48話 30階層を目指す2
27階層の岩場で寝ていると、アスカに起こされた。
「お父様、朝の訓練」
「分かった。ちょっと待ってくれ」
俺は目をこすりながら水を一口飲む。そして剣とアスカを担いで水場の辺りへ移動する。
「アスカ、ここでいいか?」
「うん、あの岩を目印にする」
早速、アスカは構えては突くを繰り返す。1突き1突きが真剣そのもので、目の前の想像の敵を突いているのだろう。大したものだ。
「赤いワーウルフは早かったか?それともちゃんと見えてたか?」
「見えてた。魔石も見えた。だから一撃」
「父と立ち会ってみるか?」
「立ち会う?立ち会うって何?」
「父と訓練で戦ってみることだ。やってみるか?」
「うん、やってみたい」
「よし」
俺とアスカは少し距離を取り、向かい合って立った。お互いに剣を構える。対峙してみると、アスカの構えはなかなか隙がなくていい。俺は様子見に仕掛けてみることにした。軽く突きを打つと、アスカは横にステップする。アスカは俺の戦い方をずいぶんと見て覚えたようだ。アスカは反撃に出るか迷ったようだが、構えのままこちらの動きを待った。俺はまた突く。アスカは同じようにステップして避ける。しかし、俺はアスカの移動した方へもう一度突く。アスカは一瞬厳しい表情を見せたが、後ろに大きく下がることを選択をした。いい判断だ。時間を稼ぐことを選んだようだ。アスカは下がった位置のまま俺の動きを待っていた。望みどおりに動いてみる。俺は距離を縮めるようにゆっくり歩く。するとアスカが大きく跳ねるように突いてくる。俺はアスカをまねて横にステップしてよける。アスカは俺の方へ体を向けるが、俺はアスカを抱きかかえ、そのまま肩車してしまう。
「どうだった、アスカ。人と立ち会うのは難しいだろ」
「はい、お父様は強いです」
「アスカも一生懸命訓練しているのがよく分かった。とても強くなったな。次はまたアスカと2人でダンジョンに来よう」
「はい、お父様」
皆のところへ戻ると、皆はだらだら過ごしていた。ガンズはすでに酒を飲んでいた。
「ガンズ、朝から酒とは優雅だな」
「今回はたんまり持ってきた。失敗すれば死んじまう可能性だってあるから、酒ぐらいは好きに飲むのさ」
「ああ、いつでも俺たちは死と隣り合わせのようなものだ」
「お2人とも縁起の悪いこと言わないでください。私はせめて魔法学校の卒業式には出たいです」
「リサは危なくなったらさっさと逃げろ。時間は稼いでやる」
「ガンズさんを死なせたりしません。私だって黒魔法士なんですから!」
「リサ、よく言った。褒美に1杯飲ませてやる」
「……ありがとうございます?」
これでリサもぐうたらな1日が確定だ。
俺とアスカは朝食を食べた。その後、アスカに何かやりたいことはあるか聞いてみた。答えは「訓練」だそうだ。さすがに続けて訓練するのもよくないので、訓練はお昼ご飯を食べ終えてからと言った。俺は迷った挙句、アスカに字を教えることにした。俺はアスカを肩車して、剣の鞘を持って立ち上がる。大きくアルファベットを横に書いていく。
「アスカ、これは文字だ。見たことあるか?」
「伯父様のお家で本で見た」
「読めるのか?」
「うん、伯父様が教えてくれた」
「それじゃアスカの好きな卵は?父を動かして当ててみよう!」
「うん、えーと、Eだから右に行って!」
「了解」
俺は1文字1文字ステップするように歩いた。Eの前に来た時にアスカが「ストップ!」と言って俺を止める。
「お父様、Eです」
「はい、最初はE、次は何かな?」
「えーと、Gだから右に行って!」
「了解」
俺はまたステップするように右側に歩いた。
「お父様、Gだから止まって!」
「了解、Gだな。EGを選んだぞ。次は何かな?」
「Gだから……そのまま?」
「了解、またGだな。アスカはEGGを選んだぞ。次は何かな?」
「終わりです。EGGです」
「はい、正解です。では、正解したアスカには、自分でEGGと書いてもらいましょう」
俺はアスカを地面に降ろして剣の鞘を渡す。アスカは大きくEGGと地面に書く。俺は再びアスカを肩車して、上からアスカが書いた字を見せる。
「どうだ、アスカ。自分で書いた字は正しそうか?」
「うん、ちゃんと書けてる」
「そうだな、ちゃんと書けてる」
午前中はこれの繰り返して過ごした。昼食を済ませてからアスカを少し昼寝させ、起きてからまた訓練した。訓練の終わりに、また、立ち会ってやった。立ち合いも日課にしよう。その後、ポットにためておいた水を使ってアスカの体を拭いてやった。頭も洗ってやりたかったが、水がもうなくなった。
そろそろ夕食となる頃、昼寝をしていたガンズとリサも起きてきた。マルスは1日見かけなかったが、どうも1人で狩りをしていたらしい。ボス戦を前に元気なことだ。
「アスカ、今日は干し肉がいいか?ソーセージがいいか?」
「ソーセージ!」
するとリサが自分の分もソーセージを取り出し、ポットの中に入れる。
「ソーセージを茹でたい人はポットに入れてください」
皆が1本ずつ入れて、リサに任せる。リサは少し離れた場所にポットを持って行き「ボイル!」と詠唱。お湯たっぷりのポットを持って帰ってきた。しばらく待つと、リサがフォークに刺して1本ずつ皆に取り分ける。
「リサさん、ありがとう」
「はい、アスカちゃん召し上がれ」
やはり温めるとプリっとしておいしい。俺はパンとチーズとケチャップを取り出し、アスカの分はホットドッグにしてやった。アスカは大喜びだった。3人はもう酒を飲み始めていたので、俺も少し酒を飲むことにした。こうして休暇は終わる。アスカの勉強のことも地上に戻ったら考えてやろう。




