2章最終話 30階層ボス討伐報告2
リイサさんの店で昼食を食べ終え、セイラさんとはここで別れた。俺たちは再び貴族街の門をとおり、兄上の屋敷に向かった。兄上は遅い昼食を済ませお茶を飲んでいたようで、そのまま俺たちは食堂へ案内された。食堂へ行くと紅茶とケーキが出され、マチスと書記の女性も席についた。
俺たちは30階層のボスの討伐と31階層の敵についての情報を兄上に報告する。兄上には事細かに質問され、秘書にも細かい記録の指示をだしていた。そして俺は最後にマチスに頼み、30階層の地図と3つの品をワゴンに乗せてもらい、兄上にお目にかけた。
「兄上、そちらの品と30階層の地図は国王陛下に献上したいと思います。兄上からお手続きをお願いします。うろこと鎌はサンプルとして兄上にも献上します」
「国王陛下からは戻り次第、すぐに伝えよと言われていた。明日は午前中に国王陛下と打ち合わせをし、そのまま昼食をご一緒することになっている。そなたらも昼食に同席させ報告をさせよう。明日は10時に屋敷へ来い。ここから王宮へ向かう」
「かしこまりました」
その後は兄上から地上の魔獣が増えていることを聞かされる。近衛兵団が討伐へ向かう機会が増えるので、ダンジョンの1階層から20階層のボスの討伐は、冒険者ギルドに委託することも検討されているようだ。俺たちのクランにも討伐依頼が来るだろう。
国王陛下にお会いする日は貴族街の門の前に礼服で集合した。皆が揃ったところで兄上の屋敷へ向かう。兄上の屋敷でリサとアスカが髪を整え終えたところで早速出発となった。城門では守衛からよくやった感が漂っていて、歓迎してくれている雰囲気が伝わってきた。王宮の玄関前ではバストンさんが待っていたので、俺は国王陛下に献上する品と30階層の地図を渡した。
兄上は国王陛下と打ち合わせをされるため、国王陛下の執務室に向かわれる。俺たちは控室に案内されてお茶とお菓子をいただいた。リサとアスカは大喜びでお菓子を楽しんでいた。そんな中、ガンズがぼそりと口にする。
「魁に所属する前は、王宮でお茶をご馳走になるなんて思いもしなかったな」
「そうですね。他の冒険者でも直接国王陛下にお会いしたなんて、聞いたことなかったです」
「ああ、グリムがかかわっているから、国王陛下も魁からは状況を正確に聞けると思っているのかもしれん」
「2人は王宮に呼ばれるのは嫌か?」
「何度来たところで慣れることはない。しかし、名誉なことだとは思っている。子供が生まれたら、国王陛下と食事をしたことがあると自慢話しができるからな(笑)」
そんなたわいもない話しをしていると、バストンさんが俺たちを迎えに来てくれた。俺たちはいつもの食堂?へ案内される。国王陛下、皇太子様、兄上がすでに席に着いてたい。俺たちは部屋に入り、臣下の礼で挨拶をし、席に案内された。
「魁の皆、30階層のボスの討伐、大儀であった。そして30階層の地図も受け取った。感謝しておる」
「前回、国王陛下とお約束しておりましたので、お約束を守れてホッとしております」
「戦利品も献上してくれたそうだな、ピンクのクリスタルは貴重な物らしい。魔法士がこぞって効果を調べると張り切っておったそうだ」
「ミスリル装備のお礼です。ありがとうございました。31階層にも足を踏み入れてみましたが、31階層は魔獣のレベルが1段階高い印象を受けました。攻略には時間がかかると思われます」
「他国も31階層には手を焼いているようだ。王国としても情報収集を行い、何か分かれば冒険者ギルドへ伝えておこう」
「ありがとうございます。我々も随時ギルドへ報告をさせていただきます」
そしていよいよ食事が始まる。食事を楽しんでいるのはアスカだけで、他のメンバーは緊張で味が分からないのではないか?食事をしながら皇太子様がお話しになる。
「上位冒険者の住まいの提供がまだらしいな?ギルドは何と言っておった?」
「はい、国王陛下との謁見を終えてからだと……」
「何?、予と会った後にすると?」
「はい、申し上げにくいのですが、ギルド長は国王陛下から追加の報酬の話しがでるからと言われていました」
それには国王陛下と皇太子様が笑いだされた。皇太子様がようやく笑いを終えて。
「あはは、ギルド長らしいな。報酬の二重取りはさせないつもりらしい」
「どういうことでしょうか?」
「国王陛下からの報酬と、ギルドからの報酬で、重複した報酬については国王陛下からの報酬のみで済ませるつもりなのだろう。そうすればギルドの腹は痛まぬからな」
「なるほど。それではわれら魁も、国王陛下へのご報告の前に、ギルドへの報酬の申請が必要でございますか……」
皇太子様は苦笑しながら。
「グリム、あまりギルド長をいじめるな。そういえば、リサ。フィーネから聞いたが、魔法学校卒業後は住まいがないそうだな。どうするつもりだ?」
「はい、グリム殿の家に居候させていただきます」
「おいおい、30階層のボスを倒したお主が、他人の家に居候か?国王陛下、皆と同じ屋敷を与えてはいかがでしょう?このクランに所属していれば遅かれ早かれ冒険者レベルは追いついてくるでしょうから」
「確かに、皇太子の申す通りだ。皆と同格の屋敷を提供するようギルド長へ伝えておく。合わせて前回の報酬も含めて今回は報酬を渡さねばな。これもギルド長へ伝えておく」
「はい、ご配慮ありがとうございます」
こうして国王陛下との食事会は終わり、国王陛下と兄上は午後の打ち合わせに向かわれた。2人を見送った後、皇太子様も席を立たれるご様子なので、俺は確認をしておくことにした。
「皇太子様、お尋ねしたいことがあるのですが、お許しいただけますでしょうか?」
「ああ、何なりと申してみよ」
「ありがとうございます。王国より賜った屋敷や拠点の敷地内に、建物を建てることは許されていますでしょうか?」
「敷地内であれば問題はない。ただ、グリムの場合は死後は取り壊される可能性があることは承知しておけ。何か建てたいのか?」
「はい、まだ私1人が考えていることですが、いずれは孤児院を建てたいと思っております」
「孤児院?どうして冒険者の其方が孤児院を?」
「はい、アグリ殿を護衛した道中でアグリ殿が孤児と出会い、私もその旅の帰りにアスカと出会いました。リサはこの年になりましたが、母を亡くし身寄りがなくなったと言っております。世の中には孤独な人間が思いのほか多いのではないかと考えました。なのでせめて子供だけでも、大人になるまでの手助けはしてやりたいと思います。幸い冒険者は儲かりますので、孤児にひもじい思いをさせない程度には何か支援ができるのではないかと。私の戦う目的ともなりますので」
「孤児院の話しは、フィーネからも相談されていた。国王陛下が動くと何かと事が大きくなってしまうので、グリムが主になり、フィーネや儂が後援の方が都合が良い。フィーネと話してみてくれ」
「かしこまりました」
こうして王宮への報告も終わり、30階層のボス討伐は完了した。兄上の屋敷へ戻り、貴族街の門を通過し、各々の家へ帰宅した。これからも戦いを伴うものの、冒険者としての平凡な毎日の繰り返しが始まる。
2章 世界最強の剣士編 完




