3話 衝撃の告白
僕とアスカさんの探索の旅が始まった。とはいえ、僕の目的の薬草は半月も歩き回れば十分見つけることができる。なので、僕のリュックに入っている物やミスリルも、より良い物があればと探すことにした。それと、僕は母さんと歩き回った山々なので、景色の良いところにもアスカさんを案内したりもした。
いろいろな景色を見た。いろいろな花や木や草花を見た、鳥も動物も昆虫も見た、分からないものがあればエコに聞いてみた。アスカさんの真剣に剣を振る姿も見た。恥ずかしそうにはにかむ笑顔も見た。僕を気遣う優しい心にも触れた。何よりも純粋でまっすぐなアスカさんの心を知った。
次第に並んで歩くようになり、次第に手を取り合って助け合いながら山を登ることが増え、そして次第に2人の距離は近くなっていった。
夜は当然野営になる。僕はなるべくアスカさんに快適に眠ってもらえるように、母さんが使っていた組み立て式の簡易ベッドも用意した。こんなベッドでも下にふわふわの毛布を敷くと、それなりに眠れるベッドになる。アスカさんも旅でこんなに快適に眠れるのは始めてだと喜んでくれた。
食事もできる限り野生の動物を狩ったり魚を釣り、新鮮な素材で料理を作った。薪はすぐに使い切ってしまったが、この辺なら携帯用の固形燃料を僕の魔法で複製できるので、固形燃料を使用して料理や暖をとるようにした。料理についてはアスカさんは長旅でカルパスばかり食べることもあるそうで、僕のお手軽料理でもおいしいと喜んで食べてくれた。
のんびり散策をしていたが、僕が探していた最後の素材も無事に採取を終え、アスカさんに渡すミスリルの作成も残り1つとなった。もう山の下山途中でもミスリルを作り揃えることは可能だろう。ただ僕は、最後にアスカさんにどうしても見せたい景色があった。そのことをアスカさんにお伝えすると、アスカさんもぜひ見たいと言ってくれて、2人でその場所へ向かうことになった。目的地はある山の山頂。この王国では最も高い山に属し、人が登ることは無理だと言われている場所。なにせ断崖絶壁の崖の上だからだ。でも母さんは僕をそこへ連れて行ってくれたことがあった。魔法の手によって崖の上の岩に手をかけて引き上げたからだ。その景色は絶景で声を失うほどの美しさだった。最後に僕自身も見ておきたかったのもあったが、アスカさんにもぜひ見せてあげたくなった。
2人で山を歩き数日、崖の下にたどり着く。僕は魔法の手を出現させ、崖の上の岩をしっかりと掴む。そして左手でアスカさんをしっかり抱きよせる。アスカさんも僕にしっかり抱きついてくれて、いよいよ崖の上に登る。
崖の上は平らな部分もあり、寝たり食事をしたりは苦にならない。それどころか、さすがの魔獣も野獣もここまでは来ないので、2人だけの安全な空間だった。僕はテーブルとイス、それにベッドを2つと、念のためテントも用意した。お茶を入れて2人並んでイスに腰かける。360度見回しても僕たちよりも上にあるものは何もない。なんだか2人して、とても解放された気分になっていた。
僕たちはここにたどり着くまでに多くのことを話していた。僕が孤児で母さんに助けられ育ててもらったこと。アスカさんが両親を魔獣に殺され、お父様に助けられ育てられたこと。2人は似たような境遇だった。それだけに母さんを亡くした僕の悲しみを、アスカさんは親身になって理解し同情もしてくれた。母さんがとても変わった魔法士で、あらゆることを魔法で解決するような人だったとも話した。アスカさんは僕のことをお母様に似たのねと笑っていた。アスカさんのお父様はとても強い剣士様だと教えてくれた。孤児を経験した2人には普通に結婚して、普通に子供を授かり、いつでも家族が寄り添って暮らせていける、そんな普通の家庭を作るのが夢だと語り合った。
夕方になり、アスカさんと並んで夕日を眺めた。母さんと眺めた夕日も素晴らしかったが、アスカさんと眺める夕日も素敵だった。陽が沈むと真っ暗になる。ただ、満天の星空もまた格別だった。僕はランタンを置いて料理を始める。せっかくなので僕の得意料理のチキンソテーを振る舞うことにした。トマトのソースをさっと上からかけ、その上にチーズをのせる。スープは野菜のスープをチョイスする。パンとジャムとチーズ。せっかくなのでワインも出すことにした。アスカさんはテーブルに並べられた料理を見て喜んでくれたが、少し悲し気な顔もしていた。どうしたのか尋ねると、アスカさんは子供の頃から剣を振る生活をしていたため、料理はほとんどしたことがないそうだ。こんな家事を何もできない女をお嫁さんにもらってくれる人はいませんねと寂し気に話していた。僕は強く否定した。この1カ月近くをアスカさんと2人で旅をして、アスカさんがとてもまっすぐな心を持つ、素敵な女性だと思ったことを伝えた。アスカさんは僕の力説を聞き、少しうつむき気味に真っ赤な顔になってしまった。
食事とお酒を終えて、僕は紅茶とクッキーを用意してから明かりを消した。辺りは真っ暗になり、きれいな星空に包まれた。僕は改めてアスカさんにお礼を言った。母さんを亡くしてたった1人だったら、どんなに心細い旅になっていただろうかと。そして、たわいもないおしゃべりをしながらお茶とお菓子を楽しんだ後にベッドに横になる。しばらく夜空を眺めていれば、2人は眠りについていた。
翌朝、僕が望んでいた景色が目の前に現れていた。山にびっしりと敷き詰めたような雲の層、雲海だ。そろそろ陽が登る頃、僕はアスカさんを揺り起こす。そして2人で日の出を待つ。徐々に太陽が顔を出す。僕はその美しさと力強い景色に圧倒されて、思わずアスカさんの手を握ってしまった。アスカさんも同様に僕の手を握り返してくれた。そして陽がすっかり登った頃、アスカさんが振り向き、僕に向かって話し始める。
「グランさん、私をグランさんのお嫁さんにしてもらえませんか?」




