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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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21話 魔法で討伐

 21階層へ降りる。サーチで見回すと魔獣がいた。少し距離があるが、距離感に慣れるまでは自分の足で歩くことにした。僕があそこに魔獣と伝えると2人はまだ認識していなかった。ものは試しと思い。もう一度サーチ。小さな白い光に向けて、魔法の手で突いてみた。何も感触が無いので届かなかったのだろう。



「もう少し前進します」


「了解」



 僕は魔獣がぼんやり見える辺りまで近付いた。もう父上もアスカも魔獣を認識している。僕はもう1度サーチと魔法の手で攻撃する。まだ届かない。するとアスカが教えてくれた。



「旦那様、この半分の距離まで近付かないと届かないようです」


「この半分の距離だと、魔獣に認識される?」


「いいえ、たぶん気付かれないでしょう」


「ああ、気付かれん」



 僕たちはまた前進する。アスカが止まれの指示をくれた。僕はまたサーチと魔法の手で攻撃。今度は当たる。ただ、無傷なようだ。僕はもう一度攻撃。今度は魔力を1割程度使ってみる。ガツンと感触のあった後はスッと抵抗なく突き進む感じだった。サーチの視界からは白い光は消えていた。僕はサーチを解除する。



「旦那様、お見事です」


「グラン、今のを何発撃てる?」


「感覚で10%の魔力を使ってみました。次は半分で試してみます」


「徐々に強くすることはできないのか?」


「なるほど。父上、良いお考えです。次はそれでやってみます」



 僕たちは魔獣のいた場所まで行って、戦利品を回収。サーチで確認したが敵は見当たらない。



「敵がいません」


「22階層へ向かう感じで進むか」



 父上が歩き出したので、僕とアスカもついて行った。しばらく歩いてサーチで確認を繰り返す。ようやく光が見えた。



「向こうに魔獣がいます」



 僕の指さす方へ皆で移動する。今度は角のある強そうな魔獣だった。前回の距離を意識して魔獣に近づく。サーチと魔法の手を発動。感触がある間は少しずつ魔力の出力を上げる。しばらくするとスッと抵抗がなくなる。魔法の手とサーチを止める。魔法の消費量は5%程度か。戦利品の回収中に杖は回復できるレベルだ。戦利品は角に斧。



「アスカ、こんなに大きい戦利品があるの?」


「ミノタウロスの角は大きさでは最大級です。斧も武器にしてはかなり大きい方です」


「それは良かった。これなら問題なくリュックに入りそうだから」


「グランがそのくらいの戦利品まで持ち帰れると、戦利品の交換を気にする必要もなさそうだな」


「戦利品の交換?」


「ああ、ダンジョンの中で物々交換をする。荷物が多くなると大きな戦利品を、他の冒険者に小さな戦利品に交換してもらう。割は悪いが地上に戻るよりはましだ」


「なるほど。ではこちらが交換に応じてあげれば、割のいい交換になるのですね」


「そうだな。グランのリュックに小物を入れておけば、割のいい金儲けになるかもしれん」




 その後、近くにいた魔獣も討伐した。そろそろ時間的には戻るか進むか留まるかを決める時間。



「父上、私はやっていけそうですか?」


「ああ、グランなら問題なくやっていける」


「では、下層に降りて確認を続けてもいいですか?」


「俺はいいと思うが、アスカはいいのか?」


「お父様、私は旦那様をお守りするのが第一優先でもよろしいのでしょうか?」


「当たり前だ、これでも俺もアスカの安全を常に考えていたつもりだ」


「はい、私が旦那様をお守りします。先に進みましょう」



 こうして先に進むことになった。とは言っても、今夜は22階層入り口の近くで野営だ。今夜は時間も心の余裕もあったので、少し手間をかけて夕食の準備をする。テーブルと机の準備はアスカだけでなく、父上も手伝ってくれた。僕は父上に晩酌のお酒と少々の干し肉を渡した。父上は上機嫌で晩酌を楽しんでくれた。


 僕はかまどを2つ出して、1つはスープの温め、もう1つはフライパンでソーセージ焼き、卵をスクランブルエッグにした。お皿に乗せるとそれなりの見栄えになった。夜は野菜のスープなので見た目も栄養もバランスがいい。パンとトマトソースを出して、準備完了。夕食を食べ始める。アスカはスクランブルエッグにトマトソースをかけて幸せそう。父上は焼いたソーセージがお酒に合うのかご機嫌。2人が喜んでくれて本当に良かった。そして僕は久しぶりに母さんのことを思い出していた。母さんに伝えたい。僕は今、王都でとても幸せに暮れせていると。そんな風に考えたら、とても母さんに会いたくなった。しんみりしている僕に気付いて、アスカはそっと手を繋いでくれた。




 父上は少し多めにお酒を飲んだようで、ぐうぐう眠り込んでしまった。僕は毛布を取りだして父上にかける。そして食事の後片付けを始める。アスカは片付けをしている僕の横にいてくれた。



「旦那様、悲しい時は、ちゃんと私に話してください」


「ごめんね、アスカ。久しぶりに母さんのことを思い出していたんだ。母さんが亡くなって2カ月ほどなのに、僕はこんなに幸せに暮らしている。少し母さんに申し訳ない気がしてしまって……」


「旦那様、私はこの王国で最も強いと言われたときよりも、旦那様にお嫁さんになってくださいと言われたときの方が嬉しかったです。そんな出会いの機会を与えてくださった、お母様に感謝をしております」


「母さんが山への採取を言い残してくれていなければ、アスカと結婚できていたかは分からない。母さんに感謝だね」



 アスカは僕にキスしてくれた。いつも僕を気遣ってくれる優しい奥さんだ。母さん、優しくきれいな奥さんと一緒に幸せに暮らしているから、心配はいらないよ……


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