23話 親子の楽しい夜
24階層にたどり着いた。今回はここまでの階層と言われていたので目的地に着いたことになる。今日は僕の魔法の手の攻撃で魔獣の討伐をすることになった。
早速、サーチで辺りを見ると、ちょうどいい距離に魔獣がいた。僕は魔法の手を詠唱。討伐は問題なかった。ただ、少し硬くなったようにも感じた。
「グラン、この辺の魔獣が限界ではないか?アグリさんと訓練した時にも見せてもらったが、この辺りの魔獣までかと感じていた」
「はい、父上。私も今の討伐で魔獣が硬くなった印象を受けました。土を使った黒魔法ではこの辺が限界のようです」
「黒魔法では?違う魔法でも攻撃できるのか?」
「はい、白魔法でも攻撃できます。ただ、黒魔法と比べて魔力の消費量が桁違いに多いので、よほどの時でもないと使いません」
「そうしなさい。前衛の支援の魔法を使ってもらえるだけで十分助かるからな」
「はい、父上。明日からは支援の訓練を始めます」
その後もサーチと魔法の手で討伐を続ける。ただ、近くの魔獣は狩りつくしてしまったのか、その後はサーチでも見つけられなかった。僕たちは安全な岩場に移動して野営することにした。今日は早くに切り上げたこともあり、アスカに提案してみることにした。
「アスカ、お湯で体を拭くくらいはできるけど、用意しようか?」
「それはありがたいですけど、どうするのですか?」
「寸胴鍋にお湯を入れるだけだよ。2人ならシャワーをかけてあげられたけど、さすがに父上もいるから今回はね。だからテントの中ででも、お湯で体を拭くくらいの用意をしてあげられる」
「はい、ありがたく使わせていただきます」
僕とアスカはテーブルとイスとテントを組み立て始めた。テントは少し離れた場所に組み立てた。少し傾斜があるから、お湯をこぼしても流れていくだろう。父上にお酒とおつまみを渡して晩酌を始めてもらう。その後に寸胴鍋にお湯を入れて、テントの中に運ぶ。テントの中にはバスタオルとタオル、それに石鹸も置いておいた。
「アスカ、準備できたよ。お湯が足りなかったら声をかけて。すぐにお湯を追加するから」
「はい、ありがとうございます」
アスカは喜んでテントに入っていった。僕は晩御飯の準備に取り掛かる。今日はかまどを2つ出して、1つはスープの温め。もう1つは生のお肉を焼くことにした。下ごしらえに塩と胡椒をふって、フライパンで焼き始める。その間にテーブルに食器類を準備する。次に肉をひっくり返した後は、テーブルにオレンジジュースの瓶を置く。肉が焼けたところで、フライパンごとテーブルへ持って行き、お皿に肉を盛りつける。かまどへ戻ると、今度はソースの作成。残った肉汁にオリーブオイルと香草を入れて軽く火をとおす。塩と胡椒で味を調えて完成。テーブルまでフライパンを持って行って、肉の上にソースをかける。これで完成。今日は丸いパンなので、中央にバスケットにまとめておいた。
料理が終わったので、僕はアスカの様子を見に行った。
「アスカ、大丈夫?お湯は足りてる?」
「旦那様、お願いがあります。髪を洗ったのですが、うまく流せず困っています。お手伝いしていただけますか?」
「いいよ。中に入っても大丈夫?」
「はい、お願いします」
中へ入ると鍋の前に正座したアスカがいた。体にはバスタオルを巻いたままなので、よほど困って呼んだのだろう。どうしたものかと考えて水差しにお湯を入れることにした。
「アスカ、頭の上からお湯をかけるので、それで流せるかな?」
「はい、お願いします」
僕はアスカに前かがみになってもらって、まずは頭に近い部分の泡をおとした。水差しにお湯を足した後は、僕がアスカの髪を片手で持ちながら外側へと徐々に泡を落としていく。何度か繰り返して、すべての泡を落とし終えた。僕は追加のバスタオルをアスカに渡して髪を拭いてもらう。アスカは髪をクルクルっとアップに巻いて、髪を洗うのは無事に終わったようだ。鍋と水差しにお湯を足してから、僕はテントを出た。
「アスカはどうしたんだ?」
「はい、今お湯で体を拭いてます。もうすぐ終わると思いますので、少々おまちください」
「俺もお湯をかけてもらってもいいか?」
「父上、それなら私にもお湯をかけてもらってもいいですか?」
こうして、食後は親子でお湯の掛け合いが決定する。男は外でも裸でザバーで済むのでとても楽だ。そんな話しをしていると、アスカがさっぱりした顔をしてテーブルに来た。
「お待たせして、申し訳ありません。気持ちよくてのんびりしていまいました」
「そうだな、ダンジョンで水浴びなど、夢のようだからな。俺も後でグランにお湯をかけてもらうことにした」
「私も父上にお湯を頼んだよ。男は楽でいいでしょ(笑)」
こうして食事中も和気あいあいの雰囲気で楽しく過ごした。アスカはテントをびちゃびちゃに濡らしてしまったとを気にしていたけど、温風ですぐに乾くからと安心させた。その後、僕と父上のお湯の掛け合いを見て、アスカが笑っていた。皆でさっぱりしたので、思い切って3人で酒盛りすることになった。アスカはおやつをつまみで飲んでいた。僕と父上は干し肉とナッツをつまみにした。いろいろなおしゃべりの中で、父上が面白いことを教えてくれた。クランの拠点が元は魔法学校の学生寮で、母さんが使っていた部屋がそのまま残っているそうだ。荷物はないが、母さんが使っていた教科書はそのまま置いてあるらしい。僕がもらってもいいとのことで、王都に戻ったらアスカに案内してもらことになった。
ダンジョンにもかかわらず、親子で過ごす楽しい夜だった。




