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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
3章 夢を紡ぐ2人編
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5話 思い出を辿る旅

 山を下り旅を始めた翌日、大きな道をそれて小さな村へ向かう。アスカの生まれた村らしい。村はアスカを除いて全滅だったと聞いた。アスカが落ち込んだりしないか心配だ……


 村に着くと、見慣れぬ来訪者に村長と思われる人が話しかけてきた。やはり村長だった。アスカは用件を伝えた。



「私はこの村が魔獣に襲撃されたときの生き残りです。亡くなった両親に挨拶がしたくて立ち寄らせていただきました」



 すると村長は村の端にある小高い丘の上に作られた石碑まで案内してくれた。石碑には襲撃で命を失った村民の安らかな眠りを願うと書かれていた。村民の名前も刻まれていたが、アスカはどれが自分の両親かも分からないようだった。僕とアスカは並んで手を合わせる。村の生き残りだった人の来訪と聞いて、現在の村民の皆さんも仕事の手を止めて集まってくれ、皆さんも手を合わせてくれた。



「お嬢さんのご両親を始め、多くの村人がこの村を耕し育ててくれていた。今の村民は先代の村民の努力を受け継いで、何とか暮らしていられる。とても感謝しています」



 村長が代表してお礼を述べてくれた。僕はこれからも供養をお願いしますと村長に少しばかりのお金を預けて村を出発した。馬に揺られながら、アスカは僕にお礼を言った



「両親に旦那様と2人で来たと報告できました。嬉しかったです。ありがとうございました」


「僕もアスカの両親に紹介してもらえて嬉しいよ。ありがとう」



 少ししんみり気分で旅を再開した……




 村に寄った数日後のこと、アスカがどうしても僕と行きたいところがあると言って、寄り道をすることになった。馬を目的地に向けて歩かせること数時間、目の前にきれいな湖が見えてきた。



「ここは両親を亡くした私を励ますために、お父様が連れてきてくれた場所です。私の大切な思い出の場所なので、旦那様にもお見せしたくなったのです」


「僕は生まれて初めて湖を見たよ。こんなに大きなものとは思ってもいなかった」



 アスカは知り合いの宿なのか、迷うことなく1軒の宿に入って行く。幸い2人用の部屋が空いていたので、部屋を借りることにした。もうすぐ夕方になる頃でもあり、遠出は明日にして、今日は宿の近くの湖畔を散歩することにした。自然に手を繋いで散歩を始める。



「母さんは絵を描くのが好きな人だった。自室の壁に自分で描いた絵を何枚か飾っていたんだ。その中にこんな湖畔の景色が書かれた絵もあった。脇に騎士様が書かれていた絵もあった」


「お母様の想い人だったのですか?」


「たぶん、そうだと思う。その騎士様は僕のことも助けてくれた人らしい。その人を訪ねるように母さんから言われているんだよ。近衛兵団に所属していると言っていた」


「近衛兵団の方なら貴族の方ですね。私も知り合いが何人かいますので、王都へ着いて落ち着いたら一緒に近衛兵団に行きましょう」


「そうだね。でもまずは、アスカのお父様にお会いして、アスカをお嫁さんにもらう許可をいただかないと」


「はい、私もお父様には祝福して欲しいと思います」



 その後、宿屋へ戻り食堂で夕食を食べた。アスカが勧めてくれて魚の料理を頼んだら、驚くほど新鮮でおいしかった。川魚よりも大きくて食べ応えもあった。今夜もアスカとビールを1杯ずつ飲んでほろ酔い気分。いい気分で部屋に戻る。明日は湖畔を馬で散歩することにして、今夜は早めに眠ることにした。僕がベッドへ横になると、アスカも僕のベッドで横になりぴったりくっついてきた。僕はアスカの頭をゆっくり撫でていた。



「アスカは甘えん坊だ」


「はい、ここが私の定位置なんです。ですから、これからは毎晩ここで眠ります」


「うん、僕も嬉しい」



 こうして幸せな気分で眠りにつくのだった。




 翌朝起きるとアスカの姿はなかった。僕はいつもの訓練だろうと思い、窓から外を見る。やはりアスカは剣を振る訓練をしていた。僕と出会ってからも1度も休んだことがない朝の訓練。子供の頃からの日課らしい。自宅ではお父様と立ち会いをすることも多いとか。剣士の家族は庶民とは違うようだ。しばらくすると、アスカが汗を拭きながら部屋へ戻ってくる。



「アスカ、おはよう。今朝も訓練お疲れ様」


「旦那様、おはようございます。子供の頃からの習慣なので、旅先でも欠かさず訓練はしてしまいます」


「アスカは剣士を続けないといけないね。せっかくお父様に立派な剣士になるよう育ててもらったのだから。僕がアスカの手伝いができればいいんだけど……王都に行ったら何ができるか一緒に考えよう」


「はい、旦那様」



 この宿は朝食持ち出して外で食べることもできるらしく、アスカは食堂でサンドイッチとジュースを頼んでいた。そして2人で馬にまたがると、早速出発した。今日の散歩は、昔アスカとお父様の行ったところをもう一度行ってみる予定でいる。それで朝食も持ち出したらしい。馬を歩かせ始めた僕たちは、まずは森に近い湖畔で朝食を取ることにした。



「お父様はいつも、大きなリュックを背負っていました。こうして休憩になると、そのリュックを横倒しして、私をリュックの上に座らせてくれました。いつでも私のことを一番に考えてくれる優しいお父様です」


「アスカのお父様はどんな方なんだろう?お会いするのが楽しみだ」


「お父様は頼りがいがあるものの、とても優しくもある人です。剣に対してとても真摯に取り組まれています。昔の失敗を二度と繰り返さないためだと話してくれますが、詳細までは教えてくれません。お父様にとって辛い思い出のようです」


「誰にでも辛い過去があるんだね。僕の母さんも、ある男性との別れを一生悲しんでいた。好きな人と添い遂げられない悲しみは一生癒えないんだね。それに比べると、アスカと一緒になれた僕は幸せ者だ」


「旦那様、そのように言われると照れてしまいます……」



 いい雰囲気で湖畔の散歩はスタートしたのでした。


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