【幕間挿話】その後のグリムとアスカ
俺とアスカの日課は変わらない。朝起きれば訓練を始め、終われば風呂に入る。さすがにもうアスカと一緒に風呂に入ることはなくなったが……
食事は家で取ることが多くなり、リイサさんの店に行くのは外出した日や特別な日のみとなっていた。まぁ、外出が多いのでリイサさんの店にもそれなりに顔は出しているが(笑)
セイラさんには再婚を勧めたがその気はないらしい。3人の不思議な関係がそのまま続いている。ガンズの家では女の子が2人生まれ、ガンズは娘たちに骨抜きにされている。ダンジョンでの勇ましい姿は地下へ置いてきていると思えるほど、地上では娘たちに甘い父親だ。マルスとリサは結婚して、男の子2人を授かっている。マルスとリサは結婚しようが子供が生まれようが、ダンジョン探索への情熱は冷めることがなかった。
アスカが8才になったとき、困ったことが起こった。アスカの冒険者レベルが10に達したのだ。俺はギルド長と相談し、私兵団は成人もしくは成人未満の場合は本人と保護者の同意によって所属すると変えてもらった。ギルドも未成年が高冒険者レベルに達することを想定していなかったらしい。俺としてはアスカは成人するまで私兵団に所属させるつもりはなかった。もちろん俺が戦いに行くときには、必ず連れては行くのだが。
その翌年、アスカは9才となり冒険者レベルが11となる。私兵団へ所属していないので、屋敷の提供などの特典も受けていない。また、俺も冒険者レベルが14に上がった。これをもって31階層のボスを討伐することとした。アスカも戦力として考えている。もう俺との連携も申し分なく動いてくれ、正確な突きは頼もしささえ感じられる。ガンズやマルスはレベルこそ13のままだが、13に上がったばかりの頃とは比べようもないほど安定した動きをする。もう何の不安もなく準備は整ったのだ。
31階層のボスは30階層のボスと同系のボスだ。ただし全身が赤い。ガンズもマルスも赤いボス、すなわち強化版のボスは初めてだと言っていた。30階層の時にも苦戦を強いられていただけに、強化版となると俺たちも遭遇しては逃げ帰るを繰り返していた。しかしようやく戦いを挑める!
31階層のボス戦でも作戦は基本的に変わらない。右手にガンズとマルス、左手は俺とアスカ。アスカが攻撃に参加してくれることで、ボスの体の両側に意識を分散させられるのは大きい。そして回転切りは3回転目を俺が1人で止めることにした。
準備万端でダンジョンへ向かい、31階層にたどり着く。ボスを探してさ迷い歩き、ようやくボスを発見する。皆が位置について、いよいよボス戦が始まる。アスカには俺の後ろに隠れていて、隙を見つけて攻撃しろと指示を出していたが、アスカはお構いなしに左手への攻撃を繰り返し行っていた。アスカの攻撃に左手の動きは緩慢で俺も大盾の出番は少なく、細剣の突きを連発した。左手の攻撃を嫌がるボスだが、右手もガンズとマルスによって思うように動かせない。おまけにマルスは右足への攻撃も加えている。マルスは開戦早々から、すでにとどめのラッシュに近い攻撃になっている。気合入り過ぎだ!だが、苛烈な攻撃にボスは左手の武器をあっさりと手放す。俺とアスカは左足への攻撃を中心に切り替える。マルスも左足の攻撃に参加するようになり、ボスはたまらず左ひざを地についてうずくまる。ここまでくれば俺たち3人は魔石を狙っての攻撃も加える。あれほど苦しめられ続けた赤いボスは、今はなすすべなく、俺たちの攻撃を受けるだけになる。そして光の粒となり消えていった。このボス討伐によって、ガンズとマルスも冒険者レベルは14に上がった。
アスカが13才の時に、冒険者レベルが14に上がった。ついにアスカも俺たちと同じレベルに並んだのだ。俺はアスカを祝ってやりたくて希望を聞くと、子供の頃に俺と行った湖に行きたいと言われた。俺はアスカと行った湖でなく、王都の北のアグリさんと行った湖をアスカにも見せてやりたくなった。アスカにその話しをすると、アスカもそこがいいと喜んでいた。俺は思い切ってクランの全員とその家族、セイラさんを始め皆のお手伝いさんも含めた大人数での旅を提案した。皆が賛成してくれて計画が実行となる。俺は兄上にお願いして別荘をお借りし、皆で1カ月間をのんびり過ごした。
俺は良い機会だと考え、アスカに馬の乗り方を教え、世話の仕方も教えた。私兵団と言えども馬には乗れた方がいいだろう。子供の時のように、今回の旅もアスカの記憶に残る楽しい旅であったらと思った。
アスカが15才になり、32階層のボスへ挑みたいと言い出した。俺は来年、アスカが成人してからを考えていたが、アスカは心身ともに充実しているようだ。ガンズとマルス、それにリサもやる気になっていた。リサは何やら新しい魔法を準備したらしい。
32階層のボスはカークスと呼ばれ、頭が3つある巨人だ。厄介なことに火を吹く。火は大盾で防ぐ以外に方法がない。上段からの強烈な振り下ろしがレベル14でも厳しかったが、この攻撃を想定した訓練を何年も続けてきたことで、今なら受け流すことができると考えている。そして、アスカには安全なボスの背後から突きまくってもらう。この作戦に異論がある者はいなかった。皆のやる気を感じ作戦を決行することにした。リサの新しい魔法は地面に穴を空け、ボスの足を地面に埋めてしまうもので、動きを遅くする効果は大きかった。用意周到な俺たちは、当然のようにボスの討伐に向かう。ガンズとマルスは顔と腕を受け持ってくれて、俺やアスカに腕による攻撃をさせないように努めてくれた。俺は顔から吹かれる炎だけを大盾で防ぎつつ、隙を見ては魔石への攻撃を加える。前方からの魔石の攻撃を気にしてか、後ろからのアスカの攻撃は無視されていた。いや、無視せざるを得なかったのだろう。どちらが止めを刺したのかも分からないほど、激しい突きを加えていた俺とアスカ。ようやく光の粒となり消えるボス。戦利品は6つの目と思われる、丸い透明な水晶玉だった。この討伐で前衛4人が冒険者レベルが15に上がる。冒険者レベル15は世界でも最高レベルだった。残念だがその後すぐに冒険者レベル16が他国で登場してしまうのだが……
アスカが16才になったところで成人し、正式に私兵団に加入する。ギルド内でもいきなり最高ランクに名が掲げられ驚く者もいたが、昔からの冒険者は肩車の嬢ちゃんが立派になったと好意的で歓迎ムードだった。そして翌年、17才になったアスカは冒険者レベル16になり、世界で2人目のレベル16到達者となる。国王陛下(以前の皇太子様、フィーネさんの旦那様)からもお祝いを賜った。ただ、この年は悲しい出来事もあった。ガンズの奥方のエイミさんが永眠された。ガンズは俺たちクランのメンバーに礼を言った。あの時に金を稼ぎに行かなかったら、妻がこれまで生きていられなかったし、子供を授かることもできなかったと。
俺たちは思い切って、年内はクランとしてはダンジョンへ行かないと決めた。そして思い思いに時間を使うこととなった。驚いたことに、アスカは1人で旅に出たいと言い出した。生まれた土地を見てみたいのと、新しい剣を作るためにミスリルを探してきたいそうだ。その旅の中で自分を見つめなおし、自分を磨きたいとのことだった。俺は迷ったが許可することにした。アスカももう成人であり、そもそもこの王国にアスカに危害を加えられる者などいないのだから。
アスカは旅支度を整え馬にまたがる。俺はアグリさんからもらった外套をアスカに貸し与え、アスカはそれをまとっていた。
「お父様、我がままを聞いていただき感謝します」
「アスカ、しっかり自分の目で生まれ故郷を見てくるといい。俺とアスカが旅してきた道のりは簡単に地図に書いておいた。それらも寄ってくるといい」
「はい、お父様。行ってまいります。皆さんもお見送りありがとうございました」
こうしてアスカは馬にまたがり1人旅に出ていった。




