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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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12話 歓迎会

 4人で料理店に入る。丸テーブルが所狭しと置かれていた。まだ時間が早いからか、お客さんはまばらだ。父上はカウンター席近くから僕とアスカを手招きする。



「リイサさん、紹介する。今度クランに入ったグランだ。よろしく頼む」


「グランです。よろしくお願いします」


「リイサです。クランの皆さんにはご贔屓にしてもらってます。それにしても今回の子はあまり強そうじゃないね。魔法士さんかい?」


「リイサさん、言い忘れたが、アスカの旦那だ」


「ええっ、旅から帰ってきたら、次は結婚かい。ずいぶんと忙しいね」


「ああ、若い2人のこと、よろしく頼む」



 挨拶を済ませると、セイラさんも席に座っている数人が座っているテーブルに、僕たちも席につく。リイサさんが大量のビールジョッキを持ってきた。人数の何倍分もあるよ!



「皆、今日は忙しいとこ急な呼び出しで申し訳ない。クランの新しい加入者のグランだ!」


「皆さん、初めまして。グランです。よろしくお願いします」


「そんな訳で今夜は歓迎会で大いに盛り上がりたい。乾杯!」


「乾杯!」



 皆さんがビールのジョッキをがっつりぶつけ合い、一気に飲み干す。僕は圧倒されながらもアスカとちいさく乾杯してビールを飲んだ。もちろん僕もアスカも一気飲みはできないけど(笑)



「リサは知っていると思うが、グランはアグリさんの息子だ」


「ええっ、あのアグリさんの息子さん?お母さんはお元気なの?」


「それが、母が他界したため、王都に来ました」


「アグリさん、お亡くなりになったのか……残念ね」


「はい、約1月前に亡くなりました。リサさんにも母からの手紙を預かってきています」



 僕はリュックから手紙を取り出しリサさんに手渡す。リサさんは読むかどうか迷って、結局読むのを止めたようだ。お店で泣くのが嫌だったのだろう。



「アグリさんの息子さんなら、魔法士さんね。白?黒?それともアグリさん仕込み?」


「はい、母仕込みです。ただ、母と違い、魔力量はあまりありません」


「アグリさんを基準に考えてはダメ。あの人は学生時代から他を寄せ付けないほどの魔力量だったのだから」


「なあ、リサ。グランの装備を揃えたいのだが、相談にのってやってもらえるか?」


「もちろん、明日は午後からなら時間があるけど、どうする?」


「はい、よろしくお願いします」


「リサ、ついでと言ってはなんだが、ダンジョンでの戦い方も考えたいんだ。どうもグランは変な魔法士らしい」


「アグリさんの息子さんだもの。魔法の手とか出しちゃうんでしょ?」


「はい、出しちゃいます!」


「あらら、普通の魔法士は魔法の手は出さないのよ。あなたのお母さんが特殊なの!」



 皆さん大盛り上がりで圧倒された。そしてガンガン飲んで、ガツガツ食べていた。確かに料理はおいしい。少し濃いめの味付けはお酒を飲ませるため?、それとも冒険者が多くくるため?


 父上がほろ酔い気分で突然立ち上がる。



「皆にもう1つ報告がある。グランとアスカが結婚することになった。若い2人を見守ってやって欲しい。乾杯!」


「なんだと!乾杯!」


「おめでとう!乾杯!」


「アスカ、良かったわね!乾杯!」



 皆さんの祝福の声と、またまたジョッキをがっつりぶつけ合い、一気飲み!僕は本当に冒険者になれるのだろうか……


 横を見ると、アスカはお酒を飲むより料理を食べる方がメインのようだ。特に卵料理を好んで食べている。



「アスカは卵料理が好きなの?」


「はい、子供の頃から卵料理が好きでした」


「そうか、アスカは子供の頃からここで皆さんと楽しく過ごしていたんだね」


「はい、ですがお腹がいっぱいになると眠くなって、たまにこの店の2階で寝かせてもらっていました」


「成人してからもお酒はあまり飲まないの?」


「嫌いではありませんが、どちらかと言えば食べる方が好きです。ここのお料理はおいしいですから」


「そうだね。でもこれからは僕がアスカのためにおいしい料理を作るよ」


「いいえ、旦那様にそんなことはさせられません!」


「どうして?我が家は母さんが片腕だったから、料理も家事も僕がやっていたよ。得意な人がやればいいんじゃない?」


「でも、旦那様に申し訳ないです……」


「アスカは剣で稼ぐ人なんだから、家庭のことは僕に任せなさい!」


「はい、でも私もお手伝いします」



 アスカと飲んで食べておしゃべりしていると、アスカは料理を僕の皿にも取り分けてくれるようになった。そんなアスカも可愛らしくていい。




「旦那様、どうかされましたか?」


「アスカ、1つ相談してもいいかな?」


「はい、何でもおっしゃってください」


「その、大変言いにくいけど僕は田舎者で、結婚の準備、新居の準備、ダンジョンへ行く準備といろいろあるけど、手持ちのお金で間に合うのか心配になってきた。母さんはある程度まとまったお金は残してくれたけど、ここの料理の値段を見るだけでも、僕の村では考えられないほど高い料金だ。王都は何でも物価が高そうだから、少し不安になってる」


「旦那様、私も自分の蓄えはあります。2人の生活費なのですから2人で払えば良いだけです」


「でもそれはアスカが今まで一生懸命稼いで貯めたお金でしょ?僕は働いてもいないのに申し訳ない」


「せっかく2人で新しい生活を始める準備で、私はワクワク楽しい気分です。旦那様にも今はそんな幸せな気分でいて欲しいです」


「うん、確かにその気持ちも大切だね。なら、アスカ。足りなかったら貸しておいてくれる?ダンジョンで頑張って稼ぐから」


「はい、そうしてください。でもダンジョンでは焦りは禁物です。常に冷静で、常に周りを見る。これだけは怠ってはいけません」


「分かった。アスカ、ありがとう」




 歓迎会というお題目の、ただの飲み会は閉店時間まで続いた。皆さんが隣近所ということもあって、そろって千鳥足での帰宅です。僕とアスカは一番後ろでこっそり手を繋いで歩いて帰りました。


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