6話 湖畔で過ごす時間
湖畔の散歩はのんびり馬を進めているせいか、僕の前に座っているアスカの様子がよく見える。きれいな銀の長い髪に銀の髪留め。髪留めにはひまわりの飾りが付いている。
「アスカもひまわりが好きなの?」
「ヘアカフスのことですか?はい、ひまわりは大好きです。このヘアカフスもこの湖で買っていただいた物なんです」
「母さんもひまわりが大好きな人だったよ。騎士様からプレゼントされたひまわりのブローチを、一生大切にしていた」
「私もこのヘアカフスだけは、お父様から贈られた初めての品なので、大切に使い続けていきます」
「僕とアスカもお父様の結婚の許可をいただけたら、何か結婚記念の品を作りに行こう」
「はい、楽しみにしています」
おしゃべりに興じていると、あっという間に目的地の宿屋街に到着した。僕たちが宿泊している宿屋の対岸の街には料理専門の店もあり、魚のおいしい料理店もあったそうだ。アスカに案内されて早速料理店へ入る。店は空いていて、アスカはテラス席を頼んでいた。席に着くと、もちろん魚料理を注文した。
「前回もお父様とこの席に座りました。お金を始めて見せられて、自分で支払いもしてみました……そうです、ここはレモネードもおいしかったのですよ」
「では、レモネードも注文しないとね!」
僕は店員さんにレモネードも2つ追加注文した。
料理とレモネードが運ばれてきて、早速2人で食べ始める。アスカは食事のとき、とても幸せそうな顔をしながら食べる。ここまで喜んでもらえると作り甲斐がある。僕も旅の途中でもついつい腕を振るいたくなっていた。
「アスカは食事をしているとき、とても幸せそうな顔をしているんだよ。そんなアスカも大好きだ!」
「……」
アスカは真っ赤になってうつむいてしまった。食事の時は普通の会話をしないと可哀そうだ(笑)
食事を終えて散歩を再開。アスカはボートに乗れる店があると言っていたけど見つけることができない。たまたま見かけた木こり?のおじいさんに聞いてみると、何年も前に店主が亡くなって、店もボート施設も撤去されたそうだ。アスカはがっかりしていた。
「お父様にヘアカフスを買っていただいた店だったのです。釣ったお魚もご馳走してくれたのに残念です」
「思い出の店が無くなったのは残念だったけど、アスカの中の思い出が消えるわけでもないし、そう残念な顔をしないで。せっかくの美人が台無しだ」
「……今日の旦那様は意地悪です。恥ずかしいことばかり言います」
「ごめんごめん、でも本当にアスカは美人だと思っているよ」
「……もう何も言いません!」
アスカは他所を向いてしまった(笑)
ボートはお預けとなり、仕方がないので早めに宿へ戻った。宿まで戻っても時間はまだあるので、馬を預けた後に昨日行った湖畔にまた行くことにした。
湖畔にベンチを見つけたので、そこへ2人並んで腰かけることにした。よい機会なので僕はアスカに聞いてみることにした。
「アスカ、少しまじめな話しをしてもいい?」
「はい、何でも言ってください」
「アスカは剣士を続けたいんだよね?」
「続けられたら嬉しいです。でも私の本心を言えば、やはり旦那様のそばにいたいです」
「僕がアスカについて行くことはできそう?」
「できると思います。そして皆さんに感謝もされると思います。でも旦那様を連れて行くにはとても危険な場所です」
「でも、そんな危険な場所へ、僕は奥さんを1人で行かせることになるの?」
「……ごめんなさい、うまく伝えることができなくて。私にとっては危険な場所ではないのです。子供の頃からダンジョンに行っていましたから」
「ダンジョン?何かの本で読んだことはあるけど、詳しくは知らない。そこがアスカが戦っている場所なの?」
「はい、王都の隣にある地下の空間です。地下は何十階層もあります」
「お父様や仲間の人たちとそこへ戦いに行くんだ」
「はい、お父様のクランに所属しています。そのクランの参加メンバーと一緒にダンジョンに行って魔獣の討伐をしています」
「冒険者クランと冒険者ギルドだったかな?それも本で読んだだけの知識しかないけど」
「お父様のクランは王国内では有数の強い有名なクランです」
「それなら、アスカがクランから抜けると、お父様も他の人も困ってしまうのでは?」
「……正直どうなるかは分かりません。確かに戦力ダウンにはなります。でも、クランが持つ戦力で戦うだけのことかもしれません」
「僕がアスカについて行きたいと言ったらどうする?」
アスカは今にも泣きだしそうなほど、心配そうな悲しい顔になった。
「旦那様が私のために危険な場所へ行くのは、私には耐えられません」
「でも、僕もアスカを1人だけダンジョンに行かせるのは嫌だよ」
「ですから、私が剣士を辞めます。それでお許しください……」
アスカはついに堪えきれず泣き出していまった。僕はアスカの肩を抱き慰める。
「アスカを困らせたくない。でもお父様もクランの皆さんも困らせたくない。だからアスカが僕を連れて行っても不安にならないくらい、僕のことを鍛えてもらうのではダメかな?」
「……」
「ねえ、アスカ。アスカが僕と結婚することで、何かを諦めることになるのは、僕は耐えられないよ。もし僕がアスカと結婚するために何かを犠牲にしたら、アスカだって反対するでしょ?」
「はい、私と結婚するために旦那様が何かを諦めるなんて認められません」
「それと一緒。だからアスカにも一緒に考えて欲しい。僕がダンジョンに一緒に行ける方法を」
「分かりました。クランの皆さんも含めて一緒に考えます」
「ありがとう、アスカ。やっぱり僕はアスカが大好きだ」
僕は初めてアスカにキスをした。アスカはきょとんとした顔をして固まってしまった……




