8話 運命
僕がただただ泣き固まっているのを、アスカが慰めるように背中をさすってくれた。グリム様も僕が落ち着くのを待ってくれていた。それにグリム様もある疑念を抱かれているようだった。
僕はようやく落ち着きを取り戻し、ソファーから立ち上がる。ソファーの横に置いていたリュックの中から1つの布袋を取り出し、グリム様の近くまで歩み寄ると臣下の礼をとった。
「グリム様、アグリの息子のグランです。母が他界し、母の遺言でグリム様におすがりするよう言われて王都へ参りました」
その言葉で、グリム様も大きく目を見開き立ち上がり、僕の両肩を掴む。
「お主があの赤子だったグランか?静養所で俺が抱っこしてやった、あのグランか?」
「はい、グランです。グリム様のことは記憶にありませんが、母からグリム様の話しはよく聞かされておりました」
「アグリさんが亡くなられたのはいつだ?」
「はい、1月とちょっとになります。ちょうどアスカさんと出会った日に、母は亡くなりました」
「なんと!それは神の思し召しの何物でもない。グランとアスカは出会うべきして出会ったのだ。そして夫婦になるのも運命であったのだろう」
「お父様、それでは私とグランさんの結婚をお許しいただけるのですか?」
「当たり前だ、グラン以外には嫁にやらん。安心しろ」
「グリム様、心より感謝します。そしてこれをお受け取りください。母がグリム様にお渡しすれば、すべてを請け負ってくださると言い残していました」
僕が母から託された布袋をグリム様にお渡しする。ソファーへ戻られたグリム様は、まず、母さんからの手紙と思われるものを読み始める。目には溢れんばかりの涙を浮かべながら、それでも時より嬉しそうだったり、楽しそうだったりの表情を浮かべ、とても長い何枚もの手紙を読み続けた。
手紙を読み終えると、袋の中からメダルを取り出し、グリム様は自分の額に押し付ける。光輝いた後、メダルは消えた。続いて取り出したのは、白い魔石のブレスレッドとひまわりのブローチだった。
白いブレスレッドは僕の前へ、ひまわりのブローチはアスカの前へ置いてくれた。
「白いブレスレッドは侯爵様へお返ししてくれとあったが、これはグランが母の形見として持っていなさい。アスカはひまわりのブローチを義理の母の形見としていただきなさい」
「はい」
「しばらくは2人ともこの屋敷に住み、グランの王都民としての手続きや、皆さまへの挨拶が終わったところで、アスカは新居をギルドに申請しなさい」
「はい」
「最も問題なのは、グランの所属をどうするかだ。この王国では夫の所属するクランやギルドに妻も所属することが慣例となっている。そうなると、グランにはとりあえず俺のクランに所属してもらうことになる。もちろん、俺のクランで商売をしようが、物を作ろうが構わないが、それぞれのギルドには仁義は通さねばならん。アスカと正式に結婚するまでには、グランの身の振り方を決めておく必要がある」
「はい」
「そして何よりも、これからいろいろな人へ、アグリさんが亡くなられたことをお伝えして回らなければならない。まずは国王陛下ご夫妻からになるだろう。たぶん明日にお会いすることになるので、これから急ぎ国務院へ王都民証の申請に向かう。その後はライザさんの店に行って、クランの正装を急ぎ仕立ててもらわねばならん。すぐに向かうぞ」
あれよあれよと物事が進行していく。まずは国務院?へ行くそうです。
3人は急ぎ国務院へ向かった。グリム様が母さんの養子として僕を登録してくれ、その後、僕を王都民として登録してくれた。もともと母さんは王都民だったそうで、僕を母さんの養子にすることで、僕はそのまま王都民として登録されたらしい。王都民証も受け取り、早速首にかける。
次に大きな服飾店に連れていかれた。年配の女性が出てきた。グリム様は、僕のことをアグリさんの息子だと紹介していた。明日に国王陛下の御前に伺うと伝えると、嫌な顔をしながらも、明日の朝までに仕立ててくれると請け負ってくれた。僕とアスカは採寸のためにお店に残ったが、グリム様は用事を済ませに回ると言って、1人で先に店を出て行った。僕たちも採寸を終えたところで、まっすぐ屋敷へ戻ることにした。
屋敷に戻ると、セイラさんがさっさとお風呂に入ってきなさい!と言ってお風呂に連れていかれた。久しぶりのお風呂は生き返るような心地よさだった。お風呂から上がると、セイラさんに居間に案内されて、食事が始まるまでここで待つように言われた。アスカは自室で荷物の片付けをするようだ。
しばらくして、グリム様が戻ってきて、すぐに食事になった。ここではお手伝いさんのセイラさんも一緒に食事をするのがルールだった。
4人で食事をしながらの話題は、明日の行動予定だった。まずガルム伯爵家へ行ってご挨拶と王宮へ行く準備。ガルム伯爵家はグリム様のご実家だそうだ。その後、すぐに王宮へ伺い、国王陛下へご挨拶。王宮の後にグリス侯爵家へ向かい、グリス侯爵家で昼食をいただきながらのご挨拶。グリス侯爵家は母さんがお世話になった家。母さんから何度も話しを聞かされていた。しかし、伯爵家に王宮に侯爵家、どんな1日を過ごすのか心配になる……
食事が終わると、明日は朝から忙しいからと、もう休むように言われる。僕はアスカの隣の部屋に案内された。部屋に入るとやることもない僕は、早々にベッドへ横になった。しばらくすると、そっと扉が開き、アスカがこっそり部屋へ入ってきた。僕は驚いた顔でただアスカを見つめるだけだった。アスカはここが私の定位置とばかりにベッドに入り込んできて、僕の横にぴったりとくっついてきた。
「お父様に結婚を許してもらえた。これでアスカは僕の奥さんだ。嬉しいよ」
「はい、私も旦那様のお嫁さんになれて幸せです」
「これからは何があっても2人はずっと一緒だから」
「はい、私も決しておそばを離れません」
僕はアスカを抱き寄せ、2人で寄り添うように眠った。とても幸せな眠りだ。




