20話 目的地到着
「お父様、旦那様の魔法はどの辺で確認しましょうか?」
「21階層がいいのではないかと考えていた。あそこなら人がぐっと減るし、金もそこそこ稼げるだろう」
「はい、では明後日から魔法の確認になりますね」
21階層って相当下層なのでは?と僕は少し心配になる。2人にとっては21階層など安全な場所なのかな?
この日は13階層入り口手前の12階層で野営することになった。ここまでのサーチの魔法は完璧に魔獣を捉えていた。なので、魔獣が見えないこの場所は安全なようだ。僕は昼と同様に食事の支度を始め、アスカにイスとテーブルの用意を頼む。父上には先にお酒を渡してのんびりしてもらった。スープは3種類あるので、朝昼晩で出すものを替えよう。夜はかまども2つ出して、1つはソーセージを茹でる。鍋に火にかけた後、食器をテーブルに出す。アスカにも休んでいるように言ったけど、手伝うと言って譲らなかった。仕方なくソーセージを盛りつけた皿を運んでもらった。ソーセージを茹で終えたかまどで、今度はパンを炙る。頃合いをみてバターを塗ると程よく溶けておいしそうだ。パンの調理が終わる頃、ちょうどスープも温まる。スープもお皿によそうと準備完了だ。
父上にも席についてもらって食事を始める。父上はお酒と温かいつまみに大喜びだった。
「父上、魔獣は動き回っているのですか?」
「魔獣は比較的動かない。特に強い魔獣は動かないことが多い。だからか弱い魔獣が強い魔獣を避けて移動する程度だ。もちろん人を見かければすぐに襲い掛かってくるがな」
「では、今が問題なければ、夜もそれ程神経質にならなくても大丈夫ですね」
「ああ、俺とアスカもいるから、敵が来ればすぐに気付く。安心しろ」
「はい」
食事を終えて後片付けとなる。だがどこまで片付けるか迷う。明朝も朝食で使うからだ。アスカが僕の様子に気付いてそのままでも大丈夫だと教えてくれたので、食器だけ洗って終わりにすることにした。テーブルの上に水を満たした水差しとグラスだけ置いておいた。水を好きなだけ飲めるのも、ダンジョン内では水辺だけだったらしい。
僕とアスカはベッドを組み立て始めたけど、父上はいらない!だそうだ。イスに座りながらうとうとすれば十分だと言われた。僕はせめてもと思って毛布だけ渡した。
僕とアスカが横になったのは、寝返りもできない小さな組み立て式ベッド、でも横を向くとアスカの顔が見えてホッとできる。アスカもにこりと微笑んでくれた。明日も1日歩くらしい。早く寝るとしよう。
翌朝、父上とアスカは訓練をするそうで、僕は朝食の支度を始めた。朝はパンとスープと……目玉焼きでも作りますか。僕はスープを温めながら、もう一つのかまどを使いフライパンで目玉焼きを焼く。パンはジャムを塗ってもらうから焼かなくてもいいか。スープをよそってテーブルに並べて完成。飲み物はブドウのジュースにしようかな。
「2人はダンジョンでも朝の訓練をするのですね」
「ああ、日課だからな」
「はい、日課ですから」
似た者親子です。これからさんざん魔獣と戦うのに!
食事が終わると後片付け。アスカにベッドとイスとテーブルはお願いする。僕は食器を片付けて袋に詰める。そしてまとめた荷物はリュックに詰めていく。これで出発準備完了。いざ出発となったところで父上に言われた。
「今日はグランの魔法を使って移動してみよう。グランは逃げることも想定しておく必要があるからな」
「はい、では2人にもホバーの魔法をかけます。僕のリュックにでもつかまってください」
僕は自分も含めて皆にホバーを詠唱。父上は母さんからさんざんかけられていたので慣れている様子だが、アスカはおっかなびっくりの様子だ。
「アグリさんは魔法の手を杖のようにして移動したり、何かを掴んで引っ張ったりしていた」
「はい、ダンジョン内は掴めるものが少ないので、押すことにします」
僕は左手に杖を持ち、右手は手のひらを後ろに向けて腰のあたりに手をあてる。
「しっかりつかまってください」
僕は魔法の手をやや下向きに伸ばした。土色の糸がシュッと伸びてつっかえ棒のようになる。僕たちは加速する。昨日の父上の歩く速度をはるかに超えている。僕は伸びきった魔法の手は消滅させて、次の魔法の手を伸ばす。それを繰り返しながら、たまにサーチも使う。サーチを使うのは一瞬でいい。何か光れば再びじっくり見ればいいだけだ。
「父上、前方に敵がいます」
「そのまま進んでくれ。俺には見えん。まだかなり距離があるようだ」
「はい」
肉眼でも魔獣が見えるようになり、僕は減速する。
「止まります」
僕はホバーの魔法も止める。停止したところで2人はすぐに走り出し、あっという間に切り伏せてしまった。そして二人は戦利品を持って戻ってくる。僕は戦利品を受け取り、リュックにしまう。リュック内のタグはもちろん戦利品!
今日はこうして僕主導で移動した。壁際を通る方が壁を掴めて進みやすいのと、敵が片側だけなのでサーチの確認が楽だった。移動速度が速いので、21階層入り口近くの20階層まで進んで、遅い昼食にすることになった。敵はだいぶ強くなってきたが、2人は特に気にする様子もない。それどころか、2人ともようやくという感じで楽しそうだった。
時間もないのでパンと干し肉とスープで済ませた。小休止の後で父上に問われる。
「グラン、今日はどうする?21階層へ行って、少し戦ってみるか?それともこのままのんびり過ごすか?」
「一度魔法を使ってみたいと思います。2人ともお付き合いください」
「分かった。初手はグランの魔法、撃ち漏らしたら俺が止めを刺そう。アスカはグランの護衛をしてやれ」
「はい、よろしくお願いします。アスカもよろしく頼むよ」
「はい、旦那様」
こうして21階層へ降りた。いよいよ僕の戦いだ。




