし、帰り道の各野営の場でも確認します」
「分かった。そのように帰るとしよう」
「父上、もう1つ、ご協力いただきたい調査があります」
僕は1つの石を父上とアスカに見せる。
「これはサンストーンと呼ばれる石です。スライムから取り出した魔石です。その魔石を不純物を取り除いた純度の高いサンストーンです。僕はこれを手掛かりに魔獣を見つけています。まだ詳しく調べていませんが、この石は魔力とのかかわりがあると考えています」
「この石の魔力が魔獣を作っていると考えているのか?」
「はい、なのでこの石を利用すれば、近くの魔獣に異変を起こさせ、討伐の負担を軽減させることもできるかもしれないと思いました」
「興味深い!グラン、ぜひ試してみなさい」
「はい、父上。ありがとうございます」
「しかし、アグリさんといい、グランといい、型破りな魔法使いの親子だな」
「父上、そう言っていただけるのは、とても嬉しいです。父上は私と母の出会いもご存じでしょうから……」
父上はもう討伐は終了とばかりに、長いことお酒を楽しんでいた。僕はどの鉱石や魔石を対象に調査をするかを決めた。対象にしたのはエコに聞いて、冒険者ギルドの買い取り価格の高い順に10種類にした。サンストーンは冒険者ギルドでの買い取り価格はなかった。普通は消えてなくなるからかな?エコもサンストーンの存在は文献があるものの、詳しい効果までは文献がなく、誰も調べていないようだ。地上に戻ったら、グリス侯爵家のキツカ様に相談してみよう。キツカ様のことを考えたら、僕は忘れていたことを思い出した。両親が残してくれた魔道具の数々。母さんがリュックにしまっておきなさい!と僕がリュックに血の母印で登録した日に入れたままだった。布袋に一通りまとめて入れておいたはずだ。僕はリュックに手を入れて、その布袋を取り出す。中から取り出した魔道具は、魔道具というよりアクセサリーのように見えた。横で見ていたアスカが不思議そうな顔をしている。
「アスカこれはね、僕の産みの両親の遺品なんだ。以前、母さんがグリス侯爵家のキツカ様に鑑定をお願いしたらしいけど、大したものではなかったみたい。でも母さんに大切なものだからしまっておきなさいと言われてしまいっぱなしだった」
僕は1つ1つ手の取ってみても、魔力や思念に大きくかかわるものはないようだ。ただ、1つだけ不思議な感覚になったブレスレットがあった。3つの石が連なっている。1つの石は見覚えがない。せっかくなのでつけてみることにしたが、僕の左手にはすでに2つのブレスレットがついている。3つめともなると、ちょっとやり過ぎかな?
その後、サンプルとして出した、鉱石と魔石を複製してみた。ほんの微量の鉄が取れるでけで、ダンジョンからは何も取れなかった。試しにサンストーンの複製もしてみた。こちらは一瞬で複製される。ダンジョンはサンストーンが豊富なようだ。僕は2つの石を1つにできないものかと考えてみる。そもそも僕が不純物を取り除いた後、高純度になったものはとても小さくなっている。不純鬱が抜けて中がスカスカになってもおかしくないのにね。僕は左手にサンストーンを2つ持って、2つが1つの大きな石になるイメージを思い浮かべる。しかし変化はない。次に僕は2つの石は柔らかいものだと想像して、2つの石を粘土のように混ぜてしまうイメージを浮かべる。僕は目を閉じて集中していたのだが、アスカが僕の肩を揺らしてきた。
「旦那様、ブレスレットの石が光っていました!」
「アスカ、どの石?」
アスカは1つの黄色い石を指さして教えてくれる。
「この石は調べても、何の石か分からなかったんだ」
そして僕は気付く。左手に持っていたサンストーンは1つのサンストーンに変化したことを。やはりこのブレスレットには僕のご先祖様がかかわる何かの秘密があるのだろう。




